手技73:初めてのドクターヘリ
講師:若松淳
胆振東部消防組合消防署安平支署
午前中に救急の要請が入った。工事現場で40代の男性作業員が急に倒れていびきをかいている、との通報であり出動した。 通報内容が重そうだ。通信員とお互いに目を合わせ、 「これはドクターヘリだな、即要請して」 と進言し出動した。 実を言うとこれが自分にとって初めてのヘリ要請だった |
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救急隊解説 | ||||||||
表1 ドクターヘリ要請基準 |
ヘリコプター要請基準に関しては、表1に示す平成12年2月7日付け総務省消防庁救急救助課長発出・消防救第21号「救急ヘリコプターの出動基準ガイドライン」による他、各地で運航されているドクターヘリ、それに代わる防災ヘリコプター運航要領を参考のこと。 ただし、初期通報段階で事故概要や傷病者情報を詳細に把握することは難しい。 | |||||||
表2 北海道支庁別ドクターヘリ要請状況 |
本格的治療開始時間の短縮のためには、「覚知即出動要請」を実現させる必要があり、現場キャンセルやオーバートリアージを恐れず要請する。 平成15年中の北海道におけるキャンセル率は表2の通りである。「覚知即出動要請」が浸透しているB支庁管内でも31%程度あり、ドクターヘリ運航に支障となる数字ではない。 | |||||||
隊員と機関員に、必要な機材の準備と活動内容を指示した。現場到着までは15分、いろんなことを想定し考えながら現場に向かった。図1 ヘリポートに持っていく資器材一覧 途上、通信員からヘリのフライトした時刻および到着予定時刻、ヘリポートの使用許可が出たこと、また、傷病者の詳細については不明であるので、現場確認後に通信員もしくはドクターヘリの通信センターへ一報を入れるように指示があった。 さらに、ヘリから直接無線が来てヘリポートの安全確保や地上支援隊のことについても要請を受け、もうそれだけで私の頭はいっぱいになり、パニックになった。 |
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救急隊解説 | ||||||||
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フライトナース解説 | ||||||||
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出動途中で、現場作業員の中に私の弟がいることを思い出し、詳しい状況が聞きたくて弟の携帯に電話してみた。 |
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救急隊解説 | ||||||||
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フライトナース解説 | ||||||||
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隊長という立場もあり、隊員・機関員の前では平静を装っていたが、私の鼓動は高鳴っていた。さらに、CPRを実施していると聞き、なおさらパニックなり、変な汗が出てきた。 ここでドクヘリ通信センターへ詳細を連絡しようと隊員と人工呼吸を変わり、自分は電話をした。以前から勉強会等でお世話になっている顔見知りの先生が電話に出た。 「○○救急隊の○○です。この隊は救命士がいない標準隊です。DCも高度医療のための機材もありません。酸素10L接続し心肺蘇生法を継続してます。バイスタンダーCPRはありました。ヘリポートは現場直近を選定してるので2分で行けます」 |
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救急隊解説 | ||||||||
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フライトナース解説 | ||||||||
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先生は ヘリはもうすでに私達の上空にいて、すぐ引き継ぎができそうだったので、機関員に現場出発を命じてヘリポートに向かった。 (あれ、心室細動か?) |
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救急隊解説 | ||||||||
図2 シグナルマンによる誘導図3 着実に誘導する | ドクターヘリの着陸時には、現場指揮隊あるいは救急隊などがシグナルマンとして誘導する場合がある(図2、3)。ヘリポートでのヘリ誘導については図4-8を参照。 | |||||||
ヘリポートでのヘリ誘導
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図9 一般車両は移動させる図10 テールローター 図11 雪の上に線を描くための入浴剤 |
ドクターヘリは、航空法第81条の2「捜索又は救助のための特例」が適応され、消防機関などからの通報または依頼に基づくものに限り、航空法第79条「離着陸の場所」の適応を除外される。それにより、各種学校や公園のグラウンド、河川敷、駐車場などに場外離着陸上を設定できる。 以下に注意点を示す。 ・人が居る場合は避難させる ・飛散物があれば撤去する ・駐車場を使用する場合は、一般車両を移動させる(図9) ・各種学校のグラウンドを使用する際は、校舎グラウンド側の窓を閉め切る ・&救急車、消防車を含めすべての車両の窓、ドアを閉め、ドクターヘリが着陸するまで開けない ・土埃が舞うようなグラウンドの場合は、あらかじめ散水する(ただし、散水によっても土埃を完全に防ぐ事は難しい) ・ヘリの後方からは絶対に近寄らない(機種によってはテールローター(図10)がない機種もあるが、安全のため危険区域を設定する) 冬期間の注意事項としては 多くのドクターヘリは、防災ヘリコプターに比して小型である。北海道を例にあげるとMD902型、EC135P1型ともに全長は約12m、プロペラを含め全幅は約10mほどなのに対して、防災ヘリのベル412EP型は全長約17mにおよぶ。比較的小さな機体の川崎BK117B-2型・B117C-1型でも全長は13mである。そのために防災ヘリなどを利用した場合は、さらに空地の確保とダウンウォッシュ対策が必要になるが、防災ヘリは逆にホバリングしたままホイスト救出が可能である。 |
