170820 外傷性ショック患者への輸液の効果

 
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170820 外傷性ショック患者への輸液の効果

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170820 外傷性ショック患者への輸液の効果

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先日、懇意にしている消防からプレホスピタルケア投稿用の原稿を受け取った。内容は交通事故で車内に挟まれているショック患者に輸液をしたというもの。著者の上司に「外傷患者に点滴しちゃ駄目なんだぞ」というとその上司は「ですが先生、MCのプロトコールでは点滴できることになっています」と言う。それはないだろうと思いつつ、論文を調べることにした。

病院前の外傷患者に輸液できないのは、輸液が血圧を上昇させ出血を助長することと輸液により血液が固まる力が弱くなり出血を増長してしまうからだと理解している。

低血圧蘇生法というらしい

まずは2016年に出た総説を読む。題名はHypoteisive resuscitation among trauma patients(外傷患者に対する低血圧蘇生法)。総説によると、今から約100年前の1918年、第一次世界大戦時に既にその概念は紹介されている。そこでは「輸液は血圧を上昇させ危険である。外科医が出血源をチェックする用意ができる以前に血圧を挙げることは失血を助長させる」と述べている。その後の動物実験を経て、朝鮮戦争からベトナム戦争の時期には失血量を急速輸液で補う方法が行われていた。1Lから2Lの輸液を45分間で投与し、その45分間の間に輸血用血液のクロスマッチを終わらせ、45分後からは輸血を行う方法である。だが、この大量輸血には重大な欠陥があることが分かった。死の3徴をもたらすのである。

死の3徴

死の3徴とは(1)低体温(2)アシドーシス(3)血液凝固不全、の3つを言う。低体温とアシドーシスは凝血の主役であるトロンビンの生成とフィブリノーゲンの活動を阻害し出血を助長させることから、この3つは密接に関係している。外傷患者では受傷直後から低体温の危険にさらされている。25?のリンゲル液を2L点滴すると体重70kgの患者の体温を0.33?低下させる。このため大量輸液時には輸液の加温が大雪となる。血液凝固不全は入院する外傷患者の25%に見られる。これら血液凝固不全患者に血圧上昇処置を行った場合出血量が増える。さらに、大量輸液は死亡率を上昇させるという報告が3つ出ている。また死亡率を上昇させないとした報告であっても、呼吸不全や多臓器不全、腹部コンパートメント症候群、術後感染を増やすとしている。このため1990年代から比較試験が行われるようになった。

5つの研究の結果

1つめ。病院前の検討。16歳以上の腹部刺創患者での検討。最高血圧は90以下である。病院前に輸液を開始する病院前群と病院に入ってから輸液をする病院後群の2群で比較した。病院前群は最高血圧が100mmHgになるまで輸液を続けた。病院に入ってからは両群とも同じプロトコールで治療を行った。3年間で598名の患者が対象となり、52%が病院前群、48%が病院後群であった。生存率は病院前群が62%, 病院後群が70%と有意差を認めており、また在院日数も病院後群が短かった。
2つめ。病院前の検討。プロトコールAは成人外傷患者に病院前輸液を行う輸液群。プロトコールBは行わない非輸液群である。17ヶ月間に1309名の患者が対象となった。輸液群は699名、非輸液群は610名である。受傷後6ヶ月での死亡率は両群で差はなかった。重大な合併症の発生率も差を認めなかった。この論文は全ての外傷患者を対象としており、またプロトコールAであっても輸液を行わなかった患者数も多く、研究として問題があると筆者は指摘している。
3つめ。病院内の検討。血圧が90mmHg未満の腹部刺創患者に対し、血圧を100mmHgを目指して輸液する群と70mmHgまで輸液をしない群を設けた。20ヶ月の研究期間中110名が対象となった。両群の人数は55名ずつで同じである。死亡数も4名ずつで差はなかった。死因は輸液群では2名が失血死、2名が多臓器不全であったのに対して、非輸液群では失血死が3名、外傷を原因とする急性肝不全が1名であった。
4つめ。病院前の検討。15歳以上、最高血圧90mmHg以下の腹部穿通患者192名に対し、最初に2L輸液し、さらに最高血圧を110mmHgに維持するようゆえ記し続ける高血圧群と、250mLを最初に輸液しその後は70mmHgを維持するために輸液をする低血圧群を設けた。この輸液方法は病院到着後2時間、もしくは止血完了まで続けた。24時間後の死亡率、死亡退院率は両群で差はなかった。受傷内容では鈍的外傷では高血圧群に比べて低血圧群の方が死亡率は有意に低かった。
5つめ。院内手術室での検討。14歳から45歳の腹部穿通患者で腹腔鏡もしくは胸腔鏡で止血を行った例での検討である。低血圧群は手術中の平均血圧を50mmHgに、高血圧群は手術中の平均血圧を65mmHgに設定した。対象患者数は全部で168名でほぼ同数が割り付けられている。この両群では死亡率は差がなかったものの、術後腎不全の率は高血圧群で有意に高かった。

ガイドラインは変更済み

これらの結果を受けて、Adecvanced Trauma Life Support(ATLS)では2013年にガイドラインを変更している。
・止血前の積極的な輸液を排し,低血圧状態を許容すること
・輸血を必要とする患者に対して輸液は1Lもしくは2Lまでとすること
さらに推奨項目として
・脳損傷なしの外傷患者では止血が確認できるまで最高血圧は80-90mmHgに保つこと
・頭部外傷患者で出血性ショックを伴っている(グラスゴーコーマスケール8以下)場合は平均血圧を80mmHg以上に保つこと

MCプロトコールは変更すべき

血が止まっていないのに血圧を上げれば血が吹き出るのは自然なことで、手術中の出血量を減らすために薬剤を大量に使う「低血圧麻酔」なるものも保険収載されている。MCのプロトコールも早々に変更すべきである。

文献
MM Carrick: Biomed Res Int 2016;2016:8901938


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17.8.20/7:37 AM

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