渡辺光司、吉田寿美、玉川進:習った速度はいつか忘れる-普通救命講習でのメトロノームの有用性と反復訓練の重要性について-. プレホスピタル・ケア 2007;20(2):43-5

 
  • 182読まれた回数:
救急の周辺

OPSホーム>投稿・報告 一覧>渡辺光司、吉田寿美、玉川進:習った速度はいつか忘れる-普通救命講習でのメトロノームの有用性と反復訓練の重要性について-. プレホスピタル・ケア 2007;20(2):43-5

習った速度はいつか忘れる-普通救命講習でのメトロノームの有用性と反復訓練の重要性について-

渡辺光司1、吉田寿美2、玉川進3
1稚内地区消防組合消防署猿払支署
2南宗谷消防組合枝幸消防署歌登分署
3旭川医科大学病理学講座腫瘍病理分野


普通救命講習で論文を紹介する炭谷貴博(中頓別)

2007-4-26 thu 19:17

中頓別消防にて

引用ありがとうございます。筆者冥利に尽きます


渡辺光司(猿払)吉田寿美(歌登)

渡辺光司(猿払)玉川進(旭川医大)

渡辺光司(猿払)データ採取中

はじめに

我々は普通救命講習などの場で心マの手技を教える機会が多い。 心肺蘇生国際ガイドライン2005(G2005)では「絶え間ない心臓マッサージ(心マ)」が強調されている。これはガイドライン2005における心マと人工呼吸の回数の割合が30:2になっていることからも明らかである。バイスタンダーとなり得る一般住民に対して心マの正しいリズムを身に付けてもらうかは指導者の課題であり責任でもある。

G2005では心臓マッサージの速さは年齢を問わず100回/分の速度が推奨されている。 しかし実際に1分間に100回の速度で心マとなると、0.6秒に1回という日常にはない速さとなり、正確に身につけるのは容易なことではない。
今回の研究では、100回/分という速度が一般市民にどう捉えられているかを実際に自分でカウントしてもらい評価した。次にメトロノームで1分間100回のリズムを聞かせることにより正確な速度が身に付けられるか、またどのくらいの期間その速度を覚えていられるかを検討した。

対象と方法

本研究に対して同意の得られた男女29人を対象とした。

今回、データの集める方法として心臓マッサージの手技は行わず、 1分間に100回数えるようにとだけ指示して1、2、3と数を数えさせた。10秒間にいくつまで数えたかを記録し、それを6倍することによって1分間のカウント数とした。次に10秒間メトロノームを使い正確な速度を聞かせ、直後にまたカウントさせた。さらに直後のカウントの終了20分後、1週間後、1ヶ月後に再び数を数えさせた。これらカウント数経時的変化を観察した。

統計処理にはF検定を用い有意水準を0.05未満と設定した。

被検者背景
——————————–
人数 29
性別 男18女11
年齢 40.5±12.1*
——————————–
*平均±標準偏差(歳)

図1

拡大

図1

測定結果。
測定前:事前にメトロノームを聞かせることなく1分間に100回数えるようにとだけ指示した時のカウント回数

メトロノーム:メトロノームを10秒間聞かせた直後のカウント回数
*は測定前に対する有意差あり。
メトロノーム p=1.5E-9
20分後 p=5.9E-10
1日後 p=5.6E-6
1週間後 p=7.4E-3
1ヶ月後 p=0.21

結果

被検者の背景を表1に、測定時期によるカウント数の移り変わりを図1に示す。

メトロノームを聞かせる前は回数のばらつきが非常に大きかったが、メトロノームを聞かせた直後と20分後では全員が1分当たり90回から110回の範囲でカウントできた。ところが1日後には78から108とカウント数がばらつき始め、1週間後では72から120、1ヶ月後では72から150とさらにばらつきが大きくなった。カウント数のばらつきを検定してみると、メトロノームを聞かせる前に比べて聞かせた直後、20分後、1日後、1週間後までは聞かせる前よりばらつきは有意に小さかったが、1ヶ月経った時点では有意差はなくなっていた。

メトロノームを聞かせる前は回数のばらつきが非常に大きかったが、メトロノームを聞かせた直後と20分後では全員が1分当たり90回から110回の範囲でカウントできた。ところが1日後には78から108とカウント数がばらつき始め、1週間後では72から120、1ヶ月後では72から150とさらにばらつきが大きくなった。カウント数のばらつきを検定してみると、メトロノームを聞かせる前に比べて聞かせた直後、20分後、1日後、1週間後までは聞かせる前よりばらつきは有意に小さかったが、1ヶ月経った時点では有意差はなくなっていた。

考察

今回の結果では、メトロノームで音を聞かせることは正確な速度を習得するのに有効であること、またその正しい速度は1週間は維持されるが1ヶ月後には忘れることが分かった。

メトロノームを聞かせる前は100回/分と言われても見当のつかない被検者がほとんどあり、それが速度のばらつきの大きさに表れた。被検者のほとんどは当惑し、検者に見本を示すように求めた被検者も複数いたほどであった。

メトロノームの音を聞かせてから20分後では、速度を教えてすぐに実施したので被検者全員がほぼ100回/分の速度になった。また1週間後も満足できる速度であった。メトロノームの電子音は特徴的で、1週間程度なら忘れないと考えられた。この結果を踏まえ、普通救命講習で心肺蘇生法を一般住民に教える時には、心マの前か最中にメトロノームを鳴らすことを我々は勧めたい。

しかしながら1ヶ月後には聞かせる前の速度に戻ってしまった。これは、一時は記憶した速度であっても時間が経つととも に忘れてしまい、被検者自身が本来持ち合わしている時間的感覚が現れたものと考えられた。心マの正しい速度を身に付けるためには短期間で繰り返し訓練することが大切である。

結論

(1)心マの正しい速度を身に付けるためにメトロノームを使用するのは有効である。
(2)1ヶ月で覚えたはずの速度を忘れるので反復し覚える必要がある。

 


OPSホーム>投稿・報告 一覧>渡辺光司、吉田寿美、玉川進:習った速度はいつか忘れる-普通救命講習でのメトロノームの有用性と反復訓練の重要性について-. プレホスピタル・ケア 2007;20(2):43-5

07.4.29/9:14 PM





コメント

タイトルとURLをコピーしました