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フライトナース解説 | ||||||||
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図13 ヘリに近づく救急隊ヘリポートに着いたら(図13)、ヘリから医師とナースも降りて来て、 図14 ヘリポートを走る医師と看護師 重そうな荷物を抱え、広いヘリポート内を走り(図14)、救急車内に乗り込んできた。 CPRのバックをもみながら、医師に心電図の波形がVFを呈していることと、作業員から聴取した内容を引き継いだ。医師による初療が開始され、点滴、投薬、挿管等が行われた。 除細動も4回実施した。私は初めて目の前で除細動を行ったのを見た。 この時、医師とナースとともに、救命の最前線で自分が一緒に活動できたこと、ドラマ「ER」のワンシーンかと勘違いするほど一心不乱に心臓マッサージをし続ける私がいて、なんだか熱い物がこみ上げて来て、助かって欲しいと切に切に願った。 |
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救急隊解説 | ||||||||
図15 救命処置は救急車内で行う |
通常、医師と看護師の2名体制で処置にあたる。狭隘なヘリコプター内での処置は困難なことが多く救急車内で救命処置を施すので、&患者は医師・看護師が診察するまで救急車外に搬出してはいけない&(図15)。 救急車内では、看護師とともに処置の介助を行うことになる。とはいえ狭い車内では1名付くのが精一杯である。 | |||||||
フライトナース解説 | ||||||||
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救急車内で15分くらい初療を行い、みんなで協力してヘリ内へ収容した。ヘリ内へ収容してからも私は心臓マッサージを行い協力した。エンジンがかかったので、離れたほうがいいと思い、看護師に心臓マッサージを交代した。 |
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救急隊解説 | ||||||||
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フライトナース解説 | ||||||||
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本事例報告者解説 | ||||||||
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(助かって欲しい・・・) そう願うしかなかった。ヘリの小窓からフライトナースが髪を振りみだし、一生懸命心臓マッサージしている姿が目に焼き付く。 図16 離陸 (よろしくお願いします) 図17 札幌の病院へ まもなく、ヘリは天高く飛び去った(図16、17)。 救急車内を整理して現場を引き揚げようとしたら、町の偉い人が来た。 「ここにヘリを着地させることはどこで許可を…」 ちょっとテンションが上がっていたので、偉い人に |
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救急隊解説 | ||||||||
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職場に戻って来たら、警察やらドクターヘリ通信センターや、あちこちから問い合わせが来た。 ウツタインの報告もあるし、報告書も早く出さないとならないし、また、検証医に提出もする必要があったので、深夜まで時間をかけ報告書を作成した。 大まかに反省してみた。
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その後 | ||||||||
その夜の仮眠の時、布団にもぐり、ボーッと日中のヘリの活動のことや、自分の人生について振り返ってみた。 ちょうど深夜2時頃、電話がチンと鳴っては切れて、またチンと鳴っては切れた。 (きっとあのオヤジ俺に挨拶しに来たんだな) って思った。でも小心者なので寝られなくなり、夜明けまでボーとすごした。 (そうだな、勤務あけたら線香の一本でもあげてこよう) 朝になり交代が来て引き継ぎをして帰路に着いた。そのお宅の前に車を泊めてお邪魔した。 救急現場にかけつけた、70代の傷病者の母親は 「倒れたって聞いて、すぐ現場に行って救急隊が来てくれたから、心強かったわ。あのヘリコプターに乗ったら耳も痛くなるし、あまり乗り心地のいい物じゃなくて、ドキドキして私の方で心臓が悪くなりそうだったよ。看護婦さんは、常に声をかけてくれて、安心したわ」 奥の方には、地元の消防団のおっちゃんや防火クラブの母ちゃんが朝からその家にいて、色々と葬儀のお手伝いをしていた。 親戚や手伝いの人たちにも、ヘリを呼んで搬送してもらったこと、額に汗して救命処置をしてくれたことについてたくさんお礼を言われた。ヘリのことや消防のこと、救急車のことをいろいろ雑談し、お茶を頂き、仏壇の写真を見つめ、右の手と左手を合わせ 今回の件については、非常に残念な結果であったが、自分にとってはとても貴重な経験だった。 |
06.12.10/7:33 PM
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