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アナフィラキシーショック傷病者にドクターヘリを要請した事案

アナフィラキシーショック傷病者にドクターヘリを要請した事案

2018年4月5日木曜日

アナフィラキシーショック傷病者にドクターヘリを要請した事案

甲賀広域行政組合甲南消防署救急係

消防司令補 後村吉博

消防士長 齊藤寿

後村吉博

ごむらよしひろ

甲賀広域行政組合甲南消防署

消防士拝命 平成10年4月1日

救命士 平成16年6月

出身地 滋賀県湖南市

趣味   魚釣りや生き物が好きです。

齊藤寿人

さいとうひさと

甲賀広域行政組合甲南消防署

消防士拝命 平成13年4月1日

消防士拝命 平成18年6月

出身地 滋賀県甲賀市

趣味   ランニング

はじめに

この事案は、アナフィラキシーショックの傷病者にドクターヘリを要請し、心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液実施後、医師の早期現場介入が実現した事案である。

通報内容

平成28年10月某日14時頃、「60から70歳くらいの男性が屋外で倒れている。虫に刺されたかもしれない。」との内容で119番通報が入電、出動する(再現写真1)。現場は住宅街で通報者は近隣住民であった。

写真1

「男性が屋外で倒れている」と出動

通報から現場到着

現場は住宅街であり、「虫に刺された」との通報内容にやや疑問を抱くが、虫刺されによるアナフィラキシー、また、気温が高かったため熱中症も考慮した活動を想定する。しかし、この時点ではドクターヘリやドクターカーの選択はなかった。なお、現場から病院までの距離は、2次救急医療機関までは車で約10分、3次救急医療機関までは車で約40分の位置であった。

14時21分、現場に到着すると、近隣住民が数人おり、傷病者は住宅街にある店舗入口の階段付近に寝かされていた(再現写真2)。後に近隣住民から「傷病者は住宅街でビラ配りをしていた方」との情報を得る。

写真2

傷病者は住宅街にある店舗入口の階段付近に寝かされていた

傷病者接触

接触時、傷病者は呼吸速く、脈拍橈骨動脈速く触知、意識レベルJCS1程度、発汗著明、見える範囲の皮膚は発赤、「蜂に頭を3回刺された」と訴えていた。また、過去の虫刺されについて確認したところ「今年の8月にも左手指を蜂に刺されている」との情報を得る。この時点で、蜂刺されによるアナフィラキシーショックを疑い、ドクターヘリを要請する。

傷病者車内収容

14時27分、傷病者を救急車内に収容し、詳細なバイタル測定を実施する(再現写真3)。

意識レベル:JCS1、表情:無表情、呼吸:頻呼吸、脈拍:132回/分、血圧:63/43mmHg、SpO2:92%(room air)、瞳孔:両側3mm対光反射正常、心電図:洞性頻脈

処置:高濃度酸素マスクで酸素10L/分投与開始し、体位はショック体位とする。

観察結果からショックと判断し、心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液のため指示要請を受けることを決定する。

写真3

傷病者を救急車内に収容し、詳細なバイタル測定を実施

現場出発からドクターヘリランデブーポイント到着

14時29分、現場出発し、指示要請のためオンラインで医師に指示を得る。14時34分、搬送中の車内で右肘正中皮静脈に22Gで静脈路確保実施。急速輸液を開始し、滴下は良好(再現写真4)。その後、継続観察を実施するも傷病者のバイタルサインに大きな変化等なし。ドクターヘリランデブーポイントに到着する。

写真4

医師の指示のもと静脈路確保実施

医師引き継ぎからドクターヘリ離陸

14時36分、救急隊ランデブーポイント到着時、既にドクターヘリが着陸していた。直ちに医師及び看護師が救急車に乗り込み、初期診療(以下「初療」という)が開始される。医師初療後、ドクターヘリに傷病者が収容され、14時54分ドクターヘリ離陸となる(再現写真5)。

