120604教育・伝承(4)救命担架レスキューボード

 
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基本手技

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教育・伝承(4)

救命担架レスキューボード

講師

中尾龍幸(なかおたつゆき)

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所属:山陽小野田市消防本部
出身:山口県山陽小野田市
消防士拝命:昭和57年
救急救命士資格:平成10年
趣味:飛行機、スキー



シリーズ構成

西園与之

(東亜大学医療工学科救急救命コース)


月刊消防原稿「教育」
救命担架レスキューボード

I.はじめに

プールの3大事故として、飛び込み事故、吸い込み事故、水没事故がある。

毎年小中学校教職員・保護者を対象に救命講習を行っているが、ある小学校教諭から「児童がプールに飛び込んだ時、もし首をけがした場合の対処法について教えてほしい」と要望があった。プール水面上において頚椎損傷事故は通常でも考えられることであり、水面上から早期の救出が要求されることから、救急車に積載してあるロング・バッグボードによる救急救助方法を紹介したところ、「予算的にも高価であり、すぐさま学校には導入できない」「安価な代替え品も難しく見当たらない」という声が聞かれ、「損傷部に二次災害を与えずに助けるのは複数回の練習が必要ではないのか」や「小さな児童の体型にも合うのか」と、問題点も挙げられた。

また、小学校保護者を対象とした救命講習において、夏休み期間中では保護者が小学校プールで子供達の監視を行うこともがある。監視役の経験ある保護者へ「目の前で子供が溺れた時どのように助けるか」という質問に、「とっさの場合、頭が真っ白になり、何もできないかもしれない」「具体的には、どのように助けて良いのか解らない」との意見が多くあった。

写真1
小学校プールでの水難救助講習会

大人の不在時では小学生だけでプールから救出しなければならない。そのため小学校プールにおいて小学生による水難救助講習会を開催した(写真1)。

II.金魚すくい救助法

写真2
「金魚すくい」をしているところ

プール内で溺れた小学生を、試作したレスキューボード(プレホスピタル・ケア2011年8月号参照)を用いて(写真2)プールサイドまで有効に救出させる方法である。

この講習会を通じ、脊髄損傷など負傷者の長期的な機能予後への影響を学ぶことで、全脊柱固定の必要性を理解してもらうこと、さらには、学校プールサイドにレスキューボードを設置させたいと考えた。

金魚すくいの設定は以下とした。

(1)友達がプールに頭から飛び込んだ後、様子がおかしい(写真3)。模擬患児は「首が痛い、手足がしびれて動かない」ものとした。

(2)小学生グループで、プールサイドに置いてあるレスキューボードを使用して溺れている友達を「金魚すくい」の要領で救い上げプールサイド上まで救出する(写真4)。

(3)グループ毎に安全に素早く友達を救出できたか、フィードバックする(写真5)。

写真6
2回目は手際が良くなる

小学生10名程度の実施53グループで救出を行った結果、「金魚すくい」から、概ね1分以内で全脊柱に負担も少なくプールサイド上へ救出可能だった。また、2回目を行うと、手技の要領も良くなり時間短縮が図られた。複数回の実技指導を行うことで、救出時間も短く、より安定した有効な救出が可能となった(写真6)。

レスキューボード講習会を体験した、小学生の意見をまとめた(表1)。

レスキューボード講習会を行った5年間、市内小学校プールでの消防機関が出場した水難事故は0件である。

表1
———————————–
・水面では軽かったが、プールサイドに上げる時重かった。
・プールサイドに上げる時、まっすぐ(水平を保つ)にするのが難しい。
・プールサイドに上げる時、重くてレスキューボードが斜めになって助けた人をプールに落してしまった。
・プールサイドに上げた時、指を挟みそうになった。
・レスキューボードが壁にぶつかった時、強い衝撃があり、ビックリした。
・もう1度行って、救出タイムを前回より速くしてみたい。
・思ったより、簡単にできた(写真7)。
・難しかった。
・速く助けることができた。
・楽しかった(写真8)。
————————————–

III.辛いところ

市内の全小中学校へ、教育委員会を通じてレスキューボードを配布し終えた翌年、ある小学校へ普通救命講習会の指導に行ったところ、同じ時間帯に学校プールで児童への水泳指導が行われていたが、配布しているレスキューボードがプールサイドには見当たらなかった。このことを学校長に問い合わせたところ、「プールサイドにレスキューボードを置いていて、子供のイタズラなどからケガでもあれば大変だから倉庫に保管している」との回答があった。

また、別の教諭からは、『実際に使ったことはないけど、本当にあんなので役に立つの?』と、否定的な意見もあった。

写真9
プールサイドへ常設をお願いするのだが常設しているところはわずか

企画製作者としては、水泳指導時は水の事故に早期対応を考えプールサイドへ常設をお願いしていたところである(写真9)が、安全保障もないことから説得力もなく、結果、辛いものとなった。学校側としては「児童だけでの救助活動が現実的ではないこと」や「試作段階中のレスキューボードでは安全保障のないこと」などが常設を阻む理由である。

試作したレスキューボードが、児童・生徒、教職員・保護者など使用者側へ容易に受け入れられ、「今の状態よりも悪くさせない」という必要性の共通認識が得られるように、設置する学校側への配慮のうえ、受講者対象別に講習内容を検討するとともに、今後さまざまな講習会を利用して普及啓発活動にも努めていきたいと思っている。

IV.夢を現実に

レスキューボードを市内の全小中学校に配布したが、初めて見る人も多く、「あのオレンジ色の長い板は何に使うのだろう?」との質問が絶えない。使用する方にも、必要性どころか理解もなく受け入れられていないのが現状である。

小学校のプールサイドに「ビート板」があれば、「あの板は何」という疑問があっても、多くの小学生は「あの板は、水泳が苦手な人でも水に浮いて、バタ足や息継ぎの練習に使うものだよ」と答えられる。レスキューボードも同様に、夏には全国どこの学校のプールサイドでも普通に置いてあって、「あの長い板は、プールで溺れた人を「金魚すくい」のように使って、助ける救命担架だよ」と普通に答えられるようになれば、その児童たちが約10年後に成人となり、約20年後にプールサイドで監視役の保護者となる頃にはプールサイドの必需品となっているだろう。

写真10
レスキューボードをプールサイドの必需品に!

毎年さまざまな講習会等を通して、少しずつでもレスキューボードの必要性・重要性の普及活動に努めていけば、ビート板と肩を並べられる必需品となる。この夢を現実にしていきたいと思っている(写真10)。


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12.6.4/9:22 PM

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