140615雪国の救急隊

 
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雪国の救急隊

氏名 冨高 祥子(とみたか しょうこ)
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所属 会津若松地方広域市町村圏整備組合消防本部 会津若松消防署
出身 福島県会津若松市
消防士拝命 平成18年4月1日
救急救命士合格 平成17年
趣味 買い物
息子と遊ぶこと

事例

発生は厳冬期2月下旬の午前中、「山スキーで登山中の5名のパーティで、70代の男性が倒れ心肺停止状態、現場はスキー場の最上部からさらに約700m登ったところ」との同行者からの通報でした。

覚知と同時に、消防防災ヘリの出動を要請。さらに、山岳での心肺停止状態とのことで、防災航空センターからドクターヘリが要請されました。指揮隊は、消防防災ヘリは山中からの病者のピックアップを、ドクターヘリには駐車場での待機を指示。救急隊は、スキー場パトロール隊の協力によりスノーモービルにてスキー場最上部まで移動し、そこから先は徒歩で現場へ向かいました。

現着すると、病者はスキー場パトロール隊による心肺蘇生法が行われており、救急隊の観察により心肺停止状態を確認。心電図初期波形は、発生より30分以上経過しているのにも関わらずVF波形。1回目の除細動を実施。登山用ウェアのおかげか体温の低下はなかったものの、上肢の露出が困難であったため静脈路確保は実施できず。その後もVF波形が継続していたため、2回目の除細動を実施しました。

消防防災ヘリが接近出来るよう、現場付近の圧雪・スキーやザック等の排除、さらに、ヘリへの手振りを同行者へ依頼。消防防災ヘリでピックアップを行い、駐車場で待機中のドクターヘリの隣にランディング。フライトドクターとナースが消防防災ヘリに搭乗し治療を開始したものの心拍の再開はなく、救急車での確実な心肺蘇生法が必要と判断し、陸路で救命救急センターへ搬送となりました。

————–

 この事例は、標高1816.29m、積雪期の会津磐梯山で起こった急病事故です。(写真1)

この事例のように他の機関との連携した活動は、山岳での事故だから特別というわけではありません。雪国の救急隊にとって、このような活動は当たり前なのです。

会津若松地方広域市町村圏整備組合消防本部は、福島県の西部、会津地方に位置します。昨年の大河ドラマ「八重の桜」で注目された新島八重のふるさとであり、鶴ヶ城を代表とする歴史的建造物や全国第4位の面積を誇る猪苗代湖、登山やスキーで人気の会津磐梯山など、東北でも有数の観光地です。(写真2)

気候は日本海側気候で、かつ、四方を山々で囲まれた盆地であるため、冬期間は晴天が少なく、降雪量が多くなります。

平成24年度会津若松市では1年のうち126日の降雪を記録し、1年の約3分の1は雪に閉ざされた寒い日が続きました。(写真3,4)

雪国の救急隊にとって、冬期間は救急活動に最も苦慮する季節です。

苦慮する点1 救急車内の温度管理

1月2月の平均気温は氷点下となり、待機中の救急車内温度も低下するため、救急出動時、救急車内適正温度といわれる24℃〜25℃になるまで時間を要します。そのため、待機中の車庫内では暖房器具を使用、出動時は暖房の設定温度を最大とし、ドアの開放時間を最小限にするなど、

傷病者を車内に収容した際には救急車内が適正な温度となるよう温度管理をしています。(写真5,6)

苦慮する点2 活動環境への対応(個人装備)

氷点下での活動は、救急服や感染防護衣だけでは寒さで活動に支障をきたすことがあるため、防寒衣を着て活動することがあります。しかし、防寒衣は厚手で活動障害になるほか、撥水性が乏しく血液等による汚染の可能性が高くなるため、傷病者と接触する際は感染防護に十分留意します。また、現場では適正であっても救急車内では厚着での活動となるため、ヒートストレスによる影響を受ける恐れがあります。さらに、車内の温度低下に気がつかないこともあるため注意が必要です。(写真7)

 積雪のため安全靴での活動が困難な場合は長靴を着用し、凍結している場所ではさらにスパイクソールを着用し活動します。

スパイクソールは着用したまま救急車内へ進入すると床面を傷つけるため、着脱可能なものを使用します。(写真8)

雪道の運転では雪面の反射や地吹雪によるホワイトアウトにより視界不良となるため、偏光サングラスを使用する場合もあります。(写真9)

苦慮する点3 活動環境への対応(車両装備)

屋外での活動では現場の路面が凍結していることがあり、救急隊が活動中に転倒する危険性が高くなります。救急車内には融雪剤を積載しており、路面が凍結している場合は活動場所に散布します。車両のスタックへの備えとしてスコップも積載しています。

また、帰署後は次の出動に備え、車両に積もった雪はすべて落とし、特にドア部分については凍結により開放ができない状態とならないよう水分は入念にふき取った上で、不凍液を吹付けます。

さらに、高速道路を使用した場合は、融雪のため路面に散布された塩化カルシウムによる車両の錆つき等を防止するため、高圧洗浄機で車両下部の洗浄も行います。

苦慮する点4 路面悪条件下でのストレッチャー搬送

傷病者宅から救急車まで、搬送路の積雪によりストレッチャーを移動できないことが多々あります。その際はストレッチャーを持ち上げた状態で搬送したり、バスケットストレッチャーを使用し雪上を滑らせて搬送することもあります。(写真10)そのためにはマンパワーが必要となるため、隊員の増強や消防隊と連携して活動を行います。

苦慮する点5 路面悪条件下での病院搬送

会津地方には救命救急センターをはじめ、救急受入れ可能な医療機関が各所に設置されており、救急隊にとって病院搬送に大変恵まれた地域です。しかし、その恵まれた状況下でも、路面の悪条件等により通常よりも搬送に時間を要してしまいます。

会津地域では全国的にも珍しい会津方式とされるドクターカーとのドッキング方式を採用しており、緊急度の高い傷病者を搬送する際はドクターカーの出動を要請することにより、救急隊のみで搬送するよりも早期の医療介入を開始することが可能です。(写真11)

また、天候が変わりやすい雪国ではドクターカーが主流ですが、気候条件によっては消防防災ヘリ及びドクターヘリの出動要請が可能となります。

雪国の救急隊は、このような苦労をしながらも工夫をして救急活動を行っています。冒頭で紹介した救急事例でも、関係機関との連携のもと病者にとって最良の方法を考慮しながら活動を行いましたが、残念ながら救命することは出来ませんでした。

雪国から雪をなくすことは不可能です。これからも創意工夫を行いながら救急活動を行わなければなりません。積雪や気温の低下・凍結などにより増える冬期間の救急事故。雪国ということが傷病者にとって不利益とならないよう活動すること。それが私たち、雪国の救急隊の使命だと私は考えます。


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14.6.15/2:48 PM]]>

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