初診時傷病名:アナフィラキシーショック。

傷病程度:中等症。

表1に時間経過を示す。

表1 時間経過

時間   事項

14時12分 覚知

+2分 出動

+9分 現場到着

+15分 ドクターヘリ要請

+15 車内収容

+17分 現場出発

+20分 指示要請

+22分 静脈路確保実施

+24分 ランデブーポイント到着

+25分 医師初療開始

+39分 ドクターヘリ収容

+42分 ドクターヘリ離陸

写真5

ドクターヘリ離陸

考察

本事案は、救急隊が傷病者に接触後、ドクターヘリを要請した事案である。通報内容でアナフィラキシーや熱中症を疑いつつも、ドクターヘリの要請には至っていない。生命の危機に瀕している傷病者の予後を良好なものとするためには、一刻も早い医療の介入が必要である。救急隊は、傷病者の状況に地域の医療機関の診療状況や医療機関までの搬送時間等を総合的に判断し、傷病者の処置や搬送方法を決定するべきと考える。

ドクターヘリ運航開始当初、要請時の事務の面倒さやオーバートリアージを恐れるがために救急隊には要請をためらうようなきらいがみられた。しかし、傷病者にとって最も優先されるべき予後の改善を考え、適応のある傷病者には積極的なドクターヘリの要請が必要であると考える。

滋賀県のドクターヘリは平成23年に大阪府ドクターヘリとの共同運航に始まり、平成27年に社会福祉法人恩賜財団済生会滋賀県病院を基地病院とする京滋ドクターヘリが運用開始され、県内をくまなくカバーしている。ドクターヘリの利用回数は年々増加し、平成28年の当本部のドクターヘリ要請回数は113回で、県内各消防本部の中で最も多く要請している。これは、山間部に位置する当本部の地理的要因に加え、基地病院の医師などの運航者の啓発によるドクターヘリの有効性が、救急隊や地域住民に浸透したことが大きく影響していると思われる。

通信指令員を含む救急隊は、傷病者の予後改善のために知識や処置の技能を研鑽し向上していく必要がある。また、医療機関をはじめとする関係機関との間に顔の見える信頼関係を構築し、チーム医療の一員としての自覚を持って活動を進めていく必要があると考える。

まとめ

本事案は、救急隊の総合的な判断能力が問われる事案であった。ドクターヘリを要請することが、最も早い医療介入が可能であると適切に判断できたのである。ドクターヘリ運行開始以来続けられてきた運航側の努力と、オーバートリアージ等を恐れずドクターヘリの要請を積み重ねてきた救急隊の判断能力向上の成果である。今後も傷病者の予後改善を目的に研鑽を重ね、チーム医療の一員であることをしっかり認識し活動していきたい。

医師から(玉川進)

市街地でのドクターヘリ要請

ハチ刺創によるアナフィラキシーショックの1例である。アレルギーによるショックでは語呂合わせ「それきみこ」のうち「そ」皮膚蒼白が隠されることがあるが、多くの場合皮膚の発赤はまだらで、よく見れば蒼白の皮膚も見つけることができる。他の語呂は文章に表現されている。「れ」皮膚冷汗、「き」虚脱(無表情)、「み」脈触知不能←血圧低下、「こ」呼吸不全←頻呼吸と経皮的酸素飽和度数値の低下、がそれである。

本症例でドクターヘリを呼んだのは正しいことだったのか。報告では「2次救急医療機関までは車で約10分」とある。表1の時間経過を見ると現場出発からドクターヘリの医師に接触するまで8分かかっている。僅か2分の差なら、ドクターヘリの限られた人員・資器材・薬品より救急病院の豊富なそれらを使用しても良かったのではないかと考える。だがこれはあくまで結果論である。渋滞に巻き込まれたり救急病院から受け入れ拒否された場合にはもっと時間がかかる。

ドクターヘリの運行には莫大な経費がかかり、それには私たちの税金が投入されている。ドクターヘリに携わる人たちはよく「オーバートリアージを恐れず」と書くが、私は一日も早く「適切なトリアージ結果として」と全ての報告に書かれる日が来ればいいと思う。

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