各務圭太、八木俊久、水澤俊介、他: 救命講習「小児コース」-2つの課題とその解決法について-。 プレホスピタル・ケア 2010;23(2):52-56

 
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救命講習「小児コース」
-2つの課題とその解決法について-

各務圭太1、八木俊久1、水澤俊介1、檜森聡1、橋本正儀1、山原清一1、須貝雅彦2

1釧路東部消防組合 釧路消防署
2おひさまクリニック

【著者校正宛先】
088-0605
北海道釧路郡釧路町字別保原野南25線54番地3
釧路東部消防組合 釧路消防署 各務 圭太
TEL 0154-40-5131
FAX 0154-40-6088

1.はじめに

私たちは、平成19年度から地域の保護者・関係者を対象に「子どもが倒れたときの救命講習」(以下、小児コース)を計画し、現在までに5回開催した。成人に対する救命講習は充実してきているものの、乳幼児に限っての救命講習については国から示されたものはなく、その講習の内容や実施方法は各所属で工夫して実施されていると思われる。

この稿では、私たちの開催している小児コース開催の経緯・及び運営で苦慮した点とその改善策を示す。読者の皆様の参考になれば幸いである。

2.第一回目小児コース

第1回目の小児コースは、釧路消防署内の救急訓練室と会議室を合わせた会場(約150㎡)で実施し、両親が受講しやすい環境を考え、「子ども同伴で参加可能」とした。会場のアメニティとしては、多目的トイレ、キッズスペース、子ども用DVD、簡易的な授乳室、子どもを見る職員を配備した。そして、小児コースの受講場所とキッズスペースとがつながり、目が行き届くようオープンなスペースで実施した。

講習時間は180分。インストラクターは3名。人形はベビーが3体、ジュニアが1体とジュニアに見立てた人形1体で実施した。子どもを見る職員は勤務者で手の空いた職員2-3名にお願いした。キッズスペースはテレビの回りにウレタン製のマットを敷き詰め、DVDを上映した。

3.第一回目の課題

第一回目コースの反省会では大きな課題が2つ出てきた。

(1)講習中の子どもの管理

他の職員が子どもを見ているとはいえ、親の多くは子どもの行動が気になり講習どころではなかった。それに加え、おむつ交換など子どもの世話をしている間は講習から離れてしまうので、集中できない受講生もいた。

(2)充実した講習

インストラクター1名に対し受講生が6-7名ということもあり、人形の数が少ないことや、1人当たりの実技時間を考えると十分な講習効果は得られなかった。内容についても広い範囲をまんべんなく教えたため受講者にとっては焦点がぼけ、何が大切なことか分からなくなっているとの指摘があった。

4.第二回目以降の小児コースと解決策

(1)の解決策として、町内に開院した小児科クリニックの須貝医師から提案のあった「託児」システムを採用した。

図1小児科医院内を講習スペースとした

 図2隣接している調剤薬局を託児スペースとした

2回目の小児コースより須貝医師が参加した。これにより小児科医院内を講習スペース(図1)・隣接している調剤薬局を託児スペース(図2)として利用し、またコースの医学的サポートを担当することになった。須貝医師は以前赴任していた地域でも小児コースを実施していた経験があり、そのアドバイスによりコースプログラムも一部改良することにした。

(2)の解決策として、受講生の数を少なくし少人数制で小児コースを実施することにした。内容は小児に対する予防救急の講義・心肺蘇生法と異物除去に絞り、実技の時間を増やすことにした。

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表1
H21年11月29開催の第5回救命講習会(小児コース)時間割

講習時間は1回目同様180分(表1)とした。内容を本当に必要なことに絞り、3時間でしっかり身につけてもらうよう受講者を10人前後に制限した。

図3
インストラクター1人に対し受講生は3-4人

受講者を3つのブースに分けた。これによりインストラクター1人に対し受講生は3-4人(図3)とバランスが良くなり、講習中に出た疑問もその場その時に解決できるようになった。救急隊は実際の現場を語ることで受講者に疑似体験をさせ、小児科医は医学に関わる疑問を解決するなど、少人数のメリットを最大限に生かすように工夫をしている。

