100315Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ(第9回)状況評価〜傷病者接触前の準備について〜
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Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ
第9回
状況評価〜傷病者接触前の準備について〜
Lecturer Profile of This Month
なまえ:吉野幸生
よみ:よしのこうせい
年齢:44歳
所属:熊本市消防局 西消防署
出身:熊本県熊本市
消防士拝命:昭和59年4月
救命士合格:平成8年10月
趣味:スポーツクラブでの運動
シリーズ構成
田島和広(たじまかずひろ)
いちき串木野市消防本部 いちき分遣所
Change! Try! Avoid Pitfalls! ピットフォールを回避せよ
Chapter 9
状況評価
傷病者接触前の準備について
通報情報と指令情報から考える
いわゆる“状況評価”は、実際は指令を受けどのような現場か想像し始めたときから開始されています。しかしながら、指令係員からの情報が活動計画を考えるのに有効であったとしても、この情報に頼り過ぎてもいけません。そのような情報は、しばしば大げさであったり、逆に過小評価されていたり、あるいは完全に間違っていることすらあるからです。
こうした状況評価について、今回は通報・指令情報から現場状況をいかに評価するか、さらには初期接触にいたる前にそれらの再評価がいかに重要か、いくつかの項目を具体的に見ながら考えていきましょう。
119番情報を整理せよ!
通報・指令情報について
Information and order
- Pitfall:不確実な情報が多い
- Solution:通報者が傷病者とどういう関係か聴取する
通報者が(1)本人、(2)家族・知人、(3)目撃者、(4)通行人、(5)依頼を受けた第3者というような順で、その情報の確実性は低下するように感じます。
当然、本人であれば具体的・正確な情報が得られるわけですし、身近な家族や日頃の状態を良く知った知人であれば、ある程度の情報は聴取できます。しかしながら、傷病者との関係が離れれば離れるほど、その責任感は低下し、伝える情報の信頼度は薄らいで、その確実性にも影響していると思います。
ひとつの事例として、依頼を受けた第3者が、一人暮らしの方の部屋を訪れた際にベッド上で動けない様子の傷病者を発見し、通報してきたというものがあります。
「郵便受けに新聞が数日分重なっている」との連絡で、それを見に来た不動産会社の者から「どうやら布団の上で死んでいるようです。」といった通報です。指令係員は「近づいて意識・呼吸の確認をしてみてください・・」と言いますが、「無理です!時間が経っているようで変な臭いもします。」と言い、傷病者には近づけない様子であり、積極的な協力は得られませんでした。
バイスタンダー処置を無理強いするわけにもいかず、現場に向かう救急隊には死亡状態も予想できることを伝えましたが、現場に到着した救急隊が接触すると、意識はあり、会話も可能で特に怪我や病気というものではなかった・・ということでした。通報者は事情を詳しく知る立場の者でもなく、さらには積極的な協力がなかったために、正確な情報が得られなかったわけです。
このように、傷病者との間柄で情報の不確実さは増すと考えられますが、その不確実さゆえに、いろんな場面を想像することが必要かもしれません。
例えば、交通事故の要請では本人以外からの通報の場合が多く、事故や負傷の状況が不明の場合が多く見受けられます。このような場合、主要幹線道路などの大きな道路であったり、天候や深夜であるなどの時間帯を基にして、アンダートリアージしないよう気をつけることが重要です。
図1
通報段階で「あなたは傷病者(けが人)とどういう関係ですか?」と、通報者に対して傷病者との関係を聴取する
このようなことから、通報段階で「あなたは傷病者(けが人)とどういう関係ですか?」というように、通報者に対して傷病者との関係を聴取し、救急隊に対して「○○からの通報である」といった付加情報があれば、その通報情報の持つ確実性を察することに役立てられます(図1)。
- Pitfall:迅速さがアンダートリアージを招く
- Solution:工夫は大切だが限界もあることを知る
図2
出場指令中! 入電から指令までを迅速に
応答時間の短縮が救命率を向上させるひとつの要因と考えるならば、通報・指令の段階での「入電?指令」までをスピーディーにすることは重要であるわけで、今後はさらなる短縮が要求されると考えられます(図2)。
現在では、発信位置表示システムを導入する消防本部が多くみられるようになり、機械的に通報者の位置特定を短時間にするような努力が行われてきています。しかしながら、携帯電話を使用した通報がその多くを占めるようになった現状では、やはり、場所の特定に時間を費やす場合も見受けられます。
そこで、場所が不確定な場合でも、数百メートルの範囲にあると予想されるようなときには、その付近の場所を仮現場として指定し、現場が確定された後に指示するというようなこともあり得ます。さらに、具体的な事故種別を特定することなく指令され、出場していることも多いと思います。
