231024救急隊員日誌(224)野球は嫌いだが、落合博満という男は追いかけたい

 
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救急隊員日誌
月刊消防 2023/02/01, p80
 
 
 
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野球

僕は、スポーツ観戦にあまり興味がない。小学生の時に、地区の集まりで親父と野球観戦バスツアーに参加した。確か、「巨人対広島」だったと思う。行きのバスの中で、点数を予想すると言うゲームが始まった。順番にマイクが回ってきて、予想得点と勝敗を宣言するのだ。ドンピシャ正解した人には景品があったけど、地域のバスツアーらしく「ビール1ケースとおつまみセット」だった。それでも当たった方が嬉しいなと思って、なんとなく「11対2で巨人の勝ち」と宣言してみたのである。そしたらどうだろう。バスの中は笑いに包まれた。「まーまー皆さん。子供ですから」確か、司会の人がこんな風に言った。どうやら今年の巨人は調子が悪く、反対に広島はめっぽう調子が良いらしかった。そう。僕は単にバカにされたのである。そんなわけで、数あるスポーツの中で、最も冷ややかな目で見ているのが野球だ。バスという逃げ場のない空間で、あんな嫌な思いをしたからだろう。野球が好きな人は、熱量の押し付けがすごい。と、思う。


 そんな僕だけど、「落合博満」という男は知っている。彼はどこか異様な雰囲気がありマスコミ嫌い。しかし現役時代は「努力の男」であり、ホームランもバカスカ打っている男でもあった。中日の監督になると、その手腕は誰もが認めるところとなり、現役以上に注目を集めたのだが、とにかくテレビ受けが悪い。試合中の采配やレギュラーの決定など、マスコミや野球殿堂入りのおっちゃん達からバッシングを良く受けていたのを知っている。こんな落合率いる中日が低迷してくれたら、殿堂入りのおっちゃんもヨダレものだったのだろうけど、期待に反して中日は大活躍する。そんな落合博満を、長年にわたって取材し書き上げた本が面白い。それが、鈴木忠平著「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」だ。

 その中で記者が落合監督に、「あの場面でフォークを投げれば、打者を打ち取れたのではないか?」と質問する場面がある。その1球の選択で、試合の勝ち負けが決まってしまったのではないかという趣旨の質問だったのだが、この質問をした記者に落合監督は叱りつける。「お前がテストで答案用紙に答えを書くだろう?もし、それが間違っていたとしても、正解だと思うから書くんだろう?それと同じだ!そんな話聞きたくない!」僕は、落合監督の言うことが正しいと思った。結果論で喋るな!というのが落合博満の言いたいことなのだろう。その投球は、確かに甘いコースだったのかもしれない。でも甘いコースになるかもしれないということを差し引いても、その時、その場面では、そのボールが一番良いと判断したから投げたに過ぎない。それは選手がとことん練習した結果なのだ。「選手を否定するんじゃねーよ。あいつを選んだのも、練習メニューを決めたのも、キャッチャーを選んだのだって俺なんだ。お前ら、責める相手が違うんじゃーねーか?」と落合は続ける。僕は、落合と消防長、そして隊長としての僕の姿を重ねた。一国の大将というものは、生半可ではないことは誰にでも簡単に想像できるが、僕はまだ、リーダーというものを何も理解していないことに気づいたのである。


 僕はスポーツ観戦にあまり興味がない。数あるスポーツの中で、最も冷ややかな目で見ているのが野球だ。ただ一つ、僕は野球には興味がないが、「落合博満という男には興味がある。」とだけ訂正しておこう。

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