050805全脊柱固定の脊損防止効果は未確認
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050805全脊柱固定の脊損防止効果は未確認
メールいただきました
突然このようなメールを出させていただくご無礼をお許し下さい。
いつもOPSのHPを楽しく拝見させていただいております。その中で、「050805全脊柱固定の脊損防止効果は未確認」は特に参考にさせていただいております。この中の参考文献の表題を教えていただけないでしょうか?(08-6-14 sat)
失礼しました。リンクを付けました。ご活用ください。
この2年ほどはリンクを付けています。これはやはり読者からリンクを付けて欲しいという要望があってからのことです。これからもよろしくお願いいたします。(08-6-15 sun)
今や外傷患者搬送では欠かすことのできないバックボード。構造は単純、軽いのに強度は十分、全身固定も素早く行える優れものである。しかしいったん寝かされると狭くて痛い。今回はこのバックボードと全脊柱固定について考える。
脊損防止効果は未確認
初めに根本命題である「全脊柱固定は脊髄損傷を防ぐか」。実はこれがわかっていないのである。
プレホスピタル領域で全脊柱固定の効果を調べた論文はわずかしかない。そのほとんどは外傷患者に全脊柱固定を行わなかったときにどれほど悪い影響があるか過去のデータをまとめたものである。最も有名で今でも引き合いに出されるのは1988年に出た論文1)で、18か月の間にアメリカの脊損センターに運ばれた123例に対して現場と入院後の神経症状を比較したものである。通常脊損の症状は受傷直後が最も重く、時間が経つにつれて軽快していく。ところが報告では全体の25%で事故現場より病院で神経症状が悪化していたことを指摘した。この原因は搬送途中で損傷部位に外力が加わったためとされ、これによりプレホスピタル領域での全脊柱固定の大切さが認識されるようになった。一時期は全ての外傷患者をボードで固定していた時期もあったようだ。
逆に全脊柱固定は神経症状変化に関与しないという報告もある。1998年に発表された、全脊柱固定を行い搬送してくる病院と、固定を行わず搬送してくる病院との過去5年間の比較2)である。脊椎骨折もしくは脊髄損傷の患者に対して、ある大学へは120名の患者で固定を行わずに搬送してきた。また別の大学へは334名の患者を固定をした上で搬送してきた。神経学的な評価は両方の大学と無関係な医師が行った。二つの患者群を理論的にマッチングしたさせた上で評価したところ、神経学的な重症度は固定を行なった大学の方で重かった(p=0.04)。筆者らは脊損を来すような大きな外力が最初に加わったあとでは、軽微な外力ではさらなる障害は与えないとしている。
全脊柱固定の適応の見直し
二つ目の論文、固定は意味がないという結果については多くの反論がなされた。曰く、二つの群で人数が大きく違う、脊損となった原因が二つの大学で異なる、死亡者を考慮していない、などなど。その通り、論文は確かに不備がある。しかしこの論文で提起されたのは、何でもかんでも固定するのはどうかという疑問であった。全ての外傷患者に対して脊損が除外できるまで全脊柱固定を行うべきか。それとも適応を決めてそれらの人に対して全脊柱固定を行うべきか。現在最も広く認められている適応は1999年に出た論文3)に基づいている。つまり、意識障害、部分的な神経症状、中毒、背部痛、それと他の部分に骨折が考えられる症例である。
これからも未確認
この根本命題、これからも確認はされないだろう。なぜかというと、確認する前にバックボードと全脊柱固定が広まってしまったためである。脊椎骨が病的な動きをすると脊髄損傷になることから、1965年に原始的なバックボードが誕生した。バックボードは多くの機関から使用を勧告されるようになり、臨床的な検討なしに広く普及してしまった。全脊柱固定は脊損患者に対してはその進行を防ぐ効果が認められているから、研究とはいえ人に害を与えるような条件で研究は行えないのである。
研究者で一致している意見は、頸椎骨折がある患者に対しては頚髄損傷がないことが確認されるまでは頸椎固定を行うべきであるということである。
バックボードは痛い
読者のなかで、バックボードに固定された経験を持つ人は多いと思う。訓練などで寝かせられると、当初は病歴を聴取されたりベルトで締め付けられたりと、意識が外に向くので苦痛は感じないのだが、一通りの作業が終わると暇になり、私の場合には尾底骨が痛くなってきた。それに背中全体も痛いし、かといって寝返りも打てないのでかなりつらいものであった。
バックボード固定後の訴えで多いのは腰背部の疼痛であり、最大の合併症は痛みに続く床づれである。文献によると、仰臥位になると尾底骨には平均で223mmHgの圧力がかかる4)。これは一般人の血圧の2倍であり、血流は全く停止してしまう。さらに、胸椎にも90mmHgがかかるとされる4)。一方、床ずれができる条件は、35mmHgで2時間、60mmHgで1時間、さらに3時間放置されると必発である5)。実際に表面の皮がむけたり水泡ができるのならば10分もあれば十分である。加えて考えるべきなのは、普通の人なら痛ければ腰をずらして当たりを変えることによって床づれを自然と防ぐところを、脊損の患者の場合には痛みを感じず動かすこともできないため、床づれを防ぐことができない。そのため、文献ではクッションなどを敷いて床ずれを防ぐように勧めている。
早くボードから降ろせ
プレホスピタル外傷学第2版6)には救急隊員と医師がそれぞれ病院内でのバックボードの利用について書いている。救急隊員の書いたコラムでは病院到着後もバックボードに固定したままレントゲンを撮ったり患者を運んだりと、ずっと固定していても問題ないように私には読める。一方、医師の方ではレントゲン透過性が第一であると歯切れが悪い。
レントゲン写真については自分たちでも撮ってみた。その結果、バックボードに固定したままでも大骨折やチューブ類の確認はできるものの、骨片や肺野の詳細な検索には支障を来す可能性があることがわかった。救急室での診察時や直後のCTでは大きな病変とチューブの位置だけわかればいいという主張もあるだろうが、状態が悪く1回しか撮れない可能性や、撮り直しによる放射線被爆量の増加もあり私は同意できない。
バックボードの固定では背部痛がおこる。その多くはバックボードに寝かされたことによる背部痛である。頸部痛を訴えレントゲン撮影を行った84%、腰部痛を訴えてレントゲン写真撮影を行った32%はボード固定による痛みであり不要な写真撮影であった7)としている。
手元にある文献の結論はこうである。「病院内でバックボードは益より害が大きい。早く降ろせ」8)。
一般的には意識ABCを確認し、簡単に神経学的所見を取った時点で降ろすことが勧められている9)。
文献
1)Paraplegia 1988;26:143-50
2)Academic Emerg Med 1998;5:214-9
3)Prehosp Emerg Care 1999;3:251-3
4)Accid Emerg Med 1996;13:34-7
5)J Pathol Bacteriol 1953;66:347-58
6)永井書店2004年1月
7)Ann Emerg Med 1989;18:918(special section abstract)
8)Emerg Med J 2001;18:51-4
9)Resusucitation 2003;58:117-20
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08.6.15/10:14 AM
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