このように、入電から指令までは不確実な情報で現場に向かっているということを念頭に置いて準備を怠らないことが重要なのです。
このような「入電〜指令」までの迅速さを追求する通信・指令の係員は、ある意味ミスを招くことにもなり得ると思います。ここで言うミスとは、重篤な事案を見逃すというような“アンダートリアージ”してしまうことです。時間をかけて状況を聴取し、状態をオーバートリアージすることは簡単なことです。しかしながら、迅速に救急隊を出場させるため、さらに短時間で得られた情報で、過小評価しないで指示するということは、それなりの努力と工夫が必要になってくると思います。
通報内容は通報者の供述・・です。通報者とは電話を介した声のやり取りが主になります。通報者のほとんどが医学的知識を持ち合わせていない場合が多いわけで、ましてや冷静さを失っている場合も少なくないでしょう。こうした方々から、ものの数分で物事の全体像を聴取し理解することは非常に難しいことです。ですから、「意識はありますか?」ではなく「傷病者は動いていますか?」とか、「呼吸をしていますか?」というところを「会話はできますか?」というように、通報者が判断しやすいように言い換えて聴取する工夫も必要だと思います。
交通事故を通報してきた通りすがりの要請者に対して、指令係員によっては「ひどい事故でしたか?」といった判りやすい表現で聴取し、それに対して返ってきた言葉から事故の状況を評価して、傷病者の状態をより重いものではないかと推測しながら、迅速に必要な部隊を投入することで、傷病者にとっての不利益を回避することにつなげています。
このように、入電から指令までの短時間に上手く聴取する工夫が取られているものの、実はその情報は、迅速さが求められるがゆえに限られているということを頭に入れて現場へ向かうことが必要になります。
- Pitfall:指令情報と現場に差異がある
- Solution:キーワードから、考えられる病態や負傷状況の変化や進行を予想し準備する
これまで書いてきたように、指令情報と現場の状況には少なからず違いがあるものです。さらにこの違いには、実際に現場で確認するまでにかかる時間が、その違いを更に拡大させる要素となっていることもありえます。
入電から現場到着までは数分から十数分という時間が経過しているものです。この間には、状況は刻一刻と変化(進行)していると考えておかなければなりません。
例えば出血量は増え病状は変化し悪化していることを考えておくべきでしょうし、事故現場の車両から漏れ出しているオイル量は増してさらに拡がり、事故現場の状況も変化しているものと想像するべきです。
日常の救急出場でも、救急通報を受けて現場に向かったところ、当初の訴えとは違い、現場到着時には心肺停止に至っていた・・ということは誰にでも経験があることで、時間の経過によっては心肺停止という最悪の事態になるということを想定していなければなりません。
図3
水没車両。状況は変化します
さらにある事例では、河口に近い河川敷に停車していた車両を安全な位置に移動させていた釣り人から、満潮が迫り、その潮の影響で車両を動かすことができなくなってしまった・・という通報がありました。その日は「大潮」ということもあり、救急隊を含む救助隊等が到着するまでに事故車両は完全水没し、救助活動中にもさらに潮位が増していったのです(図3)。当然、要救助者の置かれた状態も一変し、傷病者の状態も悪化していました。
入電した時の情報は、現場に至って確認した際には良くも悪くも変化しており、常に指令情報とはある程度の差異があることを認識して活動を行うべきなのです。
このような指令情報から得られた少ないキーワードから、考えられる病態や負傷状況の変化や進行を予想するだけではなく、その変化に対処できるように備えておくことが必要です。少ない情報から時間的変化をいろいろと想像しておくことが重要なのです。
また前述したように、時間経過による影響が地形や気象などの環境要素に左右されることがあるので、通常業務においてもそのような環境に対しての気配りや、把握に努めておかなければなりません。
このように、救急事案に限らずどのような活動事案もその活動が終了しないと全体像は見えてきません。通報を受けて聴取した内容から、指令情報として送られたものが実際の現場状況とは異なっているわけですから、傷病者に接触した救急隊が、実際に評価した意識の状態や症状・病名などを、入電・指令する指令係員にフィードバックしていくことも今後は必要だと思います。
さらに、こうした情報に対する事後検証体制を確立し、所属や組織内でのマニュアル作りやプロトコールに反映させることで、その後の活動に役立たせる必要があるのです。
- Pitfall:救急隊が求める情報が整理されていない
- Solution:経験で補うか、逆にそのまま伝達する
このように、指令情報は実際に現場へ向かう救急隊が現場で必要とする情報としては不充分なことがあり、うまく整理されているわけではありません。
指令係員が、現場を見ることができる救急隊員であればこうした問題は少ないのかもしれません。しかし、現実にはそうしたわけにはいかず、入電し通報を受ける係員も現場を想像しながら聴取する必要に迫られるわけです。
皆さんは次のような通報があれば、どんなことを想像しますか?
