亀山洋児、炭谷貴博、松田幸司、玉川進:触診法による血圧測定の有用性。プレホスピタル・ケア 2006;19(6):36-8

 
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触診法による血圧測定の有用性
プレホスピタル・ケア 2006;19(6):36-8
亀山洋児:稚内地区消防組合消防署猿払支署

炭谷貴博:南宗谷消防組合中頓別支署

松田幸司:紋別地区消防組合消防署興部支署

玉川進:旭川医科大学第一病理学講座

この時の写真のデータです。マンシェット付近、肘窩に当てた親指がそれです


はじめに

循環動態の把握は傷病者の現在の状況と今後の変化を予測するうえで重要である。その中でも血圧測定は救急現場活動の際に救急隊員が把握するべき傷病者のバイタルサインの中でも必須なものである。拡張期・収縮期血圧の測定方法には自動血圧計による方法や聴診による血圧測定、触診による血圧測定など様々な血圧測定の方法がある。触診による血圧測定は何らかの原因で聴診による血圧測定ができない場合に用いられる。

道場信孝は成書1)の中で、触診法で最低血圧を知る方法を紹介している。それによると(著者改変)、「(1)肘関節部の上腕動脈の拍動を拇指にて触知ながら拍動を消失しするまでカフ圧を上げる、(2)カフ圧を低下させ、上腕動脈の拍動が触れたところのカフ圧を収縮期血圧とする、(3)血管の振動を確かめながらそのままゆっくりカフ圧を低下させつつ拍動を触知していると、ある時点で振動が消失する。その時のカフ圧が拡張期血圧である」

この拡張期血圧の触診法を筆者らが健常人に対して試したところ、聴診法による拡張期血圧とほぼ一致した。そこでわれわれは、触診法における収縮期血圧と拡張期血圧が救急搬送対象となりうる高齢者においても正確かつ有用かを検証することを目的として、触診法による血圧測定と聴診法による血圧測定を行い比較検討した。

対象と方法

入院群として入院患者13名を、健常群として健常者8名を対象とした。筆者ら3人が検者となり本人同意のもと聴診法と触診法で収縮期血圧と拡張期血圧を測定した。測定方法は最初に聴診法による血圧測定を実施し、その後に触診法による収縮期と拡張期の血圧測定を行った。血圧計はMABIS HEALTHCAREINC のWELCH ALLYNを使用した。

検討項目は
(1)測定法による値の違い
(2)測定が不可能だった項目
(3)触診法での検者による値の違い
である。

統計処理には(1)では対応のあるt検定を、(3)では一元配置分散分析、post hoc testとしてFisherのPLSDを用い、p<0.05を有意とした。

結果

患者背景を表1に示す。

表1
患者群背景
———————————————–
平均ア標準偏差 (最高-最低)
———————————————–
人数 13 (男6:女7)
年齢 86±8 100-70
身長 152±9 165-140
体重 48±13 70-30
———————————————–

(1)測定法による値の違い(図1)

測定値は筆頭筆者のものを用いた。結果を図1に示す。有意な差を認めたのは入院群で聴診法収縮期血圧>触診法収縮期血圧(p=0.0374)のみであり、その他の項目では差は見られなかった。

(2)測定が不可能だった項目(表2)

検者3人をあわせた結果を表2に示す。聴診法では入院群、健常群とも収縮期、拡張期血圧とも測定できた。触診法が不可能であったのは入院群のみで、収縮期血圧と拡張期血圧がともに測定できなかったもの3例、拡張期血圧のみが測定できなかったもの2例であった。
理由として、収縮期血圧・拡張期血圧ともに測定できなかった3例については、上腕動脈を触知できず測定できなかった例が1例、測定中に上腕や前腕の筋が緊張したことにより腱に動きが起こり、触診している動脈の拍動と識別が困難となり測定できなかった例が2例であった。拡張期血圧のみ測定できなかった2例については動脈の微細な振動が感知できなかったためであった。

(3)触診法においての検者による値の違い(図2)

入院群での拡張期血圧が、検者3人(A, B, C)のうち2人(A,C)で有意に異なっていた(p=0.013)

