061205最大の試練

作)うりぼう

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国家試験勉強法

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救命士養成所など

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「金で買えるものなら１００万円出したっていいよ…」
「お、俺なら、もっと出してもいいから…欲しいなぁ。」
　深刻な顔つきをした数人の男たちが、全身に悲壮感を漂わせながら呟くように話している。時刻はもう、深夜一時を過ぎていた。都心から遠く離れた、街灯も少なく物静かな場所にただ整然と建つその建物に、彼らは暮らしていた。

　「救急救命士養成所」
　その建物の入り口には、そう書いてあった。

　ある男が繰り返す。
「なんで俺ばっかり、こんな苦労をしなきゃならないんですか。」
　ついつい口をついて出てきてしまうことばだ。最近は、よくそんな話をするようになっていた。
「（仕方ないよな、春が近いんだから…）俺もそう思うこともあるけど、頑張ろう！絶対、大丈夫だから。」
「俺なんて高卒で消防に入って、体力には自信あったけど、頭の方は厳しいっすよ。」
　奥の方から、Tシャツ姿の若い男が苦笑いを浮かべながら話に加わった。６ヶ月間も寝食を共にしていると、ことばの後ろの方にある本当の思いが、口にせずとも、お互いに分かってしまうものだ。彼は、不平不満を言うような、そんなわがままな人間ではない。そして彼も、体力だけでなく頭もいい人間なのだ。皆、大きな試練に相対した状況下で、少なからずナーバスになっているだけだった。

　ただ、そんな彼らを神経質にさせる要因はいくらでもあった。救急救命士国家試験に挑まなければならない彼らには、この半年間、常に「合格することができるだろうか」という不安がつきまとっていた。
「国家試験は一発勝負！」
「落ちたら最後、帰れないよ。」
容赦のない（だが悪気もない）教官たちのことばが胸の奥底に重く響く。
「マークシートの段ズレは致命的だからな。気をつけろよ！」
職場の先輩に何度も言われた。
「絶対に負けられない戦いですね」
後輩が真顔で言っていた。
「（絶対に負けられない…か。）受かりてぇよなっ、絶対に！」
いつものように努めて明るく言ってみた。
「落ちることなんて考えない考えない。心配いらないって。」
いつも自分自身に言い聞かせていることばを、また今夜も口にしていた。無表情な壁の、天井近くの高いところに掛かっている時計は、いつの間にか二時を回っていた。

「勉強するかぁ〜」
ずっと黙っていた小太りの男が、誰に言うでもなく立ち上がり静かにその部屋をあとにした。
「よっしゃぁ〜、やるかぁ〜！」
「俺もやるわぁ」
「コーヒー飲んで頑張るかぁ」
　つかの間、ゆっくりと流れていたように感じていた時間が、元のスピードで動き出した。そんな感覚に襲われながら、また一人机に向かいテキストを開いた。すっかり使い込まれたそのテキストは、どのページをめくってもマーカーがびっしりと引かれていた。

　不安も迷いも、もうそこにはなかった。今できることをやろう。目一杯やろう。ただひたすらに、努力を積み重ねてその日を迎えよう。消防人生において、最大の試練となるであろう救急救命士国家試験に勝利を収めるために。

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救命士養成所など