夜間、竹や雑木の生い茂った道路脇に若い女性が倒れており、「車から放り出され動けないでいる・・」と言っています。
事件?事故?
近くに民家などなく、真っ暗な竹やぶ沿いの道であり、いずれもおおいに考えられます。また、通報者の声も昂っており、慌てた様子がうかがい知れます。
図4
詳細な状況聴取を進めながら、わかった範囲の情報を出場中の救急隊へ送ります
受信した指令係員は救急隊に出場指令を下すとともに、第3者の関与も考慮して警察などの関係機関への連絡を準備、さらに詳細な状況聴取を進めながら、わかった範囲の情報を出場中の救急隊へ逐一送るようにしました。その結果、救急隊が現場到着する前に、交通事故であることが判明し、どうやら女性は負傷していることがわかりました(図4)。
現場付近に到着した救急隊は、竹やぶの中に大破した乗用車を発見、傷病者は事故車両の運転者であり、横転した際に車外放出されたとの情報を得ることができました。
このように、通報者自身が全体像を把握していない場合には、聴取には指令係員の経験や気配りが必要となり、その情報は、聴取マニュアルだけでは得られないこともしばしば見られます。
そのようななか、指令係員が通報内容を着色してしまわないことも必要なのかもしれません。通報情報から「○○かもしれない・・」というようなことを送れば、それを受けた救急隊は、その情報に固執した考え方をすることがあるからです。ある意味、通報者のありのままの言葉を直接伝え、それを受け止めた救急隊自身が、現場の状況や傷病者の状態を考えながら、想像を膨らませるような活動を期待して、懐の深さを持った情報提供が役に立つのかもしれません。
傷病者に接触する前に得る情報
Information befor access
- Pitfall:危険を顧みずに救出にあたる
- Solution:車内からフロントガラス越しに観察し危険を察知する
救急現場では傷病者の状態のみならず、おかれた周囲の状況、事故や傷病者の発生したその状況にも十分留意することが必要です。これは事故の場合にはもちろん、後のさまざまな調査に必要である事柄も含まれますが、傷病者の治療に直接関わる問題、救急隊員自身の安全に関わる問題なども含まれます。
図5
車内からフロントガラス越しに見て現場の状態を把握します
これらは傷病者に接触する前、すなわち車内からフロントガラス越しに見て現場の状態を確認する(図5)ところから開始されます。そして、これまで通報情報から予想してきた現場のイメージとの差異や、場所、物、人といった因子から、さらに活動の展開や傷病者の状態を予想します。
(1) 二次災害発生の可能性を把握する
場所因子の安全確認として、現場に危険な要素はないか、河川の急流場所、落下物の有無、交通量の多い場所での交通事故などを確認します。その他の物的因子としては、活動に直接障害をきたす物品、例えば進入に際して障害となる物品や排除不可能な大きな工作物などの存在です。危険物と思われる物品や有害物質の存在をうかがわせる場合は、早急に実態を把握するようにします。また、動物の存在も重要です。住宅等で飼われている動物は、家族等にとってはその一員としてかわいい存在でしょうが、突然現れた救急隊員が家族に接触する光景は、それらペットにとってはどう映るのでしょうか。捕らえ方によっては危害を加えているように映り、彼らは一生懸命に飼い主を守ろうとして、必死に抵抗することがあるからです。
また、人的因子の安全確認として、傷病者の汚物・血液などによる汚染、興奮状態にある関係者や野次馬などの群衆の動向にも注意しなければなりません。
(2) 応援の必要性を把握する
自隊のみでの活動で十分か?支援隊や活動隊の増強が必要ではないか?さらに、関係機関への連絡や応援の必要性はないのか?といったことを短時間のうちに判断します。
