151109真夏の夜の悪夢
151109真夏の夜の悪夢
作)みいたん
街外れに一軒の木造家屋がある。かなり年代物の造りで、冬などは余計なお世話とは思いつつも隙間風の心配を勝手にしてしまうような家である。70代の女性が一人暮らしをしており、いつも裏の畑仕事をしていたり、冬には除雪作業をしていたり、年齢を感じさせない元気な姿が印象的であった。
地球温暖化の影響なのか、北海道でも猛暑と呼べるような日が年々増えている印象がある。その年は涼しい夏の北海道はどこへ行ったのかと思うほどの毎日猛暑続きで、熱中症による搬送も多い夏だった。
そんな夏のある日、70代女性本人から体調がすぐれないと通報があり出動した。いつもは元気な女性なのだが、接触すると顔色は青白くやつれた感じである。時節柄熱中症を一番に疑ったが、その疑いは無い。特に切迫した症状は無かったが、とにかく体調が悪いと訴え、聞けばここ数日極度の睡眠不足だという。結局、近医のかかりつけへの搬送となった。木造家屋とはいえ、熱帯夜並の暑さが夜も続いていた夏だっただけに、「暑くて寝れないのであろう」と感じていた。
数週間後の早朝、隣人から70代女性の意識がないという通報があった。先日搬送した際に、重篤な疾患のサインを見落としていたのか等と考えながら現場へ到着。玄関先にいる通報者によると、いつもなら日の出とともに外にいるのに姿が見えないので訪問したところ寝室で意識の無い状態だという。
最悪CPAも想定して女性に接触すると、意識が無いというより朦朧とした状態であった。観察中枕元に目をやると薬包が目に留まった。どうやら睡眠薬の服用し過ぎを疑う状態である。処方したと思われるかかりつけ医へ搬送し、睡眠薬の大量服用疑いで帰署となった。
署内では、「慣れない暑さに若者でもバテてしまう程だから、暑さによる睡眠不足から体調を崩して、生活リズムが狂ってしまったのだろう」等と話をしていた。
後日、女性と会う機会があり「体調はいかがですか?」と声をかけたところ「この度は色々とお世話になりました」と睡眠不足に至った経緯を聞くことが出来たのだが、その話を聞いて背筋が冷たくなった。
猛暑が続いていた最中のある深夜、枕元でガサガサする物音に気付いて目が覚めたそうだ。玄関を施錠していないので、物捕りが入ってきたと思い、騒がずに寝たふりをしていようと思ったという。人の気配とは違うなと怪訝に感じてはいたそうだが、物音をやり過ごし寝れずに朝を迎え、枕元を見て驚いたそうだ。
なんとそこには、大きな蛇の抜け殻があったという。家の隙間から入り込んだ蛇が寝室へ侵入、こともあろうに枕元で脱皮をしていたのだ。
どこから入ってきたのかも分からず、まだ家の中に居るかもしれないという恐怖感もあり昼間も落ち着かず、夜はまた枕元に出てくるかもしれないという不安に駆られ、全くという位眠れない日々を過ごしていたそうだ。そして、医師に事情を説明し睡眠薬を処方してもらい、ゆっくり寝れるだろうとつい飲み過ぎてしまった、秋に差し掛かり涼しくなって少し気持ちが落ち着いて寝られるようになってきたと笑っていた。
もし自分の身に同じようなことが起こったらと考えると、怪談より恐ろしい話だった。
15.11.9/11:23 AM
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