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200218非向精神薬中毒によりQT延長を認めた後、心肺停止となり除細動を実施した症例

プレホスピタルケア2019年12月20日号(32巻6号通巻154号66-8)

「投稿・研究」

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非向精神薬中毒によりQT延長を認めた後、心肺停止となり除細動を実施した症例

車田祐介1)、長谷川大典1)、上條吉人2)、芳賀佳之3)

1)坂戸・鶴ヶ島消防組合消防本部

2)埼玉医科大学病院救急センター・中毒センター

3)埼玉医科大学病院集中治療部

著者連絡先

車田祐介(のりたゆうすけ)

坂戸・鶴ヶ島消防組合鶴ヶ島消防署

〒350-2217 埼玉県鶴ヶ島市三ツ木378-2

電話: 049-285-3119

はじめに

坂戸・鶴ヶ島消防組合は埼玉県の西部地域に位置し、坂戸市及び鶴ヶ島市を管轄としている。人口は両市で約17万人おり、管内を関越自動車道、首都圏中央連絡自動車道及び国道407号線が走り、首都圏のベッドタウンとしての機能を担っている。消防本部は坂戸市内にあり、2署2分署での体制をとっている。平成30年の救急件数は7,899件で、5台の救急車で対応している。医療機関は管内に2つの二次病院があり、隣接する日高市及び川越市にそれぞれ3次病院がある。

私たちは非向精神薬である中枢性筋弛緩薬エペリゾン塩酸塩錠(商品名ミオナール)の過量服薬例を経験した。QT延長を認め、病院到着数十分後に心肺停止(無脈性心室頻拍)となり、除細動を実施した。中枢性筋弛緩薬エペリゾン塩酸塩錠(ミオナール)は、救急救命士標準テキストに記載のあるQT延長を招く医薬品中毒には含まれていない。しかしこの薬は肩こりや筋緊張性頭痛などの治療薬として広く使用されている薬剤であることから注意喚起のため報告する。

症例

(1)現場

平成30年3月某日、3時25分入電。「46歳の妹が過量服薬後の嘔吐」との通報内容で出場した。出場途上、プレアライバルコールを実施し、傷病者の既往歴を確認したところ、精神疾患で精神病院に通院中であることが判明した。

現場到着時、傷病者は座位の状態で、意識レベルJCSII-10、GCS12(E3・V4・M5)であった。バイタルサインを測定するとともに、服用した薬剤の確認を行ったところ、現場にいた兄が大量の薬包プラスチックを示した。薬包の量から中枢性筋弛緩薬エペリゾン塩酸塩錠(ミオナール50mg)306錠分と、その他の処方薬8錠を服用したと考えられた(表1)。傷病者本人によると服薬時期は8時間前であった。

薬剤情報提供文書から、エペリゾン塩酸塩錠に関しては、肩こり等の痛みを和らげる薬であり、三環系・四環系抗うつ薬ではないと判断した。現場には嘔吐物があった。

接触直後のバイタルサインを表2に示す。

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表1

薬の詳細

商品名 容量 数

ミオナール 50mg 306錠

 クロナゼパム 15mg 2錠

 サイザル   5mg 3錠

 ラボナ 50mg 3錠

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表2

バイタルサイン

項目 結果

意識レベル II-10

呼吸 20回/分

脈拍 66回/分(橈骨・不整)

血圧 84/-mmHg(触診)

SpO2 98%(右手指)

瞳孔 8mm(対光反射あり)

体温 35.8(腋下)

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(2)搬送中

図1に救急車内での吐物を示す。吐物の中に服用したと思われる錠剤が見られた。吐物には独特な薬品のような臭気があった。

図1 嘔吐物

車内収容後に心電図でのモニタリングを開始したところ、RR間隔の半分以降にT波が認められたため、QT間隔の延長と判断した(図2)。致死的不整脈に備え、除細動パッドを装着した。

状況及び現症状から、過量服薬による中毒症状と判断し、救急センター・中毒センターを有する大学病院を選定した。

(3)病院到着後

病院到着16分後、意識レベル及び心電図波形に大きな変化はなく、QT延長は継続していた。

その後突如、トルサデポワンが出現し(図3)、次いで無脈性心室頻拍となったため、心肺蘇生法を実施するとともに、医師が除細動を行った(図4)。

2分後の波形確認で心拍再開を確認したが、QT延長は継続してみられ、その後自発呼吸再開となった。

この傷病者は時間経過とともにQT延長は消失し、退院時にQT延長は認められなかった。

時間経過を表3に示す。

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表3

時間経過

事象 経過分

覚知 0

出動司令 1

出場 4

現場到着 11

傷病者と接触 12

車内収容 27

現場出発 45

病院到着 63

トルサデポアン 103

除細動 103

自発呼吸再開 109

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図2 車内収容時の心電図波形。近似II誘導

図3 病院到着後。ドルサデポアン発生

図4 病院到着後。トルサデポアンから無脈性心室頻拍へ移行したが、除細動に反応して洞調律に戻った

考察

本症例から、我々は常に最悪の状況を想定した活動の必要性と早期心電図モニタリングの重要性を再認識した。いかなる時も、起こりえる状況・病態を想定しながら活動することが大切であり、除細動を含む心肺蘇生法をどんな時でも施行可能な体勢で傷病者に対応することが重要である。

(1)エペリゾン塩酸塩錠と心電図変化について

エペリゾン塩酸塩錠添付の医薬品情報提供書の中にQT延長の記載はなく、医薬品機構のWEBサイトにも副作用としてQT延長は記載されていない。これはここまで多量の服用は予期していないためと思われる。だが過去に同様の症例報告があるため、本症例はエペリゾン塩酸塩錠を原因とするQT延長であり、トルサデポアンと無脈性心室頻拍はQT延長により引き起こされたものと考えられた。

(2)観察について

本症例では過量服用した医薬品がQT延長をきたす向精神薬でなかったことから、接触から心電図のモニタリングを開始するまで約20分の時間を要してしまった。しかし、向精神薬ではなくても大量に薬剤を摂取すればQT延長が起こっても不思議ではない。早期に心電図モニタリングを実施し、波形の異変に気が付くことが重要である。

(3)処置について

本症例では心停止前静脈路確保を実施することで、ショック症状の改善を期待できた。

輸液がもたらす利尿作用によって薬剤の血中濃度を低下させる可能性もあるが、搬送時間が20分に満たないことから効果はほとんどないと考える。

(4)情報収集について

薬物中毒者は服用した医薬品について虚偽の申告をすることがしばしある。本症例でも本人が過量服用したと申告した時間は8時間前と訴えていたが、吐物の状態から長くてほんの数時間前と考えられ、傷病者の訴えについては信憑性に問題があった。病歴や服用薬聴取の重要性、関係者からの情報聴取及び現場の状況の確認を円滑に行うことが必要であると感じた。

結論

(1)エペリゾン塩酸塩錠によるQT延長からトルサデポアン、無脈性心室頻拍に至った症例を経験した。

(2)薬物の大量摂取では早期に心電図モニタリングを実施し、波形の異変に気が付くことが重要である。

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