case27:心筋炎

 
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症例

症例27

21歳男性。

主訴:呼吸困難

生来健康。5日前から37度台の発熱あり、売薬を服用していた。しかし症状が良くならないため2日前に近医を受診、風邪の診断で感冒薬を処方された。その後も発熱は続いたが本人は風邪と考え安静にしていた。本日10時頃より呼吸困難・喘鳴が出現、訪ねてきた女性が驚いて119番通報したもの。

現着時、患者は起座呼吸で表情は苦悶状。意識は錯乱状態。唇にチアノーゼ。血圧110/40, 脈拍120. 脈は不整で弱く速い。SpO2 86%。体温38.0℃。

Q1:病態は
Q2:搬送中の注意点

A1:心筋炎。なんらかのウイルスが心筋に感染したもの。
A2:主症状は心不全である。起座呼吸に対してはそのままの姿勢で搬送すること。SpO2の低下に対しては酸素投与。不整脈に対しては心電図モニター監視。心筋梗塞と同じく不整脈から心停止に至ることがあるため厳重な監視が必要。

解説

心筋炎は症状とその重症度が多彩のため診断に苦慮する疾患である。

心筋炎の多くは風邪症状から始まる。たいていは軽度の発熱と咳、痰、咽頭痛といった軽い症状が先行し、次いで消化器症状が、さらに呼吸困難、胸痛、動機が出現する。血液検査所見では炎症関連タンパクの上昇や心筋逸脱酵素の上昇が見られる。心電図では非特異的なSTーT上昇といじょうQ波が特徴とされ、また症状によって期外収縮や伝導障害も観察される。胸部レントゲン写真では軽度の心拡大を認める。確定診断には心筋生検が有用であるが、状態の悪い患者では施行できない。治療法は対症療法に留まり、抗ウイルス薬投与、解熱鎮痛剤投与が行われる。心不全や不整脈に対してもそれに対応した薬剤が用いられる。

心筋炎から拡張型心筋症への移行が古くから指摘されてきた。本症例もその例と考えられる。拡張型心筋症は心臓が風船を膨らませたように大きくなって壁が薄くなり、血液を全身に回せなくなるものである。

患者は循環器内科に入院し、風邪症状と心不全からウイルス性心筋炎と考えられた。検査結果も心筋炎を支持するものであった。風邪症状は軽快したものの心不全症状は徐々に悪化し、胸水が出現、心臓陰影の拡大も著明となってきた。入院から1ヶ月後には期外性不整脈が多発するようになり、さらに血圧が低下、あらゆる治療に抵抗して入院から40日目で死亡した。

こんなに若くして亡くなるとは、ご家族や彼女の心痛はいかばかりかと憂鬱になる。

図1
入院から2ヶ月目の胸部レントゲン写真。心臓は著明に拡大している。

図2
死亡1週間前の胸部CT。心臓の著明な拡大と右胸水が認められる

図3

解剖時の心臓の断面。正常であればヒトの心臓は焼き肉で食べるブタやニワトリの心臓と同じくぎゅっと弾力あふれた外見をしており、血液をためる心室の内腔はほとんど見えないはずであるが、この心臓では壁が薄く、内腔はだらんと広がっている。これが拡張型心筋症の特徴である。


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