100912通報時間短縮は難しい

 
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100912通報時間短縮は難しい

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 CPAの場合、発症から119番通報まで時間が空けばそれだけ助かる確率が減ることが予想できる。脳梗塞ではさらにはっきりと3時間の壁があり、発症から3時間経過した脳梗塞患者には血栓溶解剤が投与できない。

 発症から治療までの時間が余後に影響しそうな病態として代表的なのは、心肺停止、脳梗塞を含む脳卒中、心筋梗塞であろう。今回は発症から119番通報もしくは病院到着までの時間を検討した文献を紹介する。

CPAは身内を呼んでしまう

 金沢大学から、心肺停止時に119番通報が遅れる理由について詳細な報告が出ている1)。これは2003年4月から2008年3月までに石川県で記録された院外CPA症例3746例について、119番通報が遅れた理由についての聞き取り調査を行った結果である。全体では発生から通報までの中間値は2分であり、市街地、公共の場、目撃された心停止では通報までの時間は短かった。逆に通報が遅かったのは介護施設、高齢者の心肺停止であった。バイスタンダーにも違いが見られている。自宅で倒れる場合にはバイスタンダーは他の場所で倒れるより高齢であり、バイスタンダーは一人で女性である割合が高い。

 通報が遅れるのは介護施設と自宅が有意に多かった。通報が遅れる最大の原因は119番の前に他人を呼ぶことで、これには家族や親類、かかりつけの医者、警察、施設管理者、責任者が含まれる。加えて、介護施設での理由にはCPRに時間と人員を割かれること、自宅では自宅ではCPAに動転することが挙げられる。

 家での遅れは親族や近所を呼ぶためである。救命講習を終了した受講者であっても、その10%は家族が心肺停止になったときにはまず他の人を呼ぶと答えている2)。もう一つ、家で通報が遅れるのは、気が動転してしまい、何をすればいいか分からなくなるからである。目の前で人が倒れたとき、45%の人は心肺停止の判断が付かないという報告3)もある。

 最も大幅な遅れが見られるのは介護施設である1)。自分たちでCPRをやっているぶんには問題が少ない。しかし、介護施設で大幅に通報が遅れるのは管理者や看護師、医者や家族を呼ぶためもあるらしい。施設によっては管理者や館長の了解がなければ次の行動が起こせないところもあるようで、これは改善の必要がある。

 予後については、5分を超える遅延があると除細動対象の心電図の発生割合が小さくなる。また自己心拍の再開率、一ヶ月後の生存率、一年後の生存率も低下している。興味深いのはバイスタンダーが目撃した心停止で、通報が2分以下と5分以下では上記の項目で有意差が見られないのに対して、5分を超えるとそれらの項目全てで有意に低下している。目撃のあるCPAの場合5分で予後が異なってくるのは除細動のCPRファーストと同じ理由なのだろう。

 病院外CPAでは通報遅延で死亡率が高くなるのは別の報告4)でも指摘されている。1004例の心肺停止症例のうち779例でバイスタンダーから話を聞いた報告では、48%のバイスタンダーが通報遅延を認めている。遅延が少なかったのは目撃のある卒倒、公衆の場での卒倒である。患者の予後に関係する因子は除細動可能な心電図が予後を改善し、119番通報の遅延が予後を悪化させるとしている。

脳梗塞では運動麻痺以外は厳しい

 発症から3時間で治療法が分かれる脳梗塞。血栓溶解療法が出現しても、その恩恵にあずかる人はごく一部しかいない。そのため脳梗塞になったらすぐ病院へ行くように求められるのだが、これもまた厳しい結果が出ている。筆者らは脳梗塞に関連したシナリオを3つ用意し、それを一般市民に見せることで119番通報できるか調べた。参加者のうち28%は脳梗塞の症状を知っており、14%が3つのシナリオ全てで119番通報すると回答した。逆に言えば、脳梗塞の症状が出ていても86%は救急車を要請しないことが明らかとなった5)。

 また、脳梗塞でどの症状が出現すれば救急車を呼ぶかの検討もされている6)。1999年からの脳梗塞および一過性脳虚血発作の患者2975名の症状と受診行動を調べたものである。このうち40%が救急外来を受診している。対象とした症状は脱力、痺れ、発語・言語障害、意識低下、頭痛、視覚異常、めまいである。これらのうち、119番通報に結びついた症状は脱力、意識障害、発語・言語障害、めまいであり、痺れと視覚異常、頭痛は119番通報には結びつかなかった。

 教育も効果が薄い

今まで述べたCPAや脳梗塞で考えるのは、患者やバイスタンダーに知識がないからで、ちゃんと教育啓蒙すれば通報時間が早まるはず、ということである。しかし、現実は厳しい。虚血性心疾患患者を対象にして教育で受診時間を短縮できるか調べた研究7)がある。3522人の虚血性心疾患患者を2群に分け、片方の教育群には虚血性心疾患のカウンセリングと症状発症時の対応を教育した。2年間追跡調査を行い受診状態を検討した。結果として、全体の16%にあたる565人が延べ842回救急外来を受診した。発症から受診までの中間値はともに2.2時間と両群に差はなく、また救急外来を使う割合も教育群が64%で対照群が67%と、有意差はないもの教育群の方が悪い結果となってしまった。しかし教育群では通報時に症状などの要点をはっきり述べることができ、発作時のアスピリン服用が確実に行われていた。

 前出の金沢の文献1)でも、通報時間は1990年代に比べて短縮しているとしているが、その原因として携帯電話の普及を挙げており、患者の意識向上については述べていない。

でも啓蒙しかない

 虚血性心疾患での結果を見ると、教育がだめならどうすればいいのと考えてしまう。電話などのインフラ整備を除けば、患者や家族、地域を含めた啓蒙で地道に通報時間の短縮を目指すしかないのではないだろうか。患者本人が通報を躊躇していても家族に知識があれば通報してくれるだろう。そう簡単に成果は上がらないとは思うが、それくらいしか方法はないだろう。

文献

1)Takei Y et al: Resuscitation 2010 Epub
2)Resuscitation 2010;81:562-7
3)Resuscitation 2009;80:1108-13
4)Prehosp Emerg Care 2008;12:333-8
5)Stroke 2010;41:1501-7
6)Am J Emerg Med 2010;28:607-12
7)Circ Cardiovasc Qual Outcomes 2009;2:524-32


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10.9.12/11:25 AM

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