230304救急事例報告16 :心筋梗塞と脳梗塞を合併した 1 症例と症例検討会報告 高砂市消防本部 山口洸希・藤元宏治

 
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症例

救急事例報告16
心筋梗塞と脳梗塞を合併した 1 症例と症例検討会報告
高砂市消防本部 山口洸希・藤元宏治

近代消防 2021/07/11 (2022/8月号) p76-9


名前      山口 洸希
 ふりがな     やまぐち こうき
 出身地     兵庫県加古川市
 消防拝命    平成31年
 救命士合格   平成31年
 趣味      キャンプ、釣り
名前       藤元 宏冶
ふりがな     ふじもと こうじ
所属 兵庫県 高砂市消防本部消防署
出身地     兵庫県加西市 
消防拝命    平成12年
救命士合格  平成17年 
趣味       ドライブ

200512_VOICE#50_優先順位
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200520救急事例報告(14)_24歳女性くも膜下出血の1例
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目次

はじめに

皆さん、初めまして。兵庫県高砂市消防本部 山口洸希と申します。消防士歴及び救急救命士歴3年目の消防士です。今回、多数傷病により病院搬送後に死亡した症例について検討会を開きましたので報告いたします。

1.症例

83歳男性。

x年x月x日6時01分覚知。約1ヶ月から血尿があり、本日ぐったりして動けないため救急要請がありました。        

救急隊現場到着時、傷病者は居室ベッド上に仰臥位でやや不穏状態でした(図1、2)。早期にスクープストレッチャーを使用して車内収容し、バイタルの測定及び観察したところ意識レベルはJCSⅠ-3、呼吸数は30回でした。身体所見は右半身不全麻痺(図3,4,5)、眼瞼結膜蒼白であり、心電図上ST上昇を認めました(図6)。四肢爪先にチアノーゼを認めたため酸素投与を開始しました(表1)。

 

    

図1

接触時の傷病者の状態。再現写真

 

図2

やや不穏状態

 

表1

観察結果

意識レベル

JCSⅠ-1(不穏)

脈拍

69回/分

呼吸数

30回/分

血圧

156/67【mmHg】

SPO2

92%(酸素10リットル投与)

体温

35.4℃

瞳孔

左右3mm 対光(

心電図

ST上昇

麻痺

右不完全麻痺

図3

右半身不全麻痺。再現写真

 

図4

上肢ドロッピングテスト。右腕がすぐ落ちる

 

図5

下肢ドロッピングテスト。右膝がすぐ落ちてしまう

図6

車内での心電図。ST上昇が見られる

 

家族からの情報提供として、約1ヶ月前から血尿があったが本人が病院嫌いで未受診であり、食事もあまり摂っていないとのことでした。

心電図での所見を重視し、救急隊長が循環器科対応可能病院に連絡すると、近隣病院や当直2次病院へ連絡してほしいとの要望で収容不可でした。近隣病院に連絡すると脳外科で異常が無ければ対応するとの回答でした。さらに脳外科のある病院へ連絡すると検査結果まで1時間程度かかるが待機可能であれば収容可能とのことでした。再度循環器科対応可能病院へ連絡して事情を説明して収容許可を得ることが出来ました。

病院選定中や搬送途上のバイタル測定では、血圧は徐々に下降、脈拍は徐々に上昇、体温も徐々に低下していきました。(図7)

病院到着後に血糖値測定を実施すると血糖値20mg/dLで低血糖を確認しました。またCT検査で脳梗塞、12誘導心電図で心筋梗塞を認めました。

初診時の診断名は【アシドーシス、低血糖、心筋梗塞、脳梗塞、血尿】とのことで、転帰にあっては当日に急変したようで残念な結果となりました。

 

図7

血圧、脈拍、体温の推移

 

2.症例検討会(図8)

 

A:脳と心臓に疾患があり当日死亡した症例です。症例提示で議論となる点を順に検討していきましょう。

(1))覚知時点で考えるべき病態

B:私は1ヶ月前からの血尿があるということで泌尿器系の疾患やぐったりしていることから、膀胱癌や腎疾患を疑いました。

C:血尿からは出血性ショックも疑う必要があります。循環血液量減少性ショック。

D:脳血管障害の可能性もあるでしょう。それと低血糖も可能性があります。

(2)初期評価を終えて考えるべき病態

B:観察から心筋梗塞と脳血管障害が考えられます。

C:緊急性が高いのは心筋梗塞や脳血管障害ですが、やはり食事が摂れておらず不穏状態ということで低血糖になっているのではないかと考えます。

A:低血糖を疑っているのでしたら血糖値は測定しなかったんですか。

D:現場では家族にあまり食事を摂っていないと聴取していたこともあって血糖値測定も考えたのですが、傷病者の病態から早期の搬送を優先し測定には至りませんでした。後で考えるとやはり食事が摂れておらず低血糖による不穏の可能性もあり、すぐ血糖値を測定すべきでした。

(3)バイタルサインの変化への対応

A:搬送途中でバイタルサインが悪化していきました。

B:ショックに移行してきていると考えられます。

C:体温も低下してきているので保温もしっかりします。

D:明らかなショックバイタルではないのですが、この先やはりショックになる可能性が高いため心停止前輸液を医師に相談、また低体温になりつつあるためAED装着の準備を行っています。

(4)病院選定

A:これだけの疾患でショックになりつつあると、病院選定が大切になりますね。

B:病院選定は緊急性の高い循環器対応可能病院を選定すると思います。

C:明らかに多数の病態を発症しています。緊急度から考えると循環器対応が第一選択になるでしょう。当地域は脳か心臓かで搬送病院が変わってくるため、医師に明確な情報伝達が必要となる。そのためにもしっかりとした観察状況や病態等を把握することが肝心だと思います。

D:理想は循環器なのですが、結果としては病院選定に苦慮し滞在時間の延長になってしまいました。3次医療センターへの連絡や広域災害救急医療情報システムを考慮しても良かったかも知れません。

(5)この症例を振り返って

A:色々な傷病が重なって、病態把握や病院選定に苦労が多かったと思います。

B:いつ病態が悪化してもおかしくないため傷病者観察、モニターの継続観察は重要ですし、さらに血圧が下がるようであれば心停止前輸液も考慮したいと思います。

C:傷病者本人や関係者から、普段との違いを事細かく聴取することが重要だと思いました。また、病院選定時には先方に循環器と脳外科領域での治療が必要であることを伝えなければいけません。なのでもし隊長として出動するとなれば医療機関の情勢を把握しておく必要があると考えます。

D:当たり前のことをきっちり行うことが大切だとわかりました。事情聴取をしっかり行う。観察等から傷病者の容態把握と容態変化にすぐに気づくこと。迅速に対応すること。今回は病院選定に苦慮したことから、3次医療センターも考慮することなどです。

A:本症例は死亡退院という残念な結果となりましたが、病院選定中に血圧が低下しているということで早期搬送が必要な事案でありました。今後、同じような事案があったとき早期に正しい判断ができるように想定訓練を実施し、スキルを向上させることが重要と思います。今日はお集まりいただきありがとうございました。

図8

症例検討会のようす

 

症例
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