case24:行き倒れ

 
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症例

case24:行き倒れ

症例

62歳男性。
1月中旬の午前6時、雪の中に人が埋まっていると警察を経由して出場依頼。
現着時、傷病者は発見者と警察によって掘り出されており、毛布がかけられてあった。
意識レベルJCS300。体温は測定不能。呼吸は浅くゆっくりとしており10回/分。血圧は両上肢で測定不能。脈拍経動脈で触知不能。

Q1:観察の要点は
Q2:搬送中の注意点は

A1:観察の要点

1)まずは生命徴候があるかどうか。体温が32度を切ると震えなくなり、その後は体温の低下につれて分時換気量、血圧、心拍数ともに低下していく。生命徴候を捉えられない時でも、車内収容後には心電図モニターを試みる。
2)体温計は使えない。腋下体温計と鼓膜体温計の多くは34度未満は検出できない。その場合、寒暖計を腋窩などに接触させでおおよその皮膚温を測定しておく。
3)呼気のアルコール臭やアセトン臭の確認、外傷の有無を確認する。

A2:搬送中の注意点

毛布などで保温に努める。積極的な加温は危険なので、車内の温度を上げる程度で良い。体温が33度になる頃から期外収縮が多発するので心電図モニターは欠かせない。


解説

低体温症は中心体温(脳および心臓の温度)が35度以下になる状態で、体温が低下すればするほど死亡率が高くなる。酔っぱらいが冬空に寝込んだような場合には毛布などをかけて体温が戻るのを待つだけで自然に回復するが、雪の中から掘り出されたり、川に沈んでいた場合には積極的な加温が必要になる。
通常考えられるのは山や海での遭難した例だが、平地で低体温の患者が発生した場合には、その背景に寒さから逃れられなかった基礎疾患が隠れていることが普通である。

原因としては
1)冬山での遭難など強制的な寒冷暴露
2)基礎疾患があり寒冷暴露されたもの
アルコールや睡眠薬などの薬物中毒、脳血管障害、外傷、糖尿病による昏睡(低血糖発作、高浸透圧性昏睡)など。
3)低体温になりやすい誘因をもつもの
新生児、老人、浮浪者

症状は体温の低下とともに変化する。中心体温32度までは体温保護と熱産生の目的で皮膚の血管収縮と震えが続く。中心体温が32度を切ると震えは消失し、筋の硬直が出現する。さらに分時換気量、心拍数、血圧が低下する。不整脈が出現し、中枢神経の抑制が来るため意識障害が起こる。さらに中心体温が27度を切ると呼吸循環の高度の抑制が起こる。放置すると死亡する。検査では不整脈、徐脈、代謝性アシドーシスがみられる。

治療は体温によって分かれる。

1)保温:毛布などで患者を包み、患者自身の熱産生によって復温を図るもの。中心体温が30℃以上で震えなどの熱産生機能が働いていることが条件となる。湯たんぽを鼠径部などの動脈に置き徐々に復温を図るようにする。

2)加温
(i)積極的表面加温:風呂や電気毛布で積極的に暖める方法。末梢の冷たい血液が急に心臓に戻るため不整脈から心停止になる可能性が大きく勧められない。しかし他に有効な手段がない場合には選択されることもある。
(ii)積極的中心加温:人工呼吸や人工心肺によって中心温をターゲットに加温する方法。効果が高い。
復温途中では循環動態が安定せず、特に32度から34度の間では不整脈が必発する。注意深い観察が必要になる。

本症例では院内の通常の体温計でも体温は測れず、手術用の直腸温モニターでようやく32度と確認された。呼吸は浅く15回、血圧は観血的動脈圧で75/35mmHgであった。意識が回復する傾向にあったため保温のみで経過観察。6時間後には体温が36度となり意識も回復した。復温中の不整脈を図1に示す。Short Runタイプの心室性期外収縮がみられる。

患者はアルコール依存症で時々道路で寝ていたらしい。今回は雪に埋もれながらも偶然掘り当てられたが、次回は分からないぞと説教したが本人は「それで死ねれば本望だよ先生」とうそぶくとんでもない患者であった。退院前に行政に対してもフォローを依頼した。


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