050603日常

 
  • 141読まれた回数:



050603日常

日常

作:いっしー

 救急出動を終え帰署中の車内を何気なく眺めていた時、ストレッチャーのギシギシと鳴る音や白で統一された壁や毛布の硬い感じが気になりました。病院の小児科みたいに柔らかい雰囲気にできないかしら。小さな子どもが乗っても怖がらないように。あやし道具としてぬいぐるみを置く?見せるだけなら問題はないけれど、触らせたり常時車内に飾っておくのは感染面で不安だし。どうしたら良いか考えていたとき、幼稚園児などが見学にきたら渡している署のネームが入った小さなマスコットを目にして「これだ!」と思いました。動物5種類、ストレッチャーに横になっていても椅子に座っていても見える位置に吊るしました。これなら、欲しいと言われたらあげることができ、感染面もクリアできます。

 ある日車両点検中、パンダがない。先輩に聞いたら「3歳の女の子がスキー場で骨折して搬送中にわんわん泣いていて、マスコットをあげたら痛みが紛れたのか泣き止んだ」とのこと。先日、予告指令が鳴り通信指令室へ行くと聞こえてくるのは子どもの声。「お母さんが過呼吸で苦しがっている。精神科に受診している。」現着すると小さな女の子が今にも泣き出しそうな顔で玄関の前に立っていました。母と子、2人暮らし。私たちは家の中の患者さんのもとへ。アルコールを飲み興奮し泣いています。過呼吸は治まっています。何度か同じ内容で運んだことがあります。あの不安でいっぱいの女の子の顔は1度見たら忘れられません。車内収容後の活動もある程度落ち着き、隊長から「家族のケアを」と指示を受け女の子の対応を行ないました。「何歳?」「6歳」「もうちょっとで小学生?」「うん、楽しみ」あ!マスコット。「動物なにが好きかな?」「猫」しっかり通報できてえらかったね。頑張ってねという気持ちを込めて猫のマスコットをあげました。

 ロシア船の中で怪我人が出たとの通報で出動した時のこと。ロシア船は日本では使われていないような古い漁船で、岸とはとても丈夫とは言えない木の板1枚でつながっています。このような症例を何度も経験している先輩は颯爽と船内へ。恐る恐る私が上がって行くとロシア人の男性が手を差し伸べてきました。よく映画で見るエスコートってやつですね。やはり外国の男性は女性に優しいなと感心しロシア語で「ダスビダーニャ」(笑顔)!あれ??ありがとうはスパシーバ。じゃあ‥‥ダスビダーニャって‥‥さようならだ!間違いに気付いたのは帰署中。先輩たちに「せっかく手を差し出して笑顔でさよならって言われたら俺は泣くね」と言われました。

 自分より気配りができ優しい男性はたくさんいます。ただ、女性という容姿が柔らかさを出しているのだと思います。声のトーンは特に。酔っ払いは男性隊員が話しかけると「なんだよ!」と、興奮。私が声掛けすると「すみませ〜ん」っておとなしくなる。それが効かずに暴れられるとピシっと叱りたくなる。経験が浅くまだ説得力がないので怒れずにいたらベテラン看護師さんが代わりにお灸をすえてくれる。かっこいい!女性がきつい一言を言っても強すぎることなく聞こえる。経験を積んで早くこうなりたいと思う反面、歳は取りたくない‥と思ってしまいます。見た目で体力を判断され不安がられるという短所もありますが、長所を活かしていつまでも女性らしさを大切にしていきたいです。

 患者さんや家族に接してから病院引揚までの限られた短い時間の中で、最高のケアをする難しさ。救急出動のたび揺れるマスコットを見ながら、頑張ろうと気持ちを前進させています。


<救急隊員日誌 目次へ

]]>

コメント

タイトルとURLをコピーしました