131114守秘義務

 
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131114守秘義務

作)みいたん

 私たちの仕事は、仕事柄知りえる情報に関してはプライベートなものが非常に多い。救急車で傷病者の家に向かえば、家の間取りから生活状況まで把握出来る。時には家族の関係、近所や親類縁者との付き合い方が垣間見えたりということも多い。特に病気に関する話は口外出来るようなものではない。

 街中でよく見かける仲睦まじい初老の『夫婦』がいる。小さい町なので、買い物に行くにも散歩するにも、いつも仲良く二人で歩いている姿を見かける町ではちょっとした有名ご夫婦である。子供は居らず、『奥さん』が商売をしていて『旦那さん』がそれをお手伝いしているのは、長年連れ添っても仲の良い理想の夫婦像として語られることも多かった。

 ある日の深夜、その家から「60代女性のお腹が痛く動けない。」と通報があった。

 現場へ到着すると『旦那さん』の顔つきが少しこわばったような感じであった。観察したが痛みもそれ程強くなく、バイタルも安定していた。症状としては軽症と思われ当番医へ搬送することとなり、車内へ収容し現場を出発した。

 発症の経緯や既往・現病等を一通り聴取し、同乗者の『旦那さん』の氏名を尋ねたところ、ちょっと間があり返答に困った顔つきとなった。それに気づいた傷病者の『奥さん』は、「実は私たち籍が入ってないのです。」と言う。一瞬私たちも返答に窮したが、「報告書に同乗者の方のお名前を記載するだけですので。」と、少し不安そうな顔つきの「旦那さん」に声をかけた。

 この夫婦は、自分が子供の頃から一緒にいた記憶が有り、すっかり籍が入っているものと思い込み「奥さん」「旦那さん」と声を掛けていた。普段街で会った人などにも同様に声を掛けられていたので、皆そう思っていることなのだろう。

 余計なこととは思いつつも、「私たちが仕事上知りえた秘密は、守秘義務というものがあって口外しませんのでご安心ください。」と伝え、「籍が入っていなくても、ずっと素敵なご夫婦ですよね。」と声をかけると少しだけ車内の緊張が溶けたような感じになり、『旦那さん』の表情も少し和らいだようであった。

 救急車内での様子も、お互いを気遣っており、仲の良さが伝わってくるものだった。

 搬送先の看護師さんも違和感なく『旦那さん』と呼んでおり、誰から見てもそう見えるのだなぁと思った。いつまでもラブラブな夫婦というのが理想であろうが、いくつになっても仲がいいと言われるようなこんな『夫婦』でいたいものだと、帰りの車内で話題となった。


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13.11.14/4:13 PM

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