151109トイレ休憩

 
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151109トイレ休憩

作)ゆうたん

 北海道では地理的な条件から、都市部の高次医療機関への長時間搬送は珍しいことではない。そんな時に悩まされるのがトイレの問題である。

 傷病者であれば携帯用のトイレやおむつで用が足りるものだが同乗の関係者にそれを強いるわけにはいかない。だからといって、ドライブしている時のようにコンビニに立ち寄るわけにもいかない。

 関係者も救急要請してから搬送に至るまでは、バタバタしていてトイレの余裕もないのであろう。搬送を開始して、しばらくして落ち着いてから尿意や便意をもよおす人は意外と多い。どうしても我慢出来ないと言われた時には、途上にある他本部の署所に連絡をしてトイレを拝借したこともある。

 とある冬の深夜、心疾患での救急要請があった。60代の男性が胸部に絞扼感を感じての通報である。幸い切迫した症状ではなく、本人がかかりつけという都市部の高次医療機関への搬送を強く希望し、了解も得たことから妻を同乗者とし、そちらへ搬送することとなった。その日は天候も悪く、除雪が追いつかないためか道路状態はかなり悪く凸凹で、揺れに細心の注意を払わねばならないような状況であった。

 搬送を開始してしばらくしてから、妻が「トイレへ寄るわけにはいかないでしょうか?」と尋ねてきた。傷病者に緊急性はさほど認められないものの、救急車はタクシーのような乗り物ではない。差しさわりの無い範囲で、救急車の特性から気軽にコンビニに立ち寄れるような性格のものではないという趣旨を説明し納得頂いた。

 病院まで道半ばという頃合いになると、妻がこちらの問いかけにも答えるのが億劫というような感じの無口になってきた。車両の揺れもあり、辛くなってきたのであろうと思い、途中の出張所に寄ることも考慮しますがどうしますかと問うと、病院まで我慢するとのことでその場は落ち着いた。

 やがて救急車が高速道路に乗りしばらく経った時、妻がやっぱり我慢が限界だと言い始めた。高速道路に入ってしまったので、パーキングまでトイレは無いので我慢できますか?どうしても我慢出来なければ携帯トイレやおむつがあるので、それで我慢して頂けませんかと伝えると、なんと尿意ではなく便意だと言う。困ったことになったと思ったが、高速道路なのでどうすることも出来ない。

 路側帯に救急車を止め屋外でというわけにもいかないので、パーキングまで我慢してもらうこととなったが、パーキングまであと数分というところで、車内にはほのかな香りが漂い始めた。除雪が入っていない道路状態であったため、車両の上下動が堪えたのであろう。

 パーキングのトイレ前へ救急車を停車。深夜のパーキングへ救急車が来たのは何事かと、休憩中のドライバーは好奇の目でこちらを見ているが、同乗者のトイレタイムである。白けたようなドライバーの視線が少々恥ずかしく感じてしまう。

 結局妻は下着を脱ぎ捨て、ズボンも汚れていたことから本意ではなかったであろうおむつをして病院まで搬送することとなった。

 緊急性がなかったり傷病者が落ち着いた状態の時にある同乗者のこのような要求には、救急車の特性からトイレへ立ち寄るか否かの判断に苦慮することが多い。

 便臭が漂う帰りの車内、もう少し早く立ち寄ればよかったかなと少し後悔した。


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15.11.9/11:30 AM

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