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210211妊娠高血圧症候群 救急搬送時の工夫について(今治市消防本部 渡邉 康之ほか)

        プレホスピタルケア 2020/12/20

カラートピックス 各地の取り組み

妊娠高血圧症候群
救急搬送時の工夫について

渡邉 康之1)伊藤 祐貴1)
濱田 洋子2)堀 玲子2)村上 祥子2)
吉良 敏彦3)吉良 佳世3)井上 康広4)

今治市消防本部1)愛媛県立今治病院2)
きら病院3)いのうえ産婦人科4)

https://ops.tama.blue/wp-content/uploads/2021/02/34035761b1195cd64f77dd8fa4f3e4ab.pdf

「プレホスピタル・ケア」2020年12月号

【今治市の紹介】

今治市は、愛媛県の北東部に位置し、瀬戸内海を望む風光明媚な景観と日本遺産「村上海賊」や大山祇神社を有する観光都市であるとともに、海運・造船・タオル生産が盛んな工業都市でもあります。また、しまなみ海道という日本初の海峡を横断する自転車道があり、開通20周年を迎えた現在は、世界屈指のサイクリングコースとして名を馳せています。

【今治市消防本部の紹介】

管轄面積は419.14㎢、人口は15万6,760人で、1消防本部3消防署5分署で組織され、職員数は216名、そのうち救急救命士が52名(薬剤認定救命士52名、気管挿管認定救命士38名、処置拡大認定救命士48名、ビデオ硬性喉頭鏡認定救命士33名、指導救命士8名)が在籍しています(令和2年10月1日現在)。

令和元年の救急出動件数は8,117件と6年連続で8,000件を超えており、高まる救急需要に救急車11台(内予備車2台)、消防救急艇1艇を運用し対応しています。
また、発生が危惧されている南海トラフ巨大地震や、複雑多様化する災害に備えるため、震災対応訓練施設を整備し、職員の対応能力の向上と地域防災力の強化に取り組んでいます。

【はじめに】

妊娠高血圧症候群(以下HDP:Hypertensive Disorders of Pregnency)は、妊娠中に高血圧を認める疾患であり、特に重症の場合は子癇や中枢神経障害、肺水腫、常位胎盤早期剥離等の重篤な病状に進展する可能性があり、慎重な管理を必要とします。HDPは全妊娠の1~3%に発症し、初産婦の高齢化による増加も危惧されています。

今回の研究の背景として、過去にHDPの傷病者を救急車で転院搬送した際、救急車のサイレンに驚いて傷病者の血圧が上昇し、子癇発作が起こってしまった症例がありました。そこで、救急搬送時に工夫できることはないかと考え、いくつかの方法によるバイタルサインの変化等の分析と、救急車のサイレン(デシベル)の調査を実施するに至りました。

【対象と方法】

現在、市内産婦人科病院及びクリニックから地域周産期母子医療センターへHDPの転院搬送があった場合は、「室内灯の消灯、アイマスク等を使用」を実施しています(写真1~写真3)。さらに今回は、室内灯、アイマスクとの併用で「ヘッドホン型耳栓(以下、ヘッドホン)」を装着し(写真4・写真5)、ヘッドホン未装着10件とヘッドホン装着10件の収容前、収容後のバイタルサインについて、調査を実施しました。調査期間は平成30年1月1日から令和元年11月30日としています。
また、救急車(A社、B社)の緊急走行時のサイレンの強、弱のデシベルについて、分析を実施しました。騒音計の測定は、日中、夜間(晴、雨)の計8回、救急車内のストレッチャーの頭部側で測定しています。

写真1 アイマスク

写真2 室内灯の消灯

写真3 室内灯の消灯

写真4 アイマスク及びヘッドホン型耳栓

写真5 アイマスク及びヘッドホン型耳栓

 

【結果】

ヘッドホン未装着では、収縮期血圧上昇6件、維持4件。拡張期血圧上昇5件、維持5件。ヘッドホン装着では、収縮期血圧上昇1件、維持8件、低下1件。拡張期血圧上昇なし、維持9件、低下1件という結果でした。(血圧±10mmHgは維持とした。)バイタルサイン一覧表を表1に、ヘッドホン未装着の血圧推移を表2・表3に、ヘッドホン装着の血圧推移を表4・表5に示します。

緊急走行時のサイレンのデジベルは、A社のサイレンでは強80.5dB±1.5、弱74.0dB±1.5。B社のサイレンでは強76.5dB±1.5、弱74.0dB±1.5となりました(図1・図2)。デシベル一覧表を表6に示します。

【考察】

「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示【2009.3.24】第231条第2号、緊急自動車の要件」では、サイレンの音の大きさは、「その自動車の前方20mの位置において90 dB以上120 dB以下であること」の条件がありますが、緊急走行中のサイレンを弱にした場合でも、救急車内のストレッチャーの頭部側では74.0dB±1.5が記録されました。
音の大きさは、70dBを超えると騒音であることは示唆されています。騒音により血圧が上昇することは、騒音環境下の労働者の調査や健常者での試験でも知られており、救急車のサイレンを弱にした場合でも室内で70dBを超えている現状は、騒音環境下ということができます(図3)。

今回の調査結果では、ヘッドホンの装着によって体感する音を約30dB低下させることができており(図4)、T検定(等分散を仮定した2標本による検定)により、収縮期、拡張期ともに、P<0.05のため、ヘッドホン装着時の統計学的に有意差を認めています(表7)。ただし、種々の交絡因子(気温、年齢、週数、既往歴、陣痛の有無、心理的要素等)は考慮していません。
救急搬送中の急激な血圧上昇は、脳内血流の増加、血管原性脳浮腫による脳圧亢進から、子癇発作に進展する可能性があります。また、子癇発作は母児の状態を著しく悪化させるため、細心の注意が必要です。

【結語】

検証結果から、遮音用ヘッドホンの装着は血圧上昇の抑制について統計学的有意差を認め、また、傷病者により聞きとれるサイレン音の感度は異なりますが、サイレンを弱にすることでデシベルを低下させることができ、室内灯の消灯、アイマスク等の使用、ヘッドホンの併用は、HDP患者の搬送中における血圧上昇抑制に有効である可能性が示唆されると考えます。

著者紹介

渡邉 康之(わたなべ やすゆき)

愛媛県今治市出身
昭和56年5月8日生まれ
平成19年4月 消防士拝命
平成27年3月 救急救命士合格
令和2年4月より今治市消防本部西消防署勤務
趣味は陸上競技、家庭菜園

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