中尾龍幸: 救命担架レスキューボードの作製。プレホスピタルケア 2011;24(4)

 
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中尾龍幸: 救命担