070810別れの時間

 
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作)たんぽぽ


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 どんな別れも辛いものですが、「死」によって別れるのはとても辛いものです。それが突然身に降りかかったとしたら、覚悟を決めていても哀しさに打ちひしがれるものでしょう。

 印象的な事例が2例続いてありました。
 80 代男性は同級生の祖父で、正午過ぎの要請でした。傷病者が居るという居室に入ると、そこは綺麗に整理されていました。我々が家族に既往症等を尋ねたところ、末期癌であり宣告された余命を過ぎ、この日が来る事を覚悟していたと言います。うろたえる事もなく淡々と私たちの質問に答え、身の回りの準備をする家族にCPR実施の同意を得、CPR を実施しました。しかしCPRの甲斐は残念ながらありませんでした。

 その後80代男性の孫である同級生に会う機会があり、その時の話を聞く事が出来ました。家族は宣告された余命の期間を過ぎていたので、いつ別れる事になっても不思議ではないと感じており、当日はその日がついに来たかという、諦めに近い感情だったようです。そう割り切って覚悟はしていたものの、突然のようにやってきた別れは言いようもなく哀しかったそうです。CPA 状態の傷病者を発見し、すぐに119通報。どうしようと途方に暮れていたところに我々が到着し、すぐに病院へ連れて行ってしまいました。別れを実感するいとまもなく、葬儀が終わってはじめて別れを実感したそうです。別れがこの時にやってくるなら、もっとゆっくり過ごしたかったと話していました。

 もう一つはその数日後の出来事。
 70 代男性は慢性的な疾患を数多く抱え、癌にも罹患し寝たきりの状態でした。夕刻の要請で、「夫が息をしなくなったようだが、どうすればいいのか?」という妻からの要請でした。現場到着したところ妻は、「病院へ状態を電話し、死亡の診断をしてもらいたく往診を希望したが、すぐには行けないと返答されたので119した。」と言い、「心肺蘇生はしなくていいですが、どうすればいいでしょう?」と訴えます。観察したところ、傷病者にはまだ温もりがあるので、妻に状況を説明しCPRを実施しました。病院到着後心拍再開はしましたが、意識が戻る事はなく数日後逝去されました。

 70 代男性の妻とも、後日偶然に会う機会がありました。傷病者は数多くの疾患を抱え、寝たきりの状態であったため、介護に疲れていた妻は、夫が息をしていない事に気がついた時には、ほっとしたような感情だったそうです。現場でそのような感情を感じ取っていた我々救急隊ですが、蘇生処置により心拍再開し、その後数日間ではありますが、妻は夫に付き添っていれたようです。いざ別れが近いと感じた妻が、別れの数日間を夫と共に過ごせた事は、大変ありがたく感謝しているとの事でした。

 どちらの事例も、医師により傷病者は余命いくばくもないと宣告され、家族には別れの覚悟は出来ていたようで、現場でCPRの説明を行いましたが強く希望されませんでした。家族に強く希望されないCPRを行う事に、割り切れない思いを感じていました。

 高齢者や末期癌患者へのCPRには、皆さん様々な考えがあると思います。蘇生する事が、果たして本人や家族にとって最善の選択肢であるのか、考える事も多いと思います。しかし死亡判断を下すことの出来ない我々救急隊は、苦悩しながらもCPRを行っています。


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10.2.7/4:36 PM

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