130406胸骨圧迫の中断時間は転帰と無関係

 
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130406胸骨圧迫の中断時間は転帰と無関係

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130406胸骨圧迫の中断時間は転帰と無関係

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胸骨圧迫の中断時間は転帰と無関係

神戸市消防局 杉山隼(すぎやまじゅん)さんから詳細なコメントを頂きました。ありがとうございます。励みになります。

長いこと連載を続けていると,以前自分の書いた文章と矛盾する文章を書くことがたまにある。最も肩すかしだったのが、現着が遅ければCPRを一定時間してから除細動を行う「CPRファースト」の文献であった。これは生理学的にも納得できる話だったのだが追試検証で効果不明となり否定されてしまった。

今回は心肺蘇生時で胸骨圧迫の中断の長さは患者の転帰に影響を及ぼさないという論文である。もしこれが本当だったら「絶え間なく」心臓を押すことの意味がなくなってしまう。

圧迫中断時間と転帰

オランダからの報告1)である。ガイドライン2010では5秒間で2回の息吹き込みを行いその他の時間は胸骨圧迫を持続することによって平均血圧を維持して脳と心筋に血液を回す、というのが「強く・早く・絶え間なく」の理論である。胸骨圧迫の中断時間が長ければ長いほど持ち上がっていた血圧は低下し,臓器への血流量は低下する。この論文ではバイスタンダー・救急隊員・警察官が行った心肺蘇生について、胸骨圧迫の中断時間と患者の転帰との関係を調べている。

心肺蘇生はガイドライン2005で行っている。ヨーロッパ版のガイドライン2005では胸骨圧迫の中断時間は5秒以内とし、この間に2回の人工呼吸を行うと定められている。AEDが装着された時点で心室細動もしくは心室頻拍であった症例につき、AEDの記録から胸骨圧迫のリズム・回数と人工呼吸を行うための胸骨圧迫の中断時間を求めた。記録時間が短くてはその症例に対する心肺蘇生のやり方が分からないので、最低でも1サイクル2分の記録が残っているものを検討に用いている。評価項目は神経学的に自立した生活を営むことのできる状態(神経学的カテゴリー1もしくは2)で退院した患者の割合である。
研究期間中にAEDを装着され放電に至ったのは336例あったが、完全な1サイクル(2分間)が記録されていないものなどの不適例を除いた199例を調査対象とした。不適例には15:2で蘇生をした例や胸骨圧迫のみの例もあった。患者の平均年齢は66歳、男性が69%、目撃のある卒倒が73%であった。連続2回の人工呼吸のために要した時間の中心値は7秒、25%から75%の値は6-9秒であった。すべての救助者で5秒未満が21%、10秒未満が83%であり、胸骨圧迫の回数は60回以上が97%、70回以上が88%、80回以上が63%であった。自立可能な生存退院率は199例中49例である。

結果を見てみよう。胸骨圧迫中断時間を3-5秒、6-7秒、8-9秒、10-12秒、13秒以上にわけて群を作り、どれだけの割合が自立可能な生存退院できたか比較している。それによると生データでは胸骨圧迫中断時間と生存退院率で有意差を認める群もあるのだが、年齢や性別で患者に補正をかけると中断時間と生存退院率には有意差がなくなる。また補正後では有意差がなかったものの、最も結果が良かったのは中断時間が12秒を超えた群であった。

結論として、胸骨圧迫中断時間と自立可能な生存退院率の間に関連は見られないことから、筆者らはもう少し長い時間の呼吸時間を認めるべきだとしている。

よくわからない

なぜこういう結果になるのか。その理由は私にはよく分からなかった。筆者らも解釈に苦労しているようで、何度読んでも言いたいことが把握できない。筆者らはファーストレスポンダーが違うのではないかとも述べているがこじつけだろう。考察の後半で筆者らは「レクリューブリージングを5秒で行う」というヨーロッパ版ガイドライン2010の記載について、根拠のないものだと断定し,少なくとも10秒は人工呼吸の中断は認められるべきとしている。

この論文もCirculationという雑誌に載っている。雑誌のレベルから言って論文の信頼性は高いと思うのだが、前提となる条件が整っていない。バイスタンダー役は救急隊員と警察官であり、また一般の住民もここに含まれる。さらに人工呼吸による中断の時間は1回でも記録されていれば研究に含まれるため、この1回の前後でどれだけ胸骨圧迫が中断されているかは考慮されていない。だいたい、胸骨圧迫の中断が3秒と13秒ではとんでもなく違いそうなのに,結果が同じなのは納得いかない。自立可能な患者ではなく,1ヶ月後の全患者の生存率はどうなのだろう。また現場での心拍再開率はどうなのだろう。雑誌外の付録に載っているのかも知れないが,それでも疑問はたくさん出てくる。

この研究は自立可能な生存退院患者は49例しかいない。人数を増やしたら有意差が出るかというと,データを見る限り群の間の生存退院患者はほぼ一定で,例数を増やしても有意差は出ないだろう。

助かる力がある人だけ助かるのか

この手の論文は過去に何度も紹介している。PEAの場合もアドレナリンの場合も,外からの処置や薬剤は予後に影響を与えず,患者本人に助かる力がある人だけ助かるという結論であった。今回もそう考えれば納得はいくのだが,それでは助ける側の努力とは無関係となってしまう。新たな検討を待ちたい。

文献
Beesems SG:Circulation 2013, Epub


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13.5.25/2:52 PM

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