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脊髄(頸髄)損傷に伴う神経原性ショック傷病者に対する2ライン輸液を行った2症例

 Jレスキュー2017年6月号掲載(再現!救急活動報告 第7回)

脊髄(頸髄)損傷に伴う神経原性ショック傷病者に対する2ライン輸液を行った2症例

2018年4月5日木曜日

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白山野々市広域消防本部 大山 隆

救急係長(指導救命士)

消防士拝命年 平成5年

救命士合格年 平成16年

趣味 薪ストーブ、渓流釣り

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脊髄(頸髄)損傷に伴う神経原性ショック傷病者に対する2ライン輸液を行った2症例

転落外傷により脊髄(頸髄)を損傷した2傷病者に対する脊椎運動制限から輸液処置に至るまでの現場判断及び対応について、詳細に報告する。なお、図は全て再現である。

【症例1】 飲酒し階段から転落

<出動指令>

飲食店内で、男性客が飲酒後ケイレン発作を発症して転倒し、意識がないとの指令で出動、出動途上の救急車内では、2パターンを想定したブリーフィングを行う。

 ① てんかん等のケイレン発作を発症後に転倒し、ケイレン発作が継続中。② 何らかの原因で転倒した際に頭部を受傷し、ケイレン発作を発症。

 通信指令課に無線連絡し、通報者に対し再度状況確認を行ってもらうが、詳細不明との回答であった。

<現場到着>

 ゼネラルインプレッション評価を開始したところ、成人男性が石畳通路上に仰臥位でおり、意識があり、顔面正中に広範囲な打撲痕が認められ、通路脇には宴会場へ上がるための全3段の階段が確認できる。また、接近しながら周囲の同僚からケイレンの有無や転倒に関しての状況を確認したところ、トイレへ行こうとし階段から転落したが、ケイレンは起こしていないとの情報であった。

<初期評価・全身観察>

 初期評価を開始したところ、呼吸は速く、脈拍は橈骨動脈で弱かったが、皮膚所見は正常で、鼻出血は止血状態であった。

 なお、転落による顔面外傷が顕著であったため、神経学的評価を先行して実施する必要があると判断し、意識レベル及び四肢の知覚・運動障害を確認したところ、四肢の完全麻痺が認められたため、頸椎過伸展による中位~下位の頸髄損傷疑いと判断し、ロード・アンド・ゴーの適応とした。

 全身観察では、腹式呼吸を認め、手指によるピンプリックテストにより、鎖骨付近から下肢末梢にかけての知覚・運動麻痺が改めて確認できたが、後頸部痛や陰茎勃起は認められなかった。

<判断・処置>

 ロード・アンド・ゴーを適応し、迅速搬送の必要があるものの、救急隊の処置により状態が悪化することも十分に懸念されたため、活動隊員全員(救急隊+消防隊)に対し、慎重な対応を図るよう周知する。

 傷病者の倒れている場所は、バックボードやスクープストレッチャーを設定し、ログロール等を行うスペースはなかったが、床(石畳)は研磨されたものであったため、その滑りを活用した上下スライドは可能と判断し、救急隊は上方に傷病者をスライド、消防隊は下方にバックボードをスライドさせ、救急隊の号令に合わせて、約30センチずつ互いにスライドさせながらバックボード上に移乗し(図1)、固定ベルト5本(XXI)による強固な脊椎運動制限を行う。

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図1

救急隊の号令に合わせて、互いにスライドさせながらバックボード上に移乗させた

脊髄(頸髄)損傷に伴う四肢麻痺により、ロード・アンド・ゴーを適応していることから、三次医療機関への搬送が適切と判断し、A中央病院へ受け入れを要請したところ、M救急隊が搬送してきた重症頭部外傷傷病者の対応に追われているため受入不可との回答であり、続いてB大学附属病院に受け入れを要請したところ、脊椎専門医が不在であり対応困難との理由から、受け入れ不可との回答であった。そのため、3件目の三次医療機関であるC医科大学病院へ受け入れを要請し、病院選定の経緯を伝えたところ、受入可能との回答を得る。(傷病者接触~現場出発:14分)

 救急車内収容後、高濃度酸素10ℓ/min投与下にもかかわらず、SPO2値が89%まで低下し、上昇が認められないため(DASH 3000及びRad-57™のプローブ2個を左右の指に装着し同期を確認)、15ℓ/minまで増量したところ、SPO2値の上昇が認められた。また、血圧を測定したところ、測定エラーが続くものの橈骨動脈がしっかりと触れているため、脈拍の評価を頻回に継続しながら病院へ向かっていたところ、搬送途上に橈骨動脈が触れなくなったため、神経原性ショックによる相対的循環血液量の減少と判断し、C医科大学病院の医師に心停止前輸液の指示要請を行い、静脈路確保を実施する。医師からは急速輸液指示を受け実施したが、橈骨動脈の拍動を触知することはできず血圧が74/46㎜Hgであったため、さらに2ライン目の輸液指示を要請する。2ライン輸液開始から数分後に、橈骨動脈で脈拍が触れだしたのを確認する。

図2  車内での2ライン輸液

【症例2】 自転車で田んぼに転落

<出動指令>

自転車が落差約50センチメートルの田んぼに転落し、男性が身体の痺れを訴え動けない(図3)との指令内容であったため、同時支援出動している現場直近署の消防隊に対し「先着した際傷病者への対応には十分に注意するように」と無線にて依頼した。救急車内のブリーフィングでは、脊髄(頸髄)損傷が強く疑われ、救急隊の対応次第で傷病者の状態が悪化する可能性が十分に考えられるため、バックボードの挿入・固定方法及び神経原性ショックに対しての輸液の可能性について周知する。

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図3

田んぼ内で倒れている状況

<現場到着>

 先着消防隊により、国道から農道に進入するための経路が確保されて(雑草が踏み固められている)おり、農道脇の田んぼ内では、消防隊による傷病者観察及び脊椎運動制限(頸椎カラー固定及び頭部保持)が行われていた。

 田んぼは稲刈り直後で、稲刈り機による轍で凹凸が激しく、ぬかるんだ状態で、かつ、夜間による暗がりのため、困難な活動が予想された。

<初期評価・全身観察>

 初期評価を開始したところ、呼吸は速く腹式であり、脈拍は橈骨動脈で正常に触れ、皮膚の状態も正常であり、全身観察では強い後頸部痛及び用手ピンプリックテストによる四肢不全麻痺(鎖骨付近から四肢末梢に至る知覚が鈍麻し、若干手足の指が動かせる状態)が認められた。

<判断・処置>

 活動隊員全員(救急隊+消防隊)に対し、活動方針を周知し、慎重な対応で脊椎運動制限を開始する。

① 脊髄(頸髄)損傷に伴う四肢麻痺の可能性があり、救急隊・消防隊の対応次第で症状が悪化する可能性があること。② ロード・アンド・ゴー適応症例であるが、多少の時間をかけてでも慎重な対応を図ること。③ バックボードへは相互スライド法で移乗(図4)し、ベルト5本固定(XXI)(図5)による強固な脊椎運動制限を行うこと。(ログロール及びログリフトが困難な状況)④ ぬかるみによる足とられには十分注意し活動すること。

図4

相互スライド法でバックボードへ移乗

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図5

ベルト5本による固定

救急車内搬入中の問診で、麻痺の性状に変化(知覚鈍麻 → 四肢のピリピリ感)が認められる。

 中位~下位の頸髄損傷疑いとの判断により、三次医療機関であるA中央病院への受け入れを要請、搬送中に神経原性ショックに移行し、輸液処置等が必要になる可能性があることを消防隊長(直近署当直司令)に伝え、4名の消防隊員のうちの1名を救急隊に編入させたい旨を打診し、了承を得て、救急隊4名体制での搬送に移る。(傷病者接触~現場出発:6分)

 救急車内収容後、血圧は収縮期で110㎜Hg台が続いており、循環が安定しているかのように思えたが、徐々に心拍数が低下し、橈骨動脈で充実して触れていた脈拍が微弱になる。普段の血圧を確認したところ降圧剤を服用して140㎜Hg以上と聴取したため、通常血圧から30㎜Hg以上の低下と判断し、A中央病院の医師に状況を説明し、神経原性ショックによる相対的循環血液量減少が疑われるため、2ライン輸液を実施すればよいか助言を求める。医師の指示により、両側18Gによる2ライン輸液を開始する。1ライン目の輸液では、脈拍の性状や血圧に変動が認められなかったが、2ライン目の輸液後は、脈拍が橈骨動脈で充実して触れるようになった。

 <まとめ>

2症例共に、通信指令課の的確な判断によるPA連携出動であり、通信指令課、救急隊(図6)、消防隊の連携により、高度な判断が要求される現場でありながらも、傷病者への負担を最小限に考え、スムーズなチーム活動が遂行できた事案であった

図6

白山野々市広域消防本部鶴来救急隊

左から千田 達也(士長) 認定救命士、岩本 浩明(士長) 救命士、大山 隆(司令補) 指導救命士、山下 篤史(司令補) 認定救命士、苅安 励(士長) 認定救命士

血も出ていないのに血圧がなくなる恐ろしさ

旭川医療センター 玉川進

脊髄損傷の典型的な2例である。脊髄損傷患者を経験したことがない隊員は、この事例を読んで研究しよう。

脊髄損傷では受傷部位より下の運動麻痺・知覚麻痺が起こる。同時に交感神経も障害される。交感神経は容量血管(血液を貯めることのできる血管。静脈や毛細血管)を締め付ける働きがある。緊張した時に手が冷たくなるのは交感神経が手の表面の血管を縮ませるためである。交感神経が障害されると、緊張時とは逆に血管が膨らみ切って血液がそこにプールされ、心臓に返る血液が減少して血圧が低下する。見た目には何ともないのに血圧だけ(頚部外傷の場合は脈拍低下と一緒に(症例2参照))が急激に下がっていく。血圧低下の程度は麻痺の広さに比例すると考えよう。首から下が動かないほうが、臍から下が動かないより麻痺の範囲が広いため、それだけ血圧は低下する。

救急隊の行える処置は急速輸液である。理論的には血管にプールされて心臓に行かなくなった分の容量を急速に入れる必要がある。2症例とも2本目の輸液の開始によって血圧が維持できるようになった。他の救急隊も覚えていて良い方法である。

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