炭谷貴博:体験ブースを活用した社会見学 月刊消防 2010;32(10):89-91

 
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救急の周辺

 

炭谷貴博:体験ブースを活用した社会見学 月刊消防 2010;32(10):89-91

 

110116体験ブースを活用した社会見学

 

炭谷貴博(すみやたかひろ)

1.中頓別(なかとんべつ)町の概要

私の勤務する中頓別町は日本列島の最北端にある北海道宗谷(そうや)地方の東南に位置し、中央に敏音知(ぴんねしり)岳・松音知(まつねしり)岳がそびえ、町の周囲も山で囲まれた地形で、夏は気温30度・冬は気温?30度・1年間の気温寒暖の差が約60度にもなります。また、約1000年前の石灰岩中でできた「中頓別鍾乳洞」、町中を流れる兵知安(ペーチャン)川の「砂金堀体験」、「敏音知(ぴんねしり)オートキャンプ場」がアウトドア派の人気を集めています。昨年は開拓100年・町制施行60周年を迎えました。

人口は2,030人(平成22年7月1日現在)、面積398.55k㎡(平成20年10月1日)であり、過疎化・少子化の進む小さな町です。主な産業は酪農です。この町の住民の生命、身体及び財産を保護するため職員13名・団員50名で対応しています。

町内の幼・保育園・学校については、平成元年当時は9箇所あったこれらの施設ですが、過疎化・少子化の影響もあり現在では幼・保育園、小学校、中学校の3箇所となっています。

2.社会見学の概要

図1 小学4年生の社会見学

中頓別支署では、地域の幼保育園児や小学生・中学生を中心に住民の方々に対して見学を行っています(図1)。事前に打ち合わせて日程を決め見学を行う場合もありますが、近くを通りかかったので見てみたいという方の見学も受け入れております。今回は小学4年生社会科の授業「消防署見学」について新しい試みを実施しましたので紹介します。

3.今までの社会見学

従来の「消防署見学」では、消防の仕事に対する質問・疑問を事前に学校で取りまとめて送ってもらい、見学当日は会議室で質疑応答を行っていました。その後、消防庁舎内の施設・設備の説明、119番通報から出動の流れの説明、消防車・救急車の装備品の説明を場所を移しながら行うのですが、これらの説明はこちら側が必要と思うものを選択していました。見学時間は学校側の意向で1時間程度、時間の多くは最初の質疑応答に費やされ、なおかつ口頭での説明がほとんどでした。長時間同じ場所で人の話を聞くのは年齢を問わず集中力がだんだんと少なくなっていくものですが、疑問を感じないまま毎年同じ内容で実施していました。

4.時間内に内容の濃い見学を

図2 消防署員・消防団員の人数は?(会議室)

図3 仮眠室にあるものはなんですか?(仮眠室)

図4 事務所にあるテープレコーダーは何に使うのですか?(事務所)

図5 学校にあるAEDと救急車のAEDは違うのですか?(救急車)

月刊消防2010年1月号に掲載されていた「社会見学に対する工夫」1)を読んだのをきっかけに「自分たちの消防での社会見学も工夫が必要ではないかと」と考えました。限られた時間の中で、内容の濃い見学をしてもらうために見学内容の再検討を行いました。検討の内容は
・口頭での説明について
・説明する場所の変更
・見るだけではなく実際に体験してもらう
などです。

今回は関連する庁舎内施設・設備の見学をしながら各々の場所で質問を受け答えするように変更しました。動かずに座って話を聞くだけの時間をできるだけ短くして、「見学」「説明」「質疑応答」を同時に行うことで時間を短縮し、集中力を途切れさせないように配慮してみました。

今までのように会議室で座ったまま長時間質疑応答を繰り返すと、集中力が時間とともになくなっていきますが、庁舎内を移動しその場所に合った質問に受け答えすることにより、集中力を維持しつつ興味をもたせることが可能になりました。実際に質問したことが、どういう物なのかを実際に見てもらえるので理解度も上がります(図2-5)。


図6 防火衣・呼吸器着装体験ブース

図7 Zリグで消防車と綱引き体験ブース

図8 放水体験ブース

図9 ロープ登坂体験ブース
消防職員でJPTECやICLSなどのセミナーを受講した方は多いでしょう。セミナーでは体験型学習の楽しさやその効率の良さが実感できます。今回この学習方法を見学に取り入れ体験ブースを設定し、実際に職員が行っている仕事を体験してもらうことにしました。設定したブースは4つです(図6-9)。

 

5.新たな方法を取り入れて

見学の内容を再検討し実施したことにより、内容の濃い見学を実施が可能であることがわかりました。質疑応答と庁舎内見学を同時に実施することにより時間の短縮ができ、残り時間を体験型学習に回すことができました。体験型学習では児童を4つのブースに振り分けることによりすべての児童が効率よく各ブースを体験することが可能となりました。

見学を終えて児童から後日感想をいただきました。「放水の水がすごく重かった」「ロープを上げるが大変だった」「装備品が重かった」「体験したときに、消防士の人たちはこんな大変なことをやるんだあと思った」

図10
満足そうな児童たちと記念撮影

以前までとは違い、体験ブースに対する感想が非常に多かったことから、印象に残る見学をしてもらうことができたと思います(図10)。

指導した職員にとっては、各種セミナーや勉強会での体験型学習の経験を活かし、スムーズに指導することができたこと、見学に来ていただいた児童の顔が会議室での質疑応答とは違い生き生きと輝いていたのが印象に残りました。

体験型学習は、体験ブースの準備や後片付けに時間がかかることや見学中にも出動に備えなければならない苦労がありますが、見学の学習効果を上げる方法と思います。

まとめ

見学内容の再検討を行い、今までの見学内容を一部変更するにあたり、次の点に留意しました。

1.限られた時間を有効かつ効率的に使える内容を考える。
2.口頭の説明ばかりではなく、実際に体験してもらう。
3.見学に来て頂いた方に楽しんでもらう。

皆さんのところで実施している社会見学の参考になればと思います。

謝辞

原稿作成に当たり中頓別小学校の職員のみなさんにご協力頂きました。ありがとうございました。

文献
1)亀山洋児:社会見学に対する工夫。月刊消防 2010:32:89-91


 





 

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