200214救急・研究レポート 口頭指導で行うべき今後の取組み:口頭指導の模擬展示と事後検証の分析結果からの検討 ( 今治市消防本部 渡邉康之 )

 
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救急の周辺

近代消防 2020年3月号

 

口頭指導で行うべき今後の取り組み:口頭指導の模擬展示と事後検証の分析結果からの検討

渡邉康之

今治市消防本部

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目次

はじめに

119番通報時、市民(通報者)への口頭指導により救急車到着前に傷病者へ応急手当を実施することは救命率向上に有用であり、平成11(1999)年7月6日付け「口頭指導に関する実施基準の制定及び救急業務実施基準の一部改正について」(消防救第176消防庁次長)により、当消防本部においても通報者への口頭指導を実施しているところである。

だが、口頭指導を受ける市民の認識は低いと感じている。応急手当講習会での受講生の反応は「電話で心肺蘇生法が聞けるとは知らなかった」が大勢であり、また現場で口頭指導により有効な胸骨圧迫が行われている割合も多いとはいえない印象があった。

当消防本部では応急手当講習会で口頭指導の模擬展示を行っている。これは実際にバイスタンダー心肺蘇生(Cardiopulmoary resuscitation, CPR)を行う場合を想定し、「CPR実施者は決して一人でCPRを行うのではない」「消防は常に実施者と共にいる」ことを受講者に示すことでバイスタンダーCPRのさらなる普及を図ることを目的としている。今回私は応急手当講習会でアンケートを実施し、この口頭指導展示の有効性を調査した。また実際の心肺停止(Cardiopulmonary arrest, CPA)症例での口頭指導の効果も調査した。この二つの調査によって口頭指導で行うべき今後の取り組みについて考察した。

1. 研究1:口頭指導模擬展示の効果

(1)目的

当消防本部が応急手当て講習で行なっている口頭指導模擬展示の効果を確認する。

(2)対象と方法

対象は〇〇年○月○日から〇〇年○月○日までに今治市消防本部が主催した応急手当講習会の参加者である。

当消防本部では一般市民に口頭指導の重要性を認識してもらうべく、応急手当講習会で口頭指導の模擬展示を行っている。これは衝立の手前に蘇生人形、奥に通信指令員役の職員を配し(写真1)、一般市民が通信司令員の指示に従ってCPRを行うものである(写真2,3)。

 

写真1 応急手当講習会

↑写真2 応急手当講習会

↑写真3 応急手当講習会

 

応急手当講習会の終了後にアンケートを実施した。アンケートの内容を表1に示す。

表1

アンケート内容。「」内は選択項目

—————–

1)口頭指導について 「知っていた」「知らなかった」

2)(口頭指導を)具体的にイメージできた「できた」「できなかった」

3)(口頭指導は)必要だと思う「思う」「思わない」

4)119番通報時に(口頭指導を)受けたいと思いますか「思う」「思わない」

5)現場に居合わせた人が自分だけでも、口頭指導があれば心肺蘇生法ができると思いますか「思う」「思わない」

—————-

(3)結果

研究期間中のアンケート対象者は〇〇名、回収数は98名、回収率は〇〇であった。回答者の年齢は22歳から68歳、平均〇〇歳であった。

各項目の結果を示す。

1)「口頭指導について」との質問に対して「知っていた」と答えた割合は29%と低い結果であった。(表1)

 

2)「(口頭指導を)具体的にイメージできた」との質問に対して「できた」との回答が98%であった。(表2)

 

3)「(口頭指導は)必要だと思う」に「思う」と答えた率は100%であった。(表3)

 

4)「119番通報時に(口頭指導を)受けたいと思いますか」に「思う」と答えた割合はが94%であった。「思わない」が6%あり、その理由として既に心肺蘇生法を知っているためとの記入があった。(表4)

 

 

5)「現場に居合わせた人が自分だけでも、口頭指導があれば心肺蘇生法ができると思いますか」の回答で「思う」75%、「思わない」19%であった。選択肢にない「どちらとも言えない」と答えた割合が6%あった。(表5)

 

 

2.研究2:CPR症例での口頭指導の効果

(1)目的

119番入電時にCPAが疑われる事案で通信指令員が行った口頭指導によるバイスタンダー心肺蘇生(Cardiopulmonary resuscitaion, CPR)実施率とその効果を調査する。

(2)対象と方法

平成30(2018)年中のCPAが疑われる事案(130件)において通信指令員が口頭指導を行い搬送したCPA事案を対象とした。当消防本部ではバイスタンダーCPRについて、その実施率、有効率、バイスタンダーCPR実施者の性別、年齢、バイスタンダーCPRが無効であった場合はその理由を口頭指導記録表に入力している(資料4)。それぞれの項目につき検討を加えた。

