120606実践ガイドライン2010(1)ガイドライン2010の主な変更点

 
  • 256読まれた回数:
基本手技

OPSホーム>基本手技目次>120606実践ガイドライン2010(1)ガイドライン2010の主な変更点

実践ガイドライン2010

第1回

ガイドライン2010の主な変更点

イラストで覚える救命処置と応急手当

2012/6/15近代消防社から発売

税込み315円


講師

名前 大亀 正人(おおがめ まさひと)
所属 富良野広域連合富良野消防署南富良野支署
出身 富良野市山部
消防士拝命年 平成21年4月1日
救命士合格年 平成22年
趣味 ギター、旅行


監修者挨拶

心肺蘇生ガイドライン(G)2010はアメリカ版とヨーロッパ版、それと日本版速報は去年の秋に発表となりました。正式日本版もこの連載が始まる前には発表されている予定でしたが、大震災の発生により作業は中断、今のところいつ救急現場に導入されるかるか分からない状態です。でも必ずG2010に変更する時が来ます。
この連載では1年間かけて、消防に特化したG2010解説を行います。執筆は救命士・一般救急隊員を含めた消防職員が担当します。消防職員なら誰でも理解できるような平易な解説を心がけます。突然の通達やMCからの要請に慌てないよう、毎回ご覧になって下さい。

玉川進
国立病院機構旭川医療センター


はじめに

今回から1年間の連載になります「実践ガイドライン2010」!

各消防の先輩方々が名を連ねる中、栄えある第1回目の掲載に私が選ばれました。誰が読んでもわかりやすいように解説したつもりですので是非読んで下さい。

さて、ガイドライン(G)2005が発表されようやく慣れたと思った矢先、早くもG2010が発表されました。G2005では胸骨圧迫が重要視され1サイクル30回になりました。当時、私は専門学校でG2000を学んでいました。しかし、在学中にG2005に変更となったため、G2005に慣れるのに苦労した記憶があります。今回G2005からG2010に変更するにあたり、両者にはそれほど大きな変更点はなく、心配することなく新ガイドライン2010に移れると思います。

G2010では複雑な部分が簡略化されています。医療従事者だけではなく、一般市民も取り組みやすくなりました。呼吸の確認は容易になり、胸骨圧迫は「1分あたり100回以上」となり、今までの「1分に100回」というテンポを気にすることなく胸骨圧迫を実施することができます。

今回は新ガイドラインで大きく変わった「主な変更点」を取り上げます。

1.救命の連鎖

心停止や窒息という生命の危機的状況に陥った傷病者や、これらが切迫している傷病者を救命し、社会復帰に導くためには、「救命の連鎖」と呼ばれる4つの要素が必要となります。この「救命の連鎖」というのは、4つのリングで繋がっていて、どれか1つでも欠けてしまうと救命率は悪くなっています。この4つのリングの連鎖で傷病者を救命していくのです。

ガイドライン2005での「救命の連鎖」は図1のとおりでした(図1)。

ガイドライン2010では最初のリングが「心停止の予防」に変更されました(図2)。

(1)心停止の予防

写真1 急性冠症候群 動悸がする

心停止や呼吸停止となる可能性のある傷病を未然に防ぐことです。例えば、小児では交通事故、窒息や溺水などによる不慮の事故を防ぐことが重要となり、成人では急性冠症候群(写真1)や脳卒中発症時の初期症状の気づきが重要です。防ぐこと・気づくことによって心停止に至る前に医療機関で治療を開始することが可能となるのです。

(2)早期認識と通報

写真2 大声で助けを呼ぶ

突然倒れた人や、反応のない人をみたら、ただちに心停止を疑うことで始まります。心停止の可能性を認識したら、大声で叫んで応援を呼び(写真2)、救急通報(119番通報)を行って、自動体外式除細動器(AED)や救急隊が少しでも早く到着するように努めます。

(3)一次救命処置

写真3 AEDを使用しているところ

呼吸と循環をサポートする一連の処置のことです。一次救命処置には胸骨圧迫と人工呼吸による心肺蘇生とAED(写真3)が含まれます。誰もがすぐに行える処置であり、しかも心停止患者の社会復帰においては極めて大きな役割を果たします。

(4)二次救命処置と心拍再開後の集中医療

二次救命処置は、一次救命処置のみでは心拍が再開しない傷病者に対して、医師や救急救命士などが薬剤や医療機器を用いて行うものです。心拍再開後は、必要に応じて専門の医療機関で集中医療を行うことで社会復帰の可能性を高めることができます。

2.心停止の判断

写真4 呼吸の確認は見るだけで「見て、聞いて、感じて」は削除

G2005では呼吸確認のために気道確保して「見て、聞いて、感じて」で呼吸の有無を10秒かけて確認していました。しかし、G2010ではこれが削除されました。一般市民では、反応のない成人が呼吸をしていないか正常な呼吸をしていなければ(心肺停止直後では死戦期呼吸といってしゃくり上げるような呼吸が見られることがあります)呼吸なしと判断し、ただちに胸骨圧迫を開始します。医療従事者や救急隊員などは呼吸と同時に脈拍確認します。呼吸の確認方法は胸と腹部の動きを見つめて(写真4)動かなければ呼吸なしと判断します。ただし、呼吸も脈拍も10秒以上かけないで手短に確認をして、すぐに胸骨圧迫を開始することが大切です。

