山田博司:正しい資機材の使い方 マスク保持

 
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山田博司、玉川進:正しい資機材の使い方 マスク保持 プレホスピタルケア 2002;15();


正しい資機材の使い方

マスク保持

山田博司1、玉川 進2
1旭川市南消防署豊岡出張所, 2旭川医科大学第一病理学教室

著者連絡先
山田博司:やまだ ひろし
旭川市南消防署豊岡出張所:救急救命士
旭川市豊岡4条3丁目7-1
TEL 0166-31-4603

はじめに

救急隊員が覚える手技の基本、マスク持ち。指示なし特定行為が認められ気管内挿管が認められるようになったとしても、マスク保持ができなければ挿管準備の間に心室細動も消失してしまうだろう。
この項では患者の首を45°横に向けるとマスク持ちが楽になるという、ちょっとしたコツをデータを基に紹介したい。

持って楽な姿勢は

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図1は手術室で看護婦さんにマスク持ちをしてもらったところである。マスクの押さえ方と左小指の位置は指示した。患者役の看護婦さんは若かったので、ほぼ真横まで首を回旋させることが可能だった。しばらくマスクをそのまま持ってもらった感想では、45°(図1−b)が最も楽だったという。図1を見ると、0°(図1−a)では左肩が下がっているし、90°(図1−c)では左腕を内旋させ体幹に密着させる必要があるようだ。これらはこの看護婦さんがマスク初心者で余計な力が入っているためだが、マスク上級者になっても克服できないものがある。

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図2は手首の部分を拡大した写真である。0°(図2-a)では手首の関節が反り返って(背屈)いる。それに対して45°(図2-b)では真っ直ぐ、90°(図2-c)では逆の方に曲がっている(掌屈)。人間はケガを防ぐため関節を屈曲し体を丸くするようにできており、逆に反り返るのは力が必要である。これを屈筋優位と言い、焼死体が膝を曲げ腕を組んでいるのは同じように筋肉が焼けても伸びる筋肉より曲がる方の筋肉の力が強いためとされる。手術室で患者相手に測定したところ、0°では20°程度の手首の背屈が必要であり、他の姿勢より手首は疲れる。このことから45°程度に患者の顔を傾けた方が疲労が少なくて済むことがわかる。

換気については

患者へのメリットを調べてみよう。
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旭川厚生病院手術室において、全身麻酔を受ける患者16人(表1)に対してマスクの角度と呼気炭酸ガス濃度との関係を調べた。研究に先立ち著者の1人が本研究の目的を説明し同意を得ている。ドーナツ枕で患者の頭部を固定し静脈麻酔薬で麻酔導入し意識を消失させた時点で、自発呼吸で吐き出される二酸化炭素濃度が首の角度によって変化するかを見た。
 まず患者の頭部を0°にして3呼吸連続して呼気終末炭酸ガス濃度を測定した。このときマスクは患者にぴったり当てるだけで、頤挙上などの気道確保手技は行っていない。次に顎挙上を避けつつ45°、さらに無理なく回せる最大回旋角度まで首を回して同様に測定し、最後に再現性を確かめるため45°に戻して測定した。その結果を図3に示す。

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図3を見ると、0°では0mmHgが6人いて、3mmHgも1人いる。0mmHgというのはつまり呼吸ができていないということである。これら7人も首を左45°に傾けるだけで気道は開通し、平均26mmHgの炭酸ガス濃度を得ることができた。また、45°から最大回旋位まで首を回しても呼気終末炭酸ガス濃度は変化しなかった。気道を開通させるためには首を45°回すので十分であり、それ以上回す必要はない。無理に回して患者の首を痛めても困る。
 首を回すことによって気道が開通するのは、首を回すことによって頤と舌骨を結ぶ筋肉群が緊張し舌骨が頭側に移動し舌根が引き上げられるためと考えている。

外傷患者以外の患者で

救急現場での外傷学が急速に普及している。外傷では頸椎保護が重要であり、外傷救急講習会では迅速確実に頭頚部を固定するように指導させる。もし心肺停止で収容させるほどの外傷患者なら脊髄ショックも当然考えられるので、この首を横にする手技は勧められない。
マスク持ちは力が必要である。心マッサージのような全身運動ではないにしても、マスクを支える左手首と親指・人差し指・小指は3分もしないうちに力が抜けてきてしまう。スミウエイなどチューブを入れることができれば良いのだが、それ以外ではずっとマスクを押さえていなければならない。この顔を横に向ける方法は救急隊員の疲労を軽減し有効なマスク換気を続けるのに効果があるし、患者の換気効率も上昇する。消防学校や研修所では教わらなくとも覚えておいて損はない手技である。


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06.5.2010:36 AM





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