症例47: 大動脈瘤の4例
上原拓也
留萌(るもい)消防組合消防署
救急標準課程を修了後、平成15年から救急隊員として出動する中、生死にかかわる重篤な疾患である大動脈瘤症例を幾度か経験したので紹介します。
症例1
平成16年12月
60歳 男性 23時40分覚知
通報内容「ホテル宿泊客の男性が急に具合が悪くなったので救急車お願いします。」
活動概要
・現着時、患者はホテルフロント前に立位でいた。
・JCSI-0、顔貌苦悶様、腹痛及び腹部筋の張りを主訴する。
・BP176/132、SPO2 96%。
・通報20分位前に突然の腹痛(持続痛)を発症した。
・スクープストレッチャーにて安静に車内収容、容体変化なく病院へ収容する。
診断名 腹部大動脈瘤(重)
症例2
平成17年4月
82歳 男性 6時47分覚知
通報内容「82歳男性が食事中に倒れたので救急車お願いします。10年前に脳梗塞の既往あり。」
活動概要
・現着時、患者は居間に仰臥位でいた。歩行不能状態。
・JCSI-0、顔貌蒼白、冷汗(+)嘔気(-)失禁(-)痙攣(-)脱力感を主訴。
・BP84/42、SPO2・脈拍・体温測定不能。
・昨日、頭痛と脱力感で内科・脳外受診するも異常なく帰宅。本日、食事中に脱力感により卒倒(意識有り)する。
・スクープストレッチャーにて安静に車内収容、容体変化なく病院へ収容する。
診断名 胸部大動脈瘤破裂(重)
症例3
平成18年8月
76歳 男性 7時16分覚知。
通報内容「夫が腹痛で苦しんでいるので救急車お願いします。」
活動概要
・現着時、患者は寝室布団上に仰臥位でいた。
・JCSI-1、顔貌苦悶様、冷汗(+)失禁(+)腹部全体に筋性防御(+)。
・6時起床時は元気であったが7時頃に突然腹痛を発症する。
・酸素2L投与、激痛により会話困難。体動によりバイタル測定不可能。
・スクープエクセルにて安静に車内収容、容体変化なく病院へ収容する。
診断名 腹部大動脈瘤破裂(重)
症例4
平成18年9月 63歳 男性 20時12分覚知。
通報内容「夫が急に倒れ意識がないので救急車お願いします。」
活動概要
・現着時、患者はトイレ内便座下に家族の介添えを受け座位でいた。
・JCSI-0、顔貌蒼白、冷感(+)嘔吐(-)下痢(+)。
・20時頃に突然の下腹部痛を発症する。
・スクープストレッチャーにて安静に車内収容、容体変化なく病院へ収容する。
診断名 腹部大動脈瘤破裂(重)
考察
経験した症例は、ほとんどが意識清明であり、発症時の状況を聴取できたため、重篤な疾患である大動脈瘤とは思いもよらず、搬送時は、傷病者の楽な体位を維持し継続観察に心がけ安静に搬送した。
大動脈瘤の観察ポイントとしては、破裂するまではほとんどが無症状であるが、特に腹部大動脈瘤は大きくなると腹痛や腰痛を発症する。また、胸部大動脈瘤は圧迫による咳、嗄声、胸痛、呼吸困難、嚥下障害が見られる事もある。
腹部大動脈瘤は触診にて腹部の正中線上で拍動性の腫瘤を触れる事ができ、聴診器にてこの部分にあてると血液が動脈瘤を勢いよく流れるときに生じるシューという雑音が聞かれるとあるが私はまだ経験はない。
胸部大動脈瘤破裂では背中の上方に激痛が起こり、この痛みは破裂が進むにつれて背中の下方へ、さらには腹部へと広がり、心臓発作時のように胸や腕に痛みを感じる事もあり心疾患を疑うこともある。腹部大動脈瘤破裂では下腹部と腰部に激痛が起こり、動脈瘤のあるあたりに圧痛を感じることがある。
また、破裂動脈瘤でもさまざまなタイプが存在し、突然死をきたすタイプや破裂後しばらくの間、ショックに陥らないタイプなどが存在するが、出血量が多い場合は急速にショック状態に陥るため緊急を要し傷病者の状態観察が特に重要となる。
解説
この基礎講座では2005年1月号に腹部大動脈瘤を、2006年1月号で胸部大動脈瘤を取り上げている。そちらも参照していただきたい。
大動脈瘤自体はゆっくり成長するもので、考察にあるとおりかなり大きくなれば症状が出るものの、全く無症状で経過するが多い。そういう患者にとって初めての症状が破裂であったり即死であったりする。大動脈瘤解離の時は通常血圧が200mHgにも達する。初診時ショック状態になっている場合は予後は望めない。
ここに挙げられた4症例とも容態変化なく病院に収容されているが、救急隊にとってはただただ幸運だった。症例2は胸部大動脈から分岐する脊髄栄養動脈が大動脈解離によって閉塞したことが考えやすい。この場合下肢麻痺が起こるもの症例に一致している。また症例3は腹痛と筋性防御から考えて大動脈瘤破裂で腹腔内に穿破したものと思われる。いずれも即死してもおかしくない症例であった。
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