↑資料4 口頭指導記録表

 

(3)結果

胸骨圧迫の実施88件(67.7%)、未実施42件(32.3%)であり(表6)、実施していた88件中、有効37件(42.0%)、無効51件(58.0%)であった。(表7)有効37件中、男性20人(54.1%)、女性17人(45.9%)で、40~50代の男性が多く(表8、表9)、無効51件中、男性17人(33.3%)、女性34人(66.7%)で、50~60代の女性が多い結果であった。(表10、表11)胸骨圧迫の無効理由を複数回答可とし、圧迫強度が52%と過半数を占める割合となった。続いて、圧迫部位、実施場所、救急車の誘導で隊員が未確認、圧迫リズム、圧迫解除の順となった。(表12)

 

 

 

3.考察

消防庁では前掲の「口頭指導に関する実施基準の制定及び救急業務実施基準の一部改正について」につづき「通信司令員の救急に係る教育テキスト」を2014年に発行して口頭指導の普及を図っている。2015年に改定された心肺蘇生ガイドラインでも口頭指導の重要性が強調されている1)。アメリカでは口頭指導を電話CPR(Telephone CPR, T-CPR)と名付けて強力なコマーシャルが行われている2)。

(1)研究1:口頭指導模擬展示の効果

本邦における口頭指導の認知度は低いと言わざるを得ない。これは研究1アンケート1)「口頭指導について」「知っていた」と答えた割合が29%しかいなかったことに表れている。このため当消防本部では応急手当講習会で口頭指導の模擬展示を行っている。実際に見てもらうことでイメージしてもらうことが重要だからである。バイスタンダーCPRを妨げる最大の要因は「間違ったことをするかもしれない」「相手を傷つけるかもしれない」という恐怖である3)。当消防本部が行う展示は、参加者には口頭指導を具体的にイメージさせ、バイスタンダーCPRに伴う恐怖を取り除く一助になると考える。

(2)研究2:CPR症例での口頭指導の効果

事後検証の分析結果では無効理由の過半数が圧迫強度であった。また無効の割合は年齢が高くなるにつれて高くなっていた。通信指令員が電話口から実際の圧迫強度を想像するのは困難であるが、バイスタンダーCPRを実施している人の年齢や性別は推し量ることができる。通信指令員は実施者にあった指導、例えば「より強く」「しっかりと押してください」といった呼びかけを、平易な言葉を使って口頭指導する必要がある。

(3)当消防本部での啓蒙活動

現在、より多くの市民へ口頭指導について周知・啓発することを目的に、「119番通報時のお願い」のPR動画を作成し、本市公式ホームページでの動画閲覧(資料5)、本市SNSでの動画閲覧(資料6)、本市広報紙のQRコードによる閲覧(資料7)、フリーマガジンへQRコード掲載による閲覧(資料8、資料9、資料10)、市役所の行政情報案内モニターによる放映(写真4、写真5)、ラジオによる放送(資料11)、応急手当講習会でのチラシ配布(資料12)、病院等の多数の人が出入りする場所へのチラシの配布・掲示等(写真6、写真7) 様々な方法を用いての周知・啓発を行い、今後もバイスタンダーCPR実施率の検証を行う必要がある。


 

今治市公式ホームページ


今治市Facebook


本市広報紙 広報いまばり 67,500部発行 (各世帯)


フリーマガジン 68,000部発行


ラジオによる放送


応急手当講習会で配布するチラシ


 

ディスプレイと掲示物


4.結語

(1)口頭指導の模擬展示はバイスタンダーCPR実施者の恐怖を軽減させる可能性がある

(2)実際のバイスタンダーCPRにおいては、実施者にあった指導が必要である

(3)平易な言葉や表現を用いて様々な方法での広報、普及啓発を実施する。

文献

1)一般社団法人 日本蘇生協議会 .JRC 蘇生ガイドライン 2015 オンライン版, 2015, 第1章一次救命処置。 p3(https://www.japanresuscitationcouncil.org/wp-content/uploads/2016/04/1327fc7d4e9a5dcd73732eb04c159a7b.pdf)

2)https://cpr.heart.org/en/resuscitation-science/telephone-cpr

3)Pei-Chuan Huang E, Chiang WC, Hsieh MJ, et al:Public knowledge, attitudes and willingness regarding bystander cardiopulmonary resuscitation: A nationwide survey in Taiwan. J Formos Med Assoc. 2019;118:572-581

著者紹介

渡邉康之(わたなべやすゆき)

愛媛県今治市出身

昭和56年5月8日生まれ

平成19年4月消防士拝命

平成27年3月救急救命士合格 

平成29年4月より今治市消防本部中央消防署勤務

趣味は陸上競技、家庭菜園

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