case22:心筋梗塞・CPA

 
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症例

case22心筋梗塞・CPA

67歳女性

既往歴:高血圧と糖尿病。糖尿病はインスリン投与中。

1週間前より倦怠感あり、4日前には頭痛、咽頭痛、咳、鼻水で受診し、総合感冒薬を処方されている。

前日夜より高度の倦怠感と息切れ、めまいのため臥床。朝4時に本人より119番に出動要請があった。
通報はあったが声は聞き取れず、発信者番号検索にて傷病者宅を特定、救急出動した。

現場到着時、傷病者は居間電話口にてうつぶせに倒れていた。既に呼吸脈拍とも停止しており、バックマスクによる陽圧換気と心臓マッサージを施行しながら病院に搬送した。

病院に到着後も心肺停止は変わらず、気管挿管し心臓マッサージを続けた。末梢静脈路の確保が困難であったため左鎖骨下から中心静脈ルートを確保、アドレナリン投与3アンプルにて心室細動波形を確認、除細動2回にて洞性脈に復帰した。

血液検査とレントゲン検査を施行した後ICUへ搬送した。

胸部レントゲン写真(写真1)と頭部単純CT写真(写真2)、血液検査結果(表1,2)を示す。

写真1

写真2

表1

項目 検査値 正常値
白血球 14300 31-83
赤血球 327 345-460
ヘモグロビン 9.2 “10-14”
ヘマトクリット 28 32-43
MCV 86 84-102
MCH 28.1 26-36
MCHC 32.9 30-36
血小板 32.1

表2

項目 検査値 正常値
GOT 461 5-40
GPT 283 3-35
LDH 1901 50-400
Tcho 182 120-230
TG 70.6 23-158
UA 6 2.2-6.3
CPK 565 0-95
TP 4.8 “6-8”
BUN 34.6 “8-22”
Cre 1.5 “0.6-1.3”
Na 139 “135-147”
K 7.6 “3.6-5”
Cl 98.3 “98-108”
CRP 18.6
HDL-C 56.8 “38-84”

Q1:胸部レントゲン写真からわかることは

Q2:頭部CT写真からわかることは

Q3:血液検査結果からはどの疾患が疑われるか


A1:

写真1は胸部レントゲン写真のA-P(前→背中)像である。

まず簡単に確認できるものとして、気管内挿管チューブの深さと中心静脈カテーテルの位置がある。気管内挿管チューブの先端の位置は、左右気管枝分岐部(carina)から3cm以上頭側にあるようにする。これは、頸部の前屈・後屈によってチューブの深さが変わるためである。中心静脈先端は上大静脈から右心房内に位置させるが、気胸になっておらずまたカテーテルが頭部に迷入していなければ問題は少ない。

次に肺野を見る。この写真では肺野が白くなっており、それは肺門部(肺で心臓に近い部分)が最も白く、外側に行くにつれて黒くなっている。肺水腫の典型的な像である。また白い中に黒い細気管支が写っている。これはAir Bronchogramといい、肺胞に水分が溜まるため気管支に残された空気が浮かび上がるもので、その部分の肺に水がたまっていることを示している。

最後に心臓の大きさを見る。心臓の大きさは胸郭に対する割合で示され、通常は50%程度である。例えば胸郭(肺の左端から右端まで)が20cmで心臓の幅が10cmなら心臓胸郭比は50%となる。しかしこの症例の場合には65%となっており、見るからに心臓が大きい。心臓が大きくなる原因として最も多いのが心不全であり、これは心臓が血液を満足に拍出できないため、心臓の内腔に血液が溜まったものと考えるとわかりやすい。

まとめとして、心不全により肺水腫になったものと考えられる。患者はCPAだったので、これだけでは死因が心不全によるものかは分からない。

A2:

頭部CTは正常である。年齢からいっても脳は多少萎縮して、頭蓋骨と脳までの間には隙間ができる。脳の真ん中に白く見える部分があるが、それは松果体であり、高齢になって来ると石灰化する。

A3:

末梢血の一般検血では白血球が14300と異常に高くなっている。生化学検査ではGOT, GPT, LDH, CPK, BUN, Cre, K, CRPが高値を示している。GOT, CPK, LDHは心筋逸脱酵素として知られており、心筋梗塞が疑われる。

心筋梗塞の診断は、胸痛、心電図変化、心筋逸脱酵素上昇の3つを組み合わせて行われる。このうち、胸痛と心電図変化は心筋梗塞でなくても見られるものであり、逸脱酵素の上昇が決定的となる。

GOTは心筋、骨格筋、肝臓、腎臓、赤血球に分布し、これらの障害で上昇する。

CPKは筋疾患で上昇するが、CPKには心筋分画が知られており、その分画もあわせて測定する。CPKの値と心筋梗塞の大きさは関連することが知られており、4時間ごとにCPKを測定することによりおおよその梗塞巣の大きさと責任冠状動脈の再疎通についての情報を得ることができる。

LDHは体中いたいるところに存在するため特異性は少ないが、心筋梗塞の場合に正常化が1-2週間かかるため、発症後時間の経った症例を診断するのに役立つ。


解説

症例は長年糖尿病で加療を受けており、インシュリン治療を導入しても血糖値は安定していなかった。血液検査の結果を表2と照らし合わせてみると、119番通報した時点で初めて心筋梗塞になったわけではなく、少なくとも前日から心筋梗塞を起こしていたと考えられる。

糖尿病では無痛性心筋梗塞が起きることが知られている。これは自覚症状が全くなく、検査結果で心筋梗塞とわかるもので、糖尿病患者の増加を反映して現在ではかなりの割合で無痛性心筋梗塞になる患者がいる。

患者は3時間後に再び心停止となり死亡した。


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