3.手順の変更 A?B?C → C?A?B

G2005では、反応の確認、応援とAED要請、気道確保(Airway)、呼吸確認(Breathing)、(医療従事者のみ脈拍蝕知)、胸骨圧迫開始(Circulation)で、A?B?Cの手順でした。

写真5-1 C(胸骨圧迫開始)

写真5-2 A(気道確保)

写真5-3 B(人工呼吸)フェイスシールドなし

ガイドライン2010では、C?A?Bに変更されました(写真5)。これにより、胸骨圧迫の開始時間が極めて早くなり重要な治療を迅速に受けることができます。人工呼吸は、ガイドライン2005の通り実施不可能や抵抗を感じる場合は省略可能です。

4.胸骨圧迫

写真6 胸骨圧迫は5cm以上、100回/分以上で押す

すべての救助者は、訓練されていてもそうでなくても、心停止の傷病者に胸骨圧迫を実施すべきです。また、次にあげる質の高い胸骨圧迫を行うことが重要で今以上に「強く、速く押す」が強調されています(写真6)。

・成人において少なくとも5cm以上押すべきである
・乳児、小児は胸の厚さの約1/3(乳児は約4cm、小児は約5cm)以上を押す
・胸骨圧迫の中断を最小にする

写真7 工事現場の親方が胸骨圧迫を実施しているところ

「講習や訓練を受けたことのない一般市民の方は突然倒れた成人傷病者に対して胸の真ん中を『強く、速く押す』ことに重点をおいた胸骨圧迫のみの心肺蘇生法を行う(写真7)か、消防の通信員の指示に従って心肺蘇生法を行うべき」とあります。これは救急隊が到着するまで続けます。

講習や訓練を受けたことがある一般市民の方で人工呼吸が実施可能であるならば、30:2の圧迫:換気比で胸骨圧迫と人工呼吸を行って下さい。これも救急隊が到着するまで続けます。胸骨圧迫の主な変更点は以下のとおりです。

(1)テンポ

今までは「強く、速く、絶え間なく」で胸骨圧迫を行っていましたが、今回も今以上に強調されています。1分に100回のテンポを気にしていたら、そのことに気を取られて圧迫位置が不十分であったり何回圧迫したか忘れてしまった経験はありませんか。今回からは、それらを気にすることなく1分あたり100回以上のテンポで胸骨圧迫を行います。胸骨圧迫を行っているとどうしてもテンポが速くなっていってしまいます。そういった部分ではいいと思いました。

(2)深さ

ガイドライン2005では約4?5cm押すということでしたが、ガイドライン2010では5cm以上沈むように押すに変更されました。乳児、小児は胸の厚さの約1/3(乳児は約4cm、小児は約5cm)以上と若干変更になっています。子どもに対する胸骨圧迫は、片手で行っても両手で行ってもよいとしています。救命講習で実際に胸骨圧迫を行ってもらっていますが、浅く押している人がかなりいます。高齢者の方だと5cm以上押すのはかなり大変だと思います。またテンポも100回以上となり、強く速く押すことはとても体力を使います。実際に訓練用の人形で行ってみたらわかると思います。しかし、深さやテンポを気にすることなく、「強く、速く押す」だけを考えて実施できるのでいいと思います。

(3)部位

写真8 胸骨圧迫は「胸の真ん中」を押す

ガイドライン2010での胸骨圧迫部位は胸骨の下半分を圧迫するとします。目安としては「胸の真ん中」(写真8)とします。ガイドライン2005では「乳首と乳首を結んだ真ん中」を胸骨圧迫の指標としていましたが信頼性に欠けるとのことで変更になりました。「胸の真ん中」と変更になったことによって位置がわかりやすく、すぐに「胸の真ん中」に手を置き胸骨圧迫を開始することができます。

このようにガイドライン2010でも胸骨圧迫は今以上に重要視されています。しかし、ガイドライン2005とはあまり変わったところもなく、すぐにガイドライン2010に慣れると私は思います。(おそらく・・・。)

5.乳児にもAED使用可能

写真9 乳児もAED使用可能となりました
(パッドは前と背中に貼っています)

これまで使用不可能であった乳児にもAEDの使用が可能となりました。

出力設定が調整できる手動式除細動器を使用するのが好ましいとしています。手動式除細動器を使用できない場合は小児用エネルギー減衰システムを搭載したAEDが望ましいとされています。どちらも使用できない場合は、小児用エネルギー減衰システムを搭載してないAEDを使用しても大丈夫です。装着するパッドは小児用パッドがあればそれを使用します(写真9)。ない場合は、成人用AEDを乳児に使用可しても良いとしています。

おわりに

ざっとではありましたが、以上がG2010の主な変更点です。G2005とはあまり大きな変更点はないため心配なくG2010に移れるのではないでしょうか?胸骨圧迫が一番初めの処置でこれを「強く、速く押す」に心掛けていれば大丈夫だと思います。私もガイドライン2010に早く慣れるように勉強していきたいと思います。それと同時に救急隊員に1番大切である傷病者、家族や関係者の気持ちがわかる心を養っていきたいです。


OPSホーム>基本手技目次>120606実践ガイドライン2010(1)ガイドライン2010の主な変更点

12.6.8/10:55 PM

もっと読みやすく、わかりやすく。文章の完成度を高めるライティングツール【文賢】

日本最大級の記事作成サービス【サグーワークス】

コメント

タイトルとURLをコピーしました