case23:スズメバチ刺傷

 
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case23:スズメバチ刺傷

米粒大の皮疹

また来ましたスズメバチ。そんなに外来に出ているわけではないのですが。

この方は去年の8月にも刺されて、その時は家で2時間ほど休んで、全然調子が良くならないので来院しています。全身じんましんでしたが血圧低下はなかったようです。

↑今回は右手の薬指の付け根を刺されました。前回のことがあったので山から下りて30分後に到着。血圧150/90。上肢、体幹、大腿に小さく赤いぷつぷつができていました。

診察途中でだんだん表情がなくなって来たので寝かせて血圧を測ったところ100へ低下。その間にステロイド点滴指示。ボスミン皮下注射。点滴を作って点滴開始時には80mmHgまで低下。

点滴を急速に落とし始めたところで呼吸困難が出現。肺全体にラ音が聞こえて喘息になったようです。酸素投与とβ刺激剤を中心とする吸入を開始。同時にルートをもう一本確保してそちらからも急速輸液。血圧70。

これで意識が落ちたら挿管だなと思っていたところ、気管支拡張剤に反応して呼吸苦は減少、血圧も80mmHgに持ち直しました。

↑これは血圧が110mmHgに回復した時の様子。

喘息になった時には本人「だめかも知れない」と思ったそうです。次刺されたら病院に来るまで持たないでしょう。すぐエピペンの購入手続きをしました。


60歳男性

キノコ採りの最中スズメバチに襲われた。顔面、指をさされ30分後に来院。

主訴:手背の腫脹、胸部苦悶感

現症:顔面左眼下と右環指に刺創痕。手背は腫脹し、頸部、胸腹部に丘疹と発赤。発汗あり。息が苦しいと訴える。血圧90/44mmHg。心拍数120/分。SpO2 96%

Q1:考えるべき病態は
Q2:搬送患者として、搬送中の注意点


A1:スズメバチ刺傷によるアナフィラキシーショック
A2:通常のショックと同じ。酸素投与、体位管理、保温など。


解説

スズメバチに刺されて死亡する例は年間10例から40例ほどあるとされ、数からいけばハブや熊を上回る日本最大の日本最大の危険動物である。今年は夏が暑かったため北海道でも蜂が大量発生している。

死亡原因はアナフィラキシーショックによる。スズメバチに初めて刺されると体内でスズメバチ毒素に対して抗体が作られる。2度目に刺された時には抗原抗体反応が過剰に起こり、サイトカインやヒスタミンなどの化学伝達物質がMast cellなどから大量に放出されることによって症状が発現する。アナフィラキシーショックは通常1時間以内、しばしば数分で発現し急速に進行するため、症状が出たらすぐ病院にかかり適切な処置を受ける必要がある。

症状として、過敏症に留まるうちは、発疹、かゆみ、蕁麻疹などの皮膚症状や浮腫がある。アナフィラキシーショックに至ると交感神経刺激症状が前景に立つため、口内異常感、くしゃみ、しびれ感、冷汗、悪心、嘔吐、尿意、便意が先行する。進行すれば呼吸困難、胸内苦悶、喘息発作、さらには声門浮腫による窒息、チアノーゼ、血圧低下、意識レベル低下、ここで処置をしなければ死亡する。
この症例ではスズメバチ毒による刺入部の発赤腫脹、全身の蕁麻疹が見られ、また冷汗、悪心、胸内苦悶、血圧低下が見られた(写真参照)。

治療はエピネフリン(ボスミン)の筋注が第一選択である。エピネフリンは血圧を上昇させ気管支の攣縮を改善する。筋注部位は上腕より大腿が血中濃度の上昇が早く勧められる。喘息発作に対してはネオフィリンやステロイドの投与、血圧低下に対しては輸液、エピネフリンの間歇静脈投与やドパミンなどの持続投与が行われる。

今回の症例は10年前にスズメバチに刺されたことがあり、刺されて30分後には胸部苦悶感を訴えて来院した。血圧は既に低下していたが喘息発作は見られなかった。すぐにエピネフリン0.3mgを筋注し、その後ルート確保して急速輸液、ステロイド投与を行った。血管作動薬の使用を考慮しているうちに血圧が120mmHgまで上昇したためそのまま経過観察とした。

なお、山林作業者の携帯用エピネフリン製剤として「エピペン」が発売されている。値段が1万円以上しまた医師の診察が必要と面倒が多いものの、万が一を考えると必要な薬剤と言える。

写真1
刺された左手背。浮腫でパンパンになっている。

写真2
頸部の蕁麻疹

写真3

腹部の皮膚発赤。


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07.8.10/10:07 PM

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