表2
測定不能患者
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番号 性別 年齢 身長 体重 聴診血圧 触診血圧
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1 男 80 150 40 88/54 100/不能
5 女 81 150 50 112/84 不能
7 女 90 140 30 132/72 128/不能
12 女 83 150 60 96/68 不能
13 男 98 165 70 104/68 不能
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考察

我々は触診法では拡張期血圧は測定できないものと考えていた。ところが触診で拡張期血圧が測定可能であるという情報を得て互いに試したところ、聴診法と変わらない値を得ることができた。自分の体で脈拍の乱れによる振動を感じて血圧を測定できることは驚きであり、機械に頼ることが多い救急隊員にも体験して頂きたいの思いも込めて、実際に患者で測定できるか検討したのが今回の研究である。

触診で拡張期血圧が測定できることは、我々も含めて知っている人はごく少ない。触診法を評価する項目として、
(1)測定値が聴診法と変わらないという「測定数値の正確性」
(2)どんな人に対しても収縮期血圧と拡張期血圧が確実に測定できるという「測定の確実性」
(3)だれが行っても同じ値を得られるという「測定数値の信頼性」
を挙げることができる。それぞれについて以下に考察する。

(1)測定数値の正確性について
測定法の違いにより入院群で聴診法収縮期血圧>触診法収縮期血圧と有意差が生じたことを考察すると、聴診法はコロトコフ音の発生を直接聴診器で聞くことにより正確に聴取できるが、触診法での収縮期血圧は上腕動脈の拍動が発生しても、触診している指が拍動を触知できなくては収縮期血圧を測定することができず、実際よりも遅れて触知された場合には、値が低くなることが考えられる。しかし、この有意差は健常群では見られていない。入院患者群の平均年齢87歳と高く、動脈硬化など動脈の拍動を触知するのに困難となる要素が伺われる。

(2)測定の確実性について
触診法による血圧測定において先頭筆者は入院患者群13名中3名の血圧測定ができなかった。その理由として、また検者の3名をあわせると、5例で測定不能であり、それらも同様の理由であった。健常者8名の対象群では触診法・聴診法共に測定できない例はなかった。
腕動脈の拍動を触知できない患者がいることは、触診法を困難と感じさせるものである。救急現場と異なり、病院内という安定した計測しやすい環境においても上腕動脈の脈拍を触知できないということは、救急現場において利用が制限されるという考察を導いた。救急現場を考慮すると触診法は動脈の拍動を触知できて初めて活用できる方法であり、バイタルの安定している人には触診法による収縮期血圧の測定は活用できるが、橈骨動脈や上腕動脈で脈拍が触知できない様なバイタルの傷病者では触診法による収縮期血圧の測定は活用できず、聴診法に比べ活用できる状況を選ばざるを得ない。

(3)測定数値の信頼性について
検者らは聴診法では測定した血圧に対し確信を持ってその数値を記載できた。しかし、触診法による拡張期血圧の数値についてはその正確さにおいて検者らは少なからず不安を感じた。理由として、触診法では収縮期血圧は脈拍の発生を感じることにより正確に測定さるが、拡張期血圧は拍動の感触の変化により測定されるため、測定する個人の感覚に左右されるところが大きいためである。

以上3項目について、そのいずれにおいても聴診法は触診法よりも優れている。触診法は血圧測定法一つの方法として必要な知識であり、健常者(正常なバイタルの人)には触診法による血圧測定は、その患者のおおよその血圧を知る上で有用である。しかし血圧測定の第一選択は聴診法であり、救急現場で触診法を活用できる場面は少ないと思われた。

結論

救急現場における血圧測定法として聴診法と触診法を比較すると第一選択は聴診法による血圧測定であり、傷病者の状況等により聴診法による血測定ができない場合においては触診法による収縮期血圧の測定を用いることができる。

引用文献
1)道場信孝:血圧[4] 血圧の間接的測定方法。岡安大仁、道場信孝編著、バイタルサイン 診かたからケアの実際まで。第1版。医学書院、東京、1988、pp86-87


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06.12.10/12:21 PM





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