120903腹臥位での心肺蘇生

 
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120926長時間循環停止の生還例

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救命講習でほぼ間違いなく見せられるのが、昔ならドリンカーの救命曲線、ちょっと前ならカーラーの生存曲線、現在はホルムベルグの救命曲線である。いずれも心肺停止直後から経時的に生存を期待できるか示したものである。ドリンカーでは生存率25%は5分、全死亡が10分、カーラーでは4分と5分、ホルムベルグでは2分未満と16分程度であって幅が大きい。今回は長時間の心停止から蘇生した事例を2例、同じ人物が報告しているので紹介する。

症例1:96分間

1例目1)は54歳男性。仕事を終えてジムで汗を流したあと、夕食を作り始めたところ、プロパンガスがなくなったためにために近所に買い出しに出かけたところ、入口のドアのところで突然卒倒した。この卒倒は目撃されていて、最近救命講習を受講したという人がすぐ心肺蘇生を始めた。4?5分後に別の人がAEDを持って到着した。パッドを付けたところ心室細動だった。このときの外気温は-4℃。皆で店の暖房のある場所に運び蘇生を続けた。バイスタンダーたちは24分間で6回の電気ショックを行った。のちの検証によると、このうち4回は洞性整脈に回復したが、11秒から420秒後には再び心室細動に戻ってしまっていた。バイスタンダーで動脈の拍動を確認した者はいない。

119番通報を受けて通報から34分後にメイヨークリニックのヘリコプターが到着。この時点で患者の周りには近郊の救急隊員が集まっていて、交代で胸骨圧迫を行っていた。ヘリコプタークルーは心肺蘇生を中断させずにAEDのパッドを心電図波形の出るAEDのものに貼り替え、気管挿管をして呼気炭酸ガスモニターを行い、静脈を確保した。クルーが心肺蘇生に参加した41分間でアドレナリン5mg、アミオダロン300mg,、アトロピン1mg、リドカイン200mgが静脈に投与された。電気ショックも5回行った。心室細動の間は呼気炭酸ガスは28-36mmHgであり、これは良好な胸骨圧迫が行われていることを示している。クルーの持って来たAEDでの3回目の放電で幅の広いQRSが出現するようになり、4回目の放電で山の高いQRSが出現するようになった。5回目の放電後、心室細動はまだ続いているため、アミオダロンをさらに300mg静脈投与した(プロトコールでは150mg)。6回目の放電のあとに呼気炭酸ガスは37mmHgとなり、心電図では正常の波形が出現した。動脈では脈はまだ触れないものの自脈が再開したと判断し心肺蘇生を終了した。ここまでで卒倒から96分経過していた。心肺蘇生終了後には総頸動脈と大腿動脈で脈が触れるようになった。この後患者はヘリコプターで20分かけて病院へ搬送された。

病院ではアミオダロンを投与したのちに心臓カテーテル検査を行い、前下行枝の100%狭窄に対して血栓摘除・血管形成・ステント留置術を行った。術後肺水腫と心原性ショックで循環が安定しない日が数日続いたが、のちに安定した。低体温療法は行っていない。第10病日に退院した。神経学的には全く以上は見られなかった。退院から11週間後に心臓バイパス術を受けた。

症例2:63分間

2例目2)は61歳男性。「気分が悪い」といって浴室に向う途中で失神した。妻は夫に反応がないので119番通報した。119番の通信員は胸骨圧迫をするように命じたが、圧迫は妻が通信員と話すためにしばしば中断された。9分後、119番通報で警察がAEDを持って現れAEDを装着した。AEDでは心室細動が確認できたが心電図の波が小さいためにさらに2分間心肺蘇生を行い放電した。放電に心臓は反応せず、心室細動波形はだんだん小さくなって行った。救急医療サービスからボランティアの救命士がやって来てコンビチューブを挿入、100%酸素吸入を開始した。次の28分間で放電10回を数えたが、一時は整脈に戻るもののすぐ心室細動が再発する状況であった。ヘリコプタークルーと救命士が到着、心電図波形が見えるAEDに付け替えた。心室細動を確認した時点で放電、だが心室細動が消えるのはわずかの時間だけですぐ再発した。骨髄輸液、気管挿管、呼気炭酸ガスモニターを行い、炭酸ガス分圧が28から35mmHgにあることを確認した。アドレナリン1mg、アミオダロン300mgを投与し、ヘリコプタークルーによる放電は6回を数えた。6回目の放電後、炭酸水素ナトリウムを投与し心肺蘇生を続けているとモニターにQRSが出現し、呼気炭酸ガス分圧が37-43mmHgへ上昇した。卒倒から自脈確認まで63分間であった。

その後ヘリ搬送の時点から凍らせた輸液を用い低体温を導入した。12誘導心電図では心筋梗塞パターンを示しており、経皮的血管形成術とステント留置術が行われた。術後は呼吸不全と腎不全を併発し長期の人工呼吸と透析を必要とした。1ヶ月後、認知は正常だが軽度の記憶欠落が残った状態で退院した。

なぜ助かったのか

これらの症例については編集者の解説3)がある。最初に述べた通り、通常では5-6分の循環停止で助からないとされている。しかし症例2の場合、警察官が現れたのは9分後。それでも記憶欠損だけで助かった。これはなぜか。編集者は動物実験の結果を引用している。動物実験では脳は虚血に10分から15分耐えることができる。だが動物は若くて健康な個体が使われるのであって2つの症例のような中年から老年の動物を使用することはない。編集者の意見はこうである。まず心停止時は意識消失のため脳の電気的活動が低下する。また脳血流を維持するための脳血管拡張と二酸化炭素濃度上昇による脳血管拡張の相乗効果で、胸骨圧迫による血流は脳に優先的に回される。これにより、たとえ動脈で脈が触れなくとも胸骨圧迫を続ければ脳の障害は防ぐことができる。循環が保たれていたことは呼気炭酸ガス濃度が正常の動脈炭酸ガス分圧に近かったことから推察できる。また筆者が口頭で発表したところでは代謝性アシドーシスも最小限に食い止められていたとのことである。また、動物実験に置いても体温が1℃下がるだけで脳生涯が経験することが知られている。これによりヒトに対する低体温療法が始まった。1例目では最初に-4℃のところで倒れており、低体温の効果がある可能性がある。症例としては水没では155分(48分間水没しており体温が26.2℃まで下がった患者が107分間の蘇生ののち助かった)の報告4)がある。

編集者の言う「心肺蘇生時には脳に血流が集中する」のはこの2つの症例に限ったことではない。また症例1で低体温になったといっても-4℃のところに倒れただけであって、それもすぐ屋内に引き入れられている。助かった最大の要因は運が良かったこと、次の要因は心室細動が消失しなかったことだろう。特に症例2では妻のとぎれとぎれの胸骨圧迫でも心室細動が持続していた。3つ目の要因は胸骨圧迫が優れていたことである。呼気炭酸ガス濃度が長時間保たれることはそれだけ優れた圧迫を行っていたことになる。

長時間の蘇生から生還するのは稀な症例である。だがこれが目の前の患者に起こらないとも限らない。心室細動が持続している間は希望を捨てずに胸骨圧迫を行おう。

文献

1)Mayo Clin Proc 2011:86;544-8
2)Mayo Clin Proc 2011;86:1124-6
3)Mayo Clin Proc 2011;86:1038-41
4)Resuscitation 2011;82:494-5


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13.4.6/9:57 PM

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