071205ガイドライン2005を取り巻く諸問題

 
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071205ガイドライン2005を取り巻く諸問題

 2007年ももうあと1ヶ月で終わりである。ガイドライン2005(G2005)が出てから丸2年が過ぎた。もうそろそろG2005に対する総合的な評価が出てもいい頃だと思うのだが、まだぱっとした評価は出ていない。

蘇生率は有意差なし

 今回唯一見つけたのがノルウェーからの論文1)である。ノルウェーではガイドライン2005の完全導入は2006年からである。論文では2003年から2006年にかけての毎年の病院外心停止患者の生存退院率が記載されている。それによると対象は4年間で169名で、生存退院率は2003年11%、2004年9%、2005年18%で、2006年は15%であった。ガイドライン導入前と導入後では生存退院率に差は見られなかった。詳細を見ると、病院に入院した割合は2003年で16%なのに対して2006年では39%と上昇しているのだが、生存退院まで結びついていない。G2005で強調された、絶え間ない胸骨圧迫についてはG2000では胸骨圧迫をしていない時間が全蘇生時間の18%あったのに対してG2005では10%へ減少した。圧迫の回数はG2000では122回に対してG2005では111回へ、人工呼吸回数はG2000での16回からG2005では12回へ減少した。
この論文では症例は筆者らの施設に限られており、たった年間50例では有意差は出ないだろう。なにせ、ガイドライン1995(呼吸:圧迫=5:1)からガイドライン2000(15:2)に変わったって生存率は上昇しなかった2)のである。ガイドライン2005で劇的な上昇が見られるとはとても思えず、数千例の症例を集めて初めて5%程度の危険率を満たすようになるのだろう。そうするとちゃんとした論文が出るまではまだ数年かかるかもしれない。

動物実験ではG2000有利

 人間での結果が出ないのなら動物ではどうだろう。ブタ19頭を用いてG2000とG2005を比較した実験結果が出ている3)。ブタに電気的に心室細動を8分間起こさせて、その後G2000かG2005の方法で蘇生を行った。その結果、蘇生率ではG2000が60%であったのに対しG2005では44.5%に留まり、また自脈の出現もG2000では蘇生開始後3分後から、G2005では4分後からと、G2000の方が早かった。
この結果は驚くにあたらない。動物実験で良かった方法が人間では蘇生率上昇に繋がらない、というのがG2000見直しの理由となっており、例えば除細動連続3回が除細動1回CPR2分に変更になったのも人間での心停止の条件を加味してのことであった。G2000で自脈の出現が早いのは除細動と除細動の間にCPRが入らないためで、また一回で除細動に成功すればその後の除細動は必要なくなるからである。

各国の反応

 自国でのG2005運用を受けて、オランダとフランスで評論が出ているのがだどちらも辛口だ。オランダでは日本と同じく2006年からG2005による業務が開始された。ガイドラインが変わるということで最も費用と手間が必要なのは既に受講した人への再教育であり、評論では費用に懸念を示すとともに、頻回の改訂が混乱の元となることも述べている4)。さらに、これらの改定費用が膨大でさらにその効果が明らかでない場合には医師など病院内の高度蘇生技術だけ改訂する方法も提唱している。
フランスの評論はG2005そのものに対する疑問である。「ガイドライン2005はCPR方法を明らかに変更している。しかし多くの疑問は解決されておらず、日常業務として変更を勧告するためにはよく練られた研究を重ねる必要がある。私たちが追求するのはバイスタンダーにも救急隊員にも単純で覚えやすく忘れない質の高い蘇生方法である」そこまで言わなくてもいいだろうと思うのだが、それがフランス人気質なのかもしれない。

コマーシャルも大切

 救急先進国と思われているアメリカから興味深い報告6)が出ている。2003年、小児AEDが解禁となった日から約一年後に救急隊員が小児AED解禁を知っているか、またガイドライン2005が出てからちょうど1年後にガイドラインの変更点を知っているかをアイオワ州とモンタナ州の救急隊員に質問したものである。結果は、2003年に小児AED解禁を知っていたのはアイオワ州救急隊員の29%、モンタナ州の救急隊員9%であり、2006年にガイドラインの変更を知っていたのはアイオワ州救急隊の83%、モンタナ州の60%であった。小児AED機材配備を見ると、2003年に小児AED機材を装備したのは二つの州とも20%以下であった。これが2006年になるとアイオワ州で74%にまで上昇したのに対してモンタナ州では37%と有意に低かった。
アメリカでもG2005を知らない隊員が2割くらいいるのである。またこの論文では、大きなニュース(G2005)はみんな見るが小さなニュース(小児AED解禁)は見ないことも示している。モンタナ州のひどさはコマーシャルの差による。日本でもG2005は救急隊以外で知っているのは医師看護師含めてわずかだろう。こんなところにも消防の努力が必要なのである。

文献
1)Resuscitation 2007;75:260-6
2)N Eng J Med 2004;351:647-56
3)Resuscitation 2007;73:459-66
4)Ned Tijdschr Geneeskd 2007;151:1874-7
5)Ann Fr Anesth Reanim 2007;Oct 22 Epub
6)Resuscitation 2007 Oct 11 Epub


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07.12.5/1:40 PM

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