151109疑い
151109疑い
作)みいたん
近年、幼児や児童の痛ましい虐待事件の報道に接することが多くなった。
私たちも活動しているうえで、小児や幼児の一般負傷事案に遭遇すると、考えたくもないようなことが頭の中をよぎったりする。
1歳の女児が、「頭からポットのお湯をかぶった。」という通報があり出動した。
小児の重症熱傷であり、受け入れ先を考えるだけで頭の中が一杯で現場へ到着した。
家の中は雑然としており、「これでは子供もいつどんな怪我をしてもおかしくないな」等と思いながら女児に接触し観察を開始した。
口頭指導により全身水道水で冷却していたようで、低体温状態にあるのか酷く震えていた。頭から熱湯をかぶったという通報であったが、頭部や顔面に熱傷は認められず、背中から両下腿にかけて水泡がつぶれた状態であった。背部一面と臀部に加え両下腿の裏側も真っ赤に爛れた状態であり、三次選定を考慮することとなった。
隊員に処置と搬送を指示しながら、まずはドクターヘリを要請するが他事案出動中。陸送にての三次機関への搬送とし受け入れ先を探すが小児であり、なかなか受け入れ先が見つからない。
現場出発後かなりの時間を要したが、一時処置後に小児対応可能施設への転送を条件として、なんとか受け入れ先が見つかった。
ホッとしたのも束の間、隊員から耳打ちされた。
「虐待の可能性もありますよね。」
言われてみれば思い当たる節はいくつかあるのだ。
まず、通報内容が異なっていた。通報では頭からお湯をかぶったとのことであったが、母親に状況を尋ねると見ていないからよく分からないという返答であった。何度か尋ねて、テーブル上のポットが倒れてお湯をかぶったらしいことが分かり、母親も同じ部屋内にいたとのことだが重傷時の状況が今一つ不明であった。
そして部屋が雑然とし過ぎていた。母子家庭と聴取したので、女手一つで働きながら育てるのは大変であろうし、育児に追われ部屋の掃除や整理に手が回らないのも理解は出来る。しかし、雑然とし過ぎていることから、母親の性格の怠惰な面が垣間見えた。
いろいろ考えると、口頭指導があったとはいえ、女児がガタガタ震えているほど水道水に身体を浸していたことも、怪しく思えてくる。現場到着時にはやや取り乱していた母親、車内収容後もしばらくは涙が止まらずにいたが、落ち着いている今の様子も怪しく見えてしまう。流れ落ちたお湯によってとは思うが、足の裏にも軽度だが熱傷が認められるので、もしや受傷機転も嘘なのかと疑ってしまいそうになる。
しかし、狼狽していた母親の姿に違和感は感じず、隊員には余計な詮索をしないよう伝え病院到着となった。
引継時に、医師へ虐待の可能性があれば私たちにも一報を下さいと伝えなければならず、今の世の中を考え、背中に冷たいものを感じながら帰署することになった。
15.11.9/11:18 AM
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