活動隊の支援や増強を要請する場合は、できるだけ早期に行うことが重要です。応援隊が到着するまでは自隊の活動は停止、または制限されるわけですから、その要請判断はできるだけ早いほうが良いのです。これは現場に至って要請するというわけではなく、通報・指令情報から現場を思い描きながら、必要と感じたならば要請することを考慮しなければなりません。
これらのことは、傷病者の安定化と自隊の安全確保、さらには事故の拡大防止と二次災害を防ぐため、最も重要な要素であることを認識するべきなのです。
- Pitfall:同じ事を聞くことは面倒だし失礼だ
- Solution:繰り返し聞くことで処置や活動の展開を組み立てる
通報者が誰であるかが、事案情報の正確さを左右すると言うことは前にも述べました。
現場においても傷病者本人と最初に接触できるとは限りませんので、最初に接触する関係者等が、傷病者とどのような関係にあるのかを知ることも必要となります。
まず目に飛び込んでくる誘導者が誰なのか、通報者なのか?単なる協力者なのか?といったことを把握する必要があります(図6)。さらに、その者が傷病者と接していたのか、傷病者を見ていたのかなど、簡単に背景を確認しておくことが重要です。その関係者が持つ傷病者情報が、どの程度のものなのかを判断したうえで、傷病者が置かれた状況などを詳しく聴取すると良いでしょう。
また、傷病者自身が通報を依頼したのか、または周囲の関係者がそう判断したのでは事情が違ってきますので、こうした通報に至った経緯やその理由を聞くことも傷病者の状態を予想するための重要な要素となります。
このような関係者からの状況聴取は、通報者側からすれば同じことの繰り返しと受け止められかねませんが、実際には通報や指令の情報を確認するということと、傷病者に起こった状況を予測し、現在の状態をあらかじめ把握することで、緊急度の判断、それに必要な処置などを想像し、活動の展開を予測することに役立ちます。
まとめ
Writer’s comment
救急活動の流れのうち、傷病者接触前の準備段階、特に指令を受け現場に至るまで、さらに現場に至って傷病者に接する前までにどのようなことを想像するのか、ということをみてきました。
指令係員の立場や行動から整理してみると、通報・指令情報に不確実なことが多いことが明らかになります。これは通報者の背景に原因がある可能性や、応答時間の短縮という迅速性を求められる指令の段階にもその要因の一部が潜んでいる可能性があることを理解しておく必要があります。
図7
いざ出場!!
出場隊は、指令情報と現場の状況には必ず差異があり、指令情報と救急隊の必要としている情報とは必ずしも一致していないということを念頭に置いた活動をしなければいけません。傷病者に接する前に受ける現場の印象と、出場途上に想像した内容を考え合わせ、傷病者にとって何が必要でどのような活動を展開するべきかを考えて行くことが重要です(図7)。
しかし、それらの思考の原点は通報の情報です。指令係員は情報を聴取し、内容を整理しながら指令情報として伝えます。隊員は受け取った情報を元に現場を想像し、展開を予想し判断します。指令係員と救急隊員とが一体となって行っていくことが円滑な救急活動につながると言えます。
参考図書;
「プレホスピタルMOOK シリーズ1 現場活動プロトコール(1)」株式会社永井書店
「救急活動マネージメント実践トレーニング」 株式会社メディカ出版社
「救急救命スタッフのためのITLS」株式会社メディカ出版社
「外傷病院前救護ガイドラインJPTEC」株式会社プラネット
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10.3.15/10:02 PM
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