080806オーバートリアージ

 
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080806オーバートリアージ

作)クマノミ

  外傷においては、昨今オーバートリアージはかなり容認されるようになってきています。しかし内因性疾患の場合はどうでしょう?

 私が勤務している町では、脳疾患患者が発生した場合、小一時間程の都市の二次医療機関へ搬送する必要があります。しかし管内に脳外科を備えている医療機関が少ない為、常に満床に近い状態にあり、そのような場合は一時間強の距離にある三次医療機関まで搬送しなければなりません。脳疾患を疑った場合は、時間との勝負になってしまいます。

 先日、深夜飲酒中に意識を失った男性が直近の診療所へ搬送され、その後脳疾患の疑いでより高度な医療機関へ転送となりましたが、後に後遺症を残したという事例がありました。傷病者はかなりの量のお酒を飲んでいたようで、救急隊は観察に苦労したようです。脳疾患も疑ったようですが、急性アルコール中毒による意識喪失と判断し、結果的に直近の診療所を選択する事になったようですが、それには繰り返される以下のような事例がある為です。

 とある早朝、一人暮らしの50代男性の意識が無いとの、近所の人による通報があり出動した事案がありました。現場へ到着すると居間で男性が横たわっていて通報通り意識がありません。痛み刺激にも反応がありません。観察の結果脳疾患を疑い、小一時間程度の距離にある二次医療機関を選択し搬送する事となりました。早朝という時間でしたが、若干酒の匂いが漂っていました。近所の人からも、酒好きの人と聴取できたので、それ自体は疑問に感じませんでしたが、意識が全くない為麻痺の確認が出来ません。しかし、脳疾患であった場合搬送先が限られてしまい搬送時間も要する為、万が一の事を考えて二次医療機関の選択となったわけです。

 その傷病者は、ようやく病院手前で意識は戻らないものの小さく身動きをするようになりました。両手足とも動かすようになったので麻痺は無いようです。意識はというと相変わらず痛み刺激への反応もほとんど無く、意識障害を疑うものでした。そんな中病院へ到着し、処置室へ搬入し医師看護師と共に観察と処置の準備をしていたところ、傷病者の意識に回復の兆しが見えました。ここで初めて、どうやら酒の飲みすぎで眠りが信じられない程深かったと判明したのですが、途端に医師の機嫌が悪くなりました。

 「何故このような傷病者をうちまで連れて来る必要があるのか?脳疾患でもないのに何故うちを選択したのか?」と医師は詰め寄ってきます。通報内容、現場到着時の状況や観察、車内での状況を説明しても、目覚めた傷病者を目の前にしては何の説得力もありません。限られた時間の中で考えうる全ての病態を想定し、搬送時間や予後を考慮して、最善と思われる医療機関を選択したという考えも伝わらないようです。結果的に「もっと観察の技術を磨いて」と突き放されて帰署となります。

 脳疾患に限らず、高度な医療機関へ結果的に軽度な病態で搬送となった場合、医師の救急隊を見る目は言葉に言い表せない程冷たいものがあります。その為、経験年数の長い人ほど、軽度な症状の場合、より重症な病態を疑う余地があるにも関わらず直近の診療所を選択する傾向にあります。結果として専門的な治療までに時間を要し、予後に影響を与える事もしばしばです。

 何でもかんでも高度な医療機関へ搬送するわけではないので、もう少し内因性疾患においても、オーバートリアージを容認してもらいたいと、医師に叱られた帰りはいつも落ち込んでいます。


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08.8.6/5:55 PM

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