救急隊到着後に心肺機能停止となった傷病者が社会復帰した1事例

 
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事例

救急隊到着後に心肺機能停止となった傷病者が社会復帰した1事例

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北海道・留萌消防組合消防本部:著者連絡先:〒077−0021北海道留萌市高砂町3−6−11
   梅澤卓也・森山靖生・三好正志

はじめに

 留萌消防組合消防本部における心肺機能 停止(以下CPA)事例は、平成7年12月1 日の高規格救急車運用開始から平成9年9 月末まで53例である(図1)。

図1拡大

当消防本部 では、救急救命士発足以来CPA患者が社 会復帰した事例を経験していない。今回、救急 隊(救急救命士3名乗車)到着後にCPAとな った傷病者が、救急車内で呼吸・心拍を再開し、 社会復帰した事例を経験した。

事例 通報は、「72歳の男性が胸を苦しがっている。意識はある。」という内容であった。

 現場到着時、傷病者は居間に仰臥していた。家人から状況を聴取すると、「就寝中にトイレに起きたが、居間で胸の苫しみを訴えて倒れた。」とのことであった。観察の結果は、意識レベルJCSIII−2、呼吸18回/分(努力性)、脈打52回/分、血圧測定不能、顔貌苦悶様、瞳孔は左右とも6mmで対光反射は鈍く、失禁と嘔吐があった。

 口腔内を吸引し、経鼻エアウェイを挿人した後、バッグマスクで補助呼吸を実施した。容態の急変が懸念されたため、傷病者宅の電話で留萌市立総合病院へ状況を連絡した。搬送準備を完了した時点で携帯型心電図モニターを確認すると、心的数48回/分で心室性期外収縮を数拍認めた。傷病者宅の玄関を出た時点で傷病者の顔貌が苦悶様から無表情となり、また、胸郭の動きがないため確認すると、総頚動脈で脈拍を触れず、呼吸も停止していた。当携帯型心電図モニターにはバックランプ機能やアラーム機能がなく、屋外で暗いため波形は確認できていなかった。玄関から救急車までは床高住宅のため階段を降りなければならず、心臓マッサージは実施不可能で、人工呼吸のみ実施して救急車内に収容した。車内収容後、車載心電図モニターに切り替えたところ心室細動を認めたため、心臓マッサージを開始した。さらに、モニターを半自動式除細動器に切り替えて心電図を伝送し、医師から特定行為の指示を受けた。右橈側皮静脈に静脈路を確保するとともに200Jで除細動を実施したが、心静止となった。心肺蘇生法(以下CPR)を再開すると、8秒後に心臓マッサージと異なる波形を認めたため、CPRを中断した(図2)。

図2拡大

 観察の結果、モニターにて洞調律を確認し、 総頚動脈と橈骨動脈で脈拍が触知可能となり、 自発呼吸も再開したため、補助呼吸を実施し病 院へ搬送した。この間の時間経過を図3に示す。

図3拡大

呼吸心拍再開時の観察結果は、意識レベルJCS III-3、呼吸18回/分(努力性)、心拍数94回/ 分(携帯型心電図モニター)、血圧240/123mmHg、 顔貌は無表情で、瞳孔は左右とも6mm、対光反 射は鈍かった。

 帰署後に携帯型心電図モニターの記録を確認すると、車内収容前の搬送中に心室性期外収縮が多発しており、R on T型心室性期外収縮に続き心室細動が発生していた。病院収容時の意識レベルはJCSIII−3であった。直ちに頭部CT及び単純X線撮影が行われたが、異常は認められず、検査中の22時32分に呼びかけに応じるようになり、22時48分には発語があった。第1病日意識清明となり、狭心症疑いで入院となった。

 入院後の冠状動脈造影にて左冠状動脈前下行枝に有意狭窄を認め、入院加療ののち第32病日退院となり社会復帰した。

考察 当消防本部では、救急救命士発足以来CPA傷病者が社会復帰した事例を経験していない。この原因として、CPA事例が53例(図1)と少なく、パイスタンダーが実施した応急手当も7例と少ないこと、当消防本部管轄区域が東西に縦長の地形で現場到着まで時間を要する場合があること、救命救急センターや24時間体制の救急隊指導医などの制度がなく、医師による特定行為指示までに時間を要することなどが挙げられる。

 今回の事例ではCPA以前に観察がなされ、経鼻エアウェイとバッグマスクにより気道確保と補助呼吸を実施していた。CPAとなったのは搬送途上であったが、屋外のため周りが暗く、携帯型心電図モニターの画面が確認できない状況であった。しかし、我々は搬送中であっても傷病者の顔貌や胸郭の動きなどの注意深い観察を継続しており、顔貌の変化から心停止を疑ったことが救急車収容直後からの心臓マッサージと迅速な心電図伝送につながった。さらに、傷病者がCPAに陥る以前に救急隊が病院へ電話連絡していたことにより、病院スタッフが伝送モニターの設置された救急外来に待機していたことも、特定行為指示と除細動がスムースに行えた理由である。

 今回は、幸いにも救急隊到着後にCPAとなっており、直ちに的確なCPRに着手したことが社会復帰につながった。しかし、松田の報告によると、救急隊員の目前でCPAになった事例はわずか5.6%で、医師及び看護婦を含めても8.4%にすぎず1)一般市民へのCPRの一層の普及が必要である。また、電話による口頭指導も行いうる2)ことから、通信員の指導技術の向上にも努めなければならない。これにより、パイスタンダーによる応急手当、救急隊による応急処置、医療機関における治療という「救命のための鎖3)が完成すると考える。

結語1 観察の継続により、時機を逸することなくCPRを実施し得た。

2 CPA以前に傷病者の状況を病院へ連絡していたことにより、特定行為への指示がスムースに行われた。

 本稿の執筆にあたりご指導いただいた、留萌市立総合病院の石本郎医師に深謝致します。

【文献】
1)松田 環:救急救命士制度運用後の病院外心肺停止例の検討.日本救急医学会雑誌1995;6(3):240−252.
2)Eisenberg MS,Hallstroom AP,CarterWB,et al:Emergency CPRinstructionvia telephone.AmJPublic Health1985;75(1):47−50.
3)石田詔治:心肺停止.改訂救急救命士標準テキスト.へるす出版,東京,1994,PP357−378.

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06.10.28/0:12 PM





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