5.アンケート

小児コース終了後、受講生にアンケートの記載をお願いしている。

表2 アンケート結果の抜粋

注目するのは(表2)の2番と4番の質問である。2番の「今日のような講習を定期的に受けようと思いますか?」の質問に対しては95%の受講生が「はい」と答えた。このような小児コースを受講したことにより継続の重要性を自覚してくれたと評価できる。4番の「今日学んだことはあなたのためになりましたか?」の質問に対しては100%の受講生が自分のためになったと答えた。

アンケートの自由記載欄を一部抜粋すると、「少人数でわからないことも質問できて、何回も実技ができたところがよかった」、「一人一人の実技、説明、質問の時間も取っていただけてありがたかった」という回答からは、1ブースを3-4人の少人数制で実施していることにより実技の時間や説明の時間も多く取れ、受講生が納得するまで実施できたことが伺える。「いざというときの不安な気持ちが減りました」や、「すぐに役立てることができるような気持ちになりました」という回答からは、3時間の中で実技が身についたと評価できる。そして、「自分の子どもが倒れたならできるのだと思いますが、公共の場で他のお子様の救助を自ら手をあげてできるかは不安ですが、その現場になったらこの講習を思い出しやっていきたいと思いました。」の回答は、まさに私たちが考えていた「誰かの子どもが倒れたとき、自分が手当をする【バイスタンダー】を育成すること」という当初の目的を達成できていると言えよう。

図4
夫婦で小児コースに参加

これらのアンケート結果を踏まえると、私たちが開催している小児コースは充実度が高いと考える。第一回目の課題であった「(1)講習中の子どもの管理」は託児所を設けることにより解決され、「(2)充実した講習」は親がコースに集中することができる環境と、実技の時間を徹底して増やしたことより改善したと考える。託児によって、夫婦で小児コースに参加(図4)、あるいは近くに子どもを預ける環境がない家庭でも参加できるようになった。託児もあることからコースには出来るだけ夫婦で参加してもらうよう呼びかけている。夫婦で参加できるということは、AHAが謳っている「自分の家族を助けよう」1)というコンセプトにも一致している。

6.絶え間ない改善

コースの回数を重ねるたび、受講生のために前回よりも良い方法があれば次回から取り入れるようにしている。改善した点は、

・プログラムの時間配分や講習順番の変更
図5
講習項目ごとに受講生が移動して新しいインストラクターから指導を受ける

・講習項目ごとにインストラクターが替わるように受講生のブース回す(図5)

・夫婦や友達同士で参加してもらった場合は、できるだけ同じブースに顔見知りがいないように受講生を配置する。
図6
具体的な想定のもとで実技を行う

・「乳児」と「小児」では若干応急手当が異なることから、「乳児」と「小児」を持つ親には「それではあなたのお子さんの長男が・・・。」のように受講者自身の子どもを念頭に置きつつ、受講生全員に実際の現場を思い浮かべられるような想定を与え実施してもらう(図6)。

まだ取り入れていない要望としては、「今日のスライドの内容について講習があったら受けたいです」など他8件、ケガや骨折等の講習を受けたいとの希望があったため、今後の課題とする。「多くの人が受講できますように」という回答もいただいたため、数多く開催したい。

6.おわりに

アンケートには「参加動機について教えていただけますか」という項目もある。それに対して、「以前から興味があり子どもの救命について知っておきたかった」「子どもにもしもの事が起きてしまったときのため」との回答が寄せられた。地域住民の多くは子どもが倒れたときの処置に不安を持っていることが伺われた。

アンケートに示されたように、小児コースの潜在的な需要は多い。それにもかかわらず私たちが主体となって開催するまでは講習回数も環境も十分ではなかった。受講したくてもできない人たちの期待に応えるのが私たち救命に関わるものの使命である。両親と地域住民の期待に応えられるよう、これからも小児コースを続けていく。

文献

1)岡田 和夫、美濃部 嶢 監修:BLSヘルスケアプロバイダー 日本語版.American Heart Association、中山書店、東京、2004.pp xv


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