手技110:第17回全国救急隊員シンポジウム・救急隊員のための学会発表のポイント

 
  • 476読まれた回数:
基本手技

OPSホーム>基本手技目次>手技110:第17回全国救急隊員シンポジウム・救急隊員のための学会発表のポイント

手技110:第17回全国救急隊員シンポジウム・救急隊員のための学会発表のポイント

発表中

2009-1-30 fri 9:30

スライドをクリックすると拡大します

旭川医大の玉川です。今日はこのような発表の機会を与えて下さいました救急振興財団、熊本市消防局の皆さん、特に熊本消防の西岡和夫さん、司会者の四島さん、ディスカッサントの鴨川さん、比嘉さんに御礼申し上げます。私の発表は20分くらいです。しばらくおつきあい下さい。

この会場にいる方は演題を作ったことがあるか、もしくはこれから作られる予定の方だと思います。たまには四島さんや私の顔を見に来た人もいるでしょうが、少なくとも学会発表に全く関心のない方はいらっしゃらないでしょう。

まず初めに演題を作る流れを整理しておきます。

まず発表するテーマを決めます。それから研究ならデータやアンケートを集め、症例なら時間経過や自分たちの行ったことを整理します。

次に結論を決め、結論に合うストーリーを組み立て、余計な部分を削除してスリム化します。結論までは演題そのものを作る作業、ストーリー作成とスリム化はわかりやすくするための作業です

目的を決める部分では鴨川さんが発表して下り、またデータを取る部分は比嘉さんが発表して下さいました。私は主に結論を決める段からあとのことについてお話しします。

いま皆さんが疑問に思っていることはなんでしょうか。

いろいろ挙がりました。

演題発表を考えるとき、最初に必要となるのはテーマです。何について発表するか。鴨川さんが提示されていたように、何でもテーマになります。このスライドでは研究のことを述べていますが、症例報告でも珍しかったり後輩や同僚に教えたいような経験があればテーマとなります。

次にデータを採ります。テーマに沿って、とありますが、たまにテーマとかけ離れたデータを採る人がいるので注意しましょう。また研究の場合には数字で表されるものがあとの処理が簡単です。スライドは鴨川さんが提示した佐世保市のCPRに占めるバイスタンダーの率です。数字で表せればグラフにできますし説得力が増します。

最初のテーマは大きくても、データを採る段階ではテーマを絞り込むようにしましょう。

スライドは比嘉さんの発表例です。生涯研修なら何でも書けると思うのが間違いで、大きなテーマではデータを採るのも大変ですし、聞く方もいっぱいデータを見せられて腹一杯になります。

例えば、地球温暖化というテーマが与えられたとしても書く方はプラスチックのリサイクルなどテーマを絞り込みましょう。そうすればプラスチックは燃やしたほうがいいとか、リサイクルされずに山に捨ててあるとか、聞く方も興味の持てる話ができるようになります。

ここで私が過去に地元の消防さんと生涯研修をテーマにして作った論文の題名を示します。ガイドラインが2つ、訪問看護が一つ。題名だけでどのような内容かおわかりいただけるでしょう。これが明確なテーマ・絞ったデータということです。

データが採れました。では自分の発表したい内容、つまり自分の主張をどうすれば相手に伝えられるか、これを考えてきましょう。相手にわかってもらえなければなんのために発表したかわからないからです

逆にわかりづらい話とは何かを考えてみて下さい。話の長い上司や近所のおばさんのことを考えれば答えは簡単です。

まず何を言いたいか自分が理解していない。わかりづらい話のほとんどはこれです。話すほうが理解していないのに聞くほうが理解できるはずがありません。

次に複数の主題を詰め込んでいること。会議は普通これです。会議が終わって何一つ覚えていないのは議題がいっぱいあるからです。

理論が破綻しているのも消防さんの発表ではたまに見られます。昔は開いた口が塞がらないのがありましたが、今は少なくなりました

これらのことの逆をするにはどうしたらいいのでしょう。

得手不得手は別にして、言いたいことがはっきりしていてテーマが一つで理路整然としているものの代表は数学でしょう。まずこの幾何学問題を解いてみましょう。

答えはこうなります。

この問題を見ると、まず答えが先に示されていて、この答えを導くように問題が設定されています。解く方は真っすぐ解答へ進んでおり、余分なものがありません。これを見本にすれば誰にでもわかりやすい発表を作ることができます。

先の証明問題からいえることは、わかりやすい発表にするには決まった方法があるということです。
ここ、大事なところですからメモして下さい。

真っ先に結論を決める
結論に合うようにストーリーを組み立てる
結論に関係ない項目を削除する。

次にこれらを一つ一つ見ていきましょう。

データを前にしてまずすることは結論を決めることです。しかし、実際のところはテーマを決めた時点で結論も出ているのが普通です。先の病院実習の話であれば、生涯実習は必要だとかカリキュラムが必要だとか教える側にも工夫が必要だとか、そういう主張をしたくて演題を作っているのですから、頭の中にはすでに結論はあるはずなのです。

結論は短い言葉で言い切れるもので、その数は可能な限り減らすのがわかりやすい発表のコツです。

このグラフの結論は何でしょうか。

救命講習を一生懸命やっているのにバイスタンダーが増えていない、というのが結論となります。
通常はすぐ思いつきます。

事例報告では、オンラインのMCコントロールが必要とか、資器材の正しい選択が必要とか、トリアージ訓練が必要とか、そういったものが結論になります。

では、これはどうでしょう。バックボードに載せたままレントゲン写真を撮ったものです。拡大するとボードのピンのために画像が乱れています。みなさんはこのことをもって、バックボードはレントゲンの邪魔だと思いますか。

邪魔だと思う方手を挙げて下さい。邪魔じゃないと思われる方は。

意見が分かれましたね。私の結論は、邪魔です。
このような意見の分かれるときには、しっかり反論を考える必要があります。この発表ではこの写真以外でも画像に乱れを認めましたので、それらを総合して邪魔と結論づけています。

結論をきめたら途中でぶれてはいけません。常にその結論を念頭に発表を考えていきます。また先ほどのレントゲン写真のように意見が割れそうな結論の場合には理論武装することも必要となります。

次に述べるのは結論に合うストーリーを作りましょう、ということです。無理なく結論に繋がるようにしないとその発表はわかりにくいものとなります

ものにはこう「だから」こう「である」という流れがあります。考察には「だから」、結論は「である」をつけると流れがはっきりします。スライドは比嘉さんが提示したものです。ぱっと見ると何ともないように見えますが、じっくり見ると結論と考察とがごちゃごちゃになっています。

たとえば、
病院実習が不可欠「だから」救急隊員の資質向上の責務「である」でしょうか。「カリキュラムの編成」だから「資質向上の責務」である、でしょうか。

こうしてみると、資質向上の責務は結論ではないことがわかります。

並び替えてみました。救急隊員は資質向上の責務を負っている。だから救命士以外も病院実習をすべきである。

生涯実習は技術維持のために必要不可欠だから生涯教育として確立すべきである。

最後のスタッフとカリキュラムの構成は一人だけです。

一つ前のグラフがわかりづらかったのは、考察と結論が逆になっていたためです。みなさんも、だから、である、をつけて組み立ててみて下さい。すぐにすっきりした発表原稿ができあがりますよ。

ではこういう場合はどうしたらいでしょう。これは小学生に胸骨圧迫をさせたときのグラフです。一二年生では1cmしか押せていません。3年生からは2cm以上押せています。こういう場合には条件を付けます。この発表では2年生までは胸骨圧迫できないけど3年からは可能というように条件を付けて発表しました。

どうやってもすっきりと流れない演題もあります。その場合には多くの場合で結論が間違っています。結論を見直すことが必要です。

無理なく結論づけるためには結論に合うストーリーを組み立てる必要があります。そのためには、考察に「だから」、結論に「である」を付けてみましょう。繋がらないときには並び替えると繋がるようになります。

流れにどうしても無理があるときには結論を見直すか結論に条件を付けることが必要となってきます。

最後にスリム化をすることを考えましょう。せっかくの発表であれもこれもという気持ちはわかりますが、項目は少なければ少ないほどすっきりとして理解しやすくなります。スライドのように複数の枝があれば必要度の少ない枝を切ってすっきりさせましょう

言いたいことがいっぱいあるときは、大切な方をとって残りは捨てます。それではせっかく採ったデータがムダになると思うのでしたら独立させてもう一つの演題を作ることも考えましょう。

これも比嘉さんの発表です。5分そこらでこんなにいっぱい発表するのは不可能です。ですから似たような項目をまとめて2本作ればテーマも結論も絞ることができわかりやすい発表になります。

余分な項目を削るのは聞いている人の理解のためでもありますし、自分の主張を通すためでもあります。持ち時間は限られています。重要なことを重点的に攻めるのが発表のコツです。

発表したあとは論文にして投稿しましょう。東京法令出版のプレホスピタルケア編集部・石井純子さんに来ていただいています。

以上のことは7年前に出版した「救急隊員のための論文の書き方」に掲載されています。また4年前には外傷アプローチを出版しました。

昨日(1/29)には「消防職員のためのトリアージ」という本を出版しました。会場にも並べてありますのでご覧下さい

私の発表の結論です。発表は単純に、真っすぐ、すっきりとを心がけましょう。そうすれば聞く方はあなたの言わんとしていることを理解してくれます。

ご静聴ありがとうございました。


OPSホーム>基本手技目次>手技110:第17回全国救急隊員シンポジウム・救急隊員のための学会発表のポイント

09.2.1/10:50 AM

コメント

タイトルとURLをコピーしました