Count per Day
  • 402018/4/15からの閲覧数:

200210最新救急事情(213-1) エビデンスはないけど有効なターニケット

プレホスピタルケア 32巻6号(2019/12/20) p82

最新救急事情

エビデンスはないけど有効なターニケット

ボストンマラソン爆発テロではゴール近くで圧力釜を爆発させた

救急隊で最も新しい資機材ターニケット。去年3月に消防庁から教育テキストが発行され、それを元に各地で急速に教育と配備が進んだ。ターニケットの講習会は多くの人が受講している。教育テキストは止血の機序、ターニケットの使い方、テロ災害への対応の順に書かれていて、巻末には解剖図と用語説明がある。この手のテキストには引用文献が記されているのが普通なのだが、このテキストが受講生用だからか、どこにも載っていない。内容も「有効に活用された」「止血に対する高い意識があったといわれる」と、印象が記載されている部分がある。ちゃんとした文献に当たってみた。

テキスト「-はじめに-」

「ターニケットを用いた止血が効果的」と書かれている。ではその根拠はどこにあるのか。これが見つからなかった。死体で実験した結果ではターニケットを使うことで出血量の抑制と出血時間の短縮が期待できるとされている1)。

しかし生きている人での報告は探しても見つからない。これは症例が限られることが原因というより、自明の理であることが原因だろう。下肢の手術を見ていると、ターニケットに圧を加える前後では出血量が全く異なる。

テキスト8ページ 「小児に対しては、使用しない」

このテキストで一番疑問だったのがこの「小児には使用しない」という話である。お役所が出す教科書だから根拠はあるのだろうが、先に書いたようにこのテキストには引用文献が全く書かれていない。

小児に対してのターニケット使用について過去の論文を調査した報告がアメリカ小児外傷学会から出ている2)。それによると小児でターニケットを暑かった論文は250編見つかり、そのうちの134論文を調査対象とした。その結果、調査に限界はあるものの小児外傷学会として小児に対するターニケット使用を支持するとしている。仕様の際には加える圧力を出血を止める最小限にとどめることを提言している。学会として小児でもターニケットを使うようキャンペーンを行うとも書かれている。

テキスト10ページ 「Hartford Consensus」

2012年12月、アメリカ・コネチカット州のサンディフック小学校で20歳の男が銃を乱射し、26名を射殺し自分も自殺した事件が起きた。これを受けハートフォード病院に有識者が集まって合意した内容をハートフォードコンセンサスという3)。会議には医師だけでなくFBIや警察、消防、軍隊の代表者も参加している。第1回目のハートフォードコンセンサスでは銃創に対して5つの方針を提示している。脅威の抑制、出血制御、安全地帯への迅速な脱出、医療関係者による状態評価、医療機関への搬送である。この「出血抑制」のところで、「四肢の生命に関わる出血はターニケットで止める」「胸腔内や腹腔内の出血は病院へ搬送することで止める」としている。

この会議の2回目では救急隊員がターニケット、弾力包帯、止血剤の仕様の訓練をすること、観察、トリアージ、搬送の訓練をすることが提言された。また法執行機関(警察などのことと思われる)にはターニケットを含めた止血のトレーニングをするように勧告している。第3回目では警察に止血道具を配備することを求めている。

テキスト10ページ 「ボストンマラソン爆発テロ」

2013年、ボストンマラソンのゴール近くで圧力釜に多数の釘や金属片を仕込んだ爆弾2つが爆発した。一般人の死亡は3名であり、少なくとも10名が四肢の切断を余儀なくされたとされる。

ボストンマラソン爆破テロについては47編の論文が検索できた。2014年に出た論文4)では、281名が負傷し、127名が外傷センターに運ばれたとしている。3名の死亡者は現場で死亡したもので、病院内の死亡者はなかった。外傷センターに運ばれた患者の67%(85名)は下肢外傷であった。31名は大量出血であり、26名はターニケットをつけられていた。75名が入院し、54名が外科手術を受け、12名が下肢を切断した。

この論文4)ではターニケットについて詳しく述べられている。この事件の際、病院前救護で行われた処置は気道確保、緊張性気胸の脱気とターニケット装着であった。活動性の出血を伴う下肢の外傷は31名に見られており、26名にターニケットが巻かれた。ただ筆写らはこの患者数からはターニケットの有効性を論じることはできないとしている。

テキスト14ページ 「講習(案)」

ターニケット自体は患部に巻いて棒で締めるだけの簡単なものなので、講習なんか必要なさそうだが、教育は大切であるという論文を見つけた。イスラエルからの論文5)で、約300名の兵士に基礎的な救命法を教えた後で2群に分け、片方にはターニケット12種類の使い方を教え、片方には教えなかった。検討項目は3つあって、200mmHg以上に加圧できているか、60秒以内に止血できるか、ターニケット装着部位は切断部分から7.5cm離されているかである。結果として、教育がされていてもされていなくても何らかの間違いがあった率は80%にも上った。3つの中で最も間違いが多かったのが装着する場所であった。

教育しても間違えるというのはイスラエル軍の教育が悪いのだろう。筆者らも「もっとまともな教育方法を探すべき」と述べている。

躊躇なく使おう

出血があればその上流を紐で縛るのは昔から行われてきた方法である。今まで顧みられなかったのが不思議なくらいだ。日本では銃や爆発はほとんど考えられないが、産業災害では上肢や下肢の切断はいつでも起こりうる。ターニケット1本で患者の命が助かるのだから積極的に利用しよう。

文献

1)J Spec Oper Med Winter 2018;18:97-102

2)J Trauma Acute Care Surg 2018:85:665-7

3)https://www.facs.org/about-acs/hartford-consensus

4)Ann Surg 2014;260:960-6

5)Prehosp Disaster Med 2019;34:282-7

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする