101217_G2010 小児領域の動向
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101217_G2010 小児領域の動向
「ガイドライン2010徹底解説」近代消防社からイラスト満載で2011年6月発刊
今回は小児領域についてお伝えする。この分野についてもガイドライン2005とそれほどの変化は見られないようだ。
「胸骨圧迫のみ」不採用
今回のガイドライン改定で唯一の大きな変更になりそうな胸骨圧迫のみのCPR。しかし小児領域では良いとも悪いとも判断の付かない話のようで、G2010の小児の項目では「胸骨圧迫のみCPR」のワークシート自体が削除されてしまっているし、新生児の項目では「胸骨圧迫のみCPR」の項目が存在しない。その代わりラリンゲアルマスクや呼気炭酸ガスモニターなど人工呼吸に付随する項目がずらっと並んでいる。
成人では人工呼吸をするときの胸骨圧迫の中断によって平均動脈圧が低下し、冠動脈の潅流圧が低下することが知られている。しかし新生児ではヒトでも動物でもデータがない。蘇生率や生存率の検討では、誕生したばかりのブタを用いて呼吸を停止させ心停止をさせた後に蘇生を行ったところ、胸骨圧迫のみより人工呼吸を加えた方が結果が良かったとされている。
小児では心停止は呼吸停止に引き続いて起きることが多いため人工呼吸は必須である、とされている。心筋梗塞が少なくアナフィラキシーショックや窒息が多い小児では、人工呼吸の重要性は成人に比べてはるかに高い。おそらく小児を対象に「胸骨圧迫のみ」の妥当性は検討されつつあるのだろうが、まだ症例数が集まっていないのだろう。
酸素は良くない
蘇生中、もしくは蘇生後の酸素の使用は制限されそうだ。
酸素は細胞の生存のためにはなくてはならないものである。しかし細胞は低酸素には強い耐性を持っているが高酸素には強い障害を受ける。これは肺気腫では二酸化炭素の動脈血分圧が酸素分圧より高くなっても生きていけること、高濃度酸素では活性酸素も増加し遺伝子を始めとする細胞メカニズムに強いダメージを与えることからも想像できる。
正常のイヌやラットを用いた研究では、心停止蘇生後に100%酸素を与えても大気を与えても生存率は同等であった。しかし脳全体の血流を止めて心停止を起こした場合では結果が異なり、大気に比べて100%酸素では生存率や神経後遺症が悪化する。さらに低酸素を与えるより100%酸素を与える方が成績が悪い。このことより高濃度酸素は弱った脳に障害を与えることがわかる。新生児が出産直後に泣くことについても、娩出から啼泣までの時間が短いことが分かっている。新生児で最初から酸素を投与したという厳密な研究がないため(娩出の話でも発露時に空気を吸っている可能性がある)はっきりと酸素がいけないとは言えないものの、酸素はパスルオキシメータなどの値を見た上で与えるべきであり、闇雲に高濃度を与えるべきものではない。
挿管は避ける
病院前での挿管は患者に好ましくない結果を与えることはこの連載でもたびたび取り上げている。G2010においても扱いは変わらない。病院前の挿管は合併症を生み出す。食道挿管やチューブ閉塞といった生命に直結するものから口内の傷といったささいなものまで含むと、合併症の率は低い報告で2%、高い報告では77%に認められる。小児では成人に比べ挿管による合併症の発生頻度が高いが、挿管による生命予後については小児と成人で明確な差は見られていない。同程度の重傷度の外傷患者では挿管はバックマスクの患者より死亡率が高くなる。特に重症頭部外傷患者では挿管には全く利点がない。挿管が必要だと判断される患者に対しては、バッグマスクで病院へ到着し病院で挿管するか、現場でどうしても挿管しなければならない場合はそのまま医師の到着を待って医師に挿管してもらった方が、救急隊自らが挿管するより死亡率が低下するという報告もなされている。
静脈ルートに代わる骨髄ルート
小児では静脈ルート確保に難儀することが多い。むちむちした1歳前の子供でしかも心停止なら静脈ルートが確保できるとはとても思えない。その時に静脈ルートの代わりとなるのが骨髄ルートである。専用の針を脛骨にぐりぐり入れるもので、誰にでも簡単にルートが確保できる。
小児においても成人においても、心停止状態での静脈ルートと骨髄ルートを比較した無作為前向きの研究は出ていない。しかし、小児においての骨髄ルートの有用性は確立されている。
ある施設で2歳未満の心停止児へ静脈ルートもしくは骨髄ルートの確保を比較した論文では、静脈ルート確保に成功したのは18%に過ぎず、それも7.9分の時間を要していた。しかし骨髄ルートは83%で成功し、確保のための時間は4.7分で済んだ。中心静脈ルートを確保するための時間は8.4分、カットダウン(皮膚にメスを入れて静脈を露出させる手技)では12.7分の時間が必要であった。
脱水などの心臓が動いている状態だと静脈ルートも骨髄ルートも成績が良くなるが、それでも骨髄ルートの優位は動かない。脱水のため病院前にルートを確保する場合、静脈ルートでは5分以上かかって成功率66%なのに対し、骨髄ルートでは5分未満で全例確保に成功している。骨を削ることによって懸念される合併症もほとんどなく、静脈から投与できる薬なら骨髄からも投与できる。日本でも骨髄ルート確保はますます広まっていくだろう。
G2010発表は11月12日
アメリカ心臓学会ではG2010の発表とカンファレンスを11月12日金曜日にシカゴで予定している。あと1ヶ月とちょっとである。何が変わって何が変わらないか楽しみである。そして、これからもこの連載や単行本でG2010の全容を伝えていく予定である。
参考文献
http://www.americanheart.org/presenter.jhtml?identifier=3060115
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10.12.17/6:44 PM
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