051206初夏の風

 
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初夏の風

作:山いるか


100417還暦のロックスター セミナーを斬る 其の二 セミナーを切る 其の一 「S・A・H」 初夏の風 星になれたら 外傷性ショックって、何!? 


 厳しく長い冬が終わり、あっと言う間に桜の春は過ぎ、梅雨のない北海道に爽やかな初夏の風が吹き始めた7月の休日。消防署近くのコンビニから若い女性が腹痛を訴え倒れているという通報が入り、救急出場しました。

 現場に着き状況を確認すると、日焼けした若い女性が玄関付近でうずくまっていました。意識は清明で痛みによるものか、やや過換気状態ではあるものの、呼吸・循環ともに危険な状態ではありませんでした。
 我々が到着して少し安心したのか、いろいろとこれまでの状況を説明してくれました。それによると女性は愛知県から来た大学生で仲間ら数人と北海道を自転車で旅しており、一緒にいた仲間はすでに岐路に着いたのですが、北海道の魅力に感動し、自分だけ滞在期間を延長して岐路に着く途中でした。
 腹痛は通報時より治まっているものの依然として強く、寒気や先ほどからの過換気により手足の痺れも少し訴えていました。若い女性ということもあり、問診は慎重になり触診もなんとなく遠慮しがちです。
 女性のことは女性に聞け、我々はすぐに近くの診療所の女医先生に見てもらおうと連絡を取り、救急車を走らせようとしましたが、休日ということもあり残念ながら不在でした。

 さて困ったぞ…女性は車内収容したものの、現場には自転車と大きな荷物が置き去り・・・。彼女は今日北海道を離れるといいます。
 わが町は、「空の玄関」と「海の玄関」に隣接しており、休日には地元の診療所が不在となることが多いため、救急患者はいずれかの街に搬送しています。距離は、どちらも救急車で向かうと25分くらいで遠くはありません。
 これまでも観光客やゴルフツアー客などを搬送したことは多々ありますが、家族や仲間がいる場合がほとんどで、一人というのは珍しいのです。
 とりあえず現場にそのまま自転車や荷物を現場に放置しておくわけにもいかず、彼女と一緒に車内収容。
 処置後に北海道を離れるであろうことを考え、大学生ということもあり本人の希望を確認した上で、日にちはかかりますが渡航費用の安い「海の玄関」目指し出発しました。

 すると救急車前方より手を振る白衣の女性が近づいて来ます。「あっ!○○先生、助かったぁ…」診療所の看護師さんから携帯電話に連絡を受けた女医先生でした。そのまま近くの診療所に搬送し、大きな荷物は待合室へ、自転車も無事駐輪場へ到着。
 「転院になるかも」という先生の指示で、大まかな診察が終わるまで院内で待機していることにしましたが大事に至らず、腹痛も軽減してきたようでした。
 女医先生の「もう大丈夫だと思うよ。」との一言で、我々は帰署することとしましたが、帰り際には「ありがとうございました。」と笑顔も見られました。

 その後の彼女、どうしたかというと腹痛は1時間ほどの点滴とベットで横になったおかげですっかり良くなり、元気になったのですが、自転車を運転させて帰すわけにはいかないという女医先生のご好意で、先生の自家用車で「海の玄関」から岐路に着いたとの事でした。

 ところがその後よくよく車内を点検していると、なんと、彼女の帽子が見えないところに隠れていたのです。気付いた時にはもう後の祭り、彼女はすでに北海道を離れており海の上…。
 我々はポケットマネーを出し合い、診療所に詳しい住所を聞き帽子を送り届けることにしました。

 すると数週間後にきれいな字で、爽やかなお礼の手紙が署に届き、「最後は痛い思いをしましたが、北海道の皆さんの暖かさに触れ、ますます北海道が好きになりました。絶対にまた行きます!」という内容で締めくくられていました。

 診療所の帰り際に見た健康的な笑顔や女医先生の優しさや、看護師さんの気配りが思い出され、暑い真夏に送られてきたお礼の手紙は、涼しげな北海道の初夏の風を感じる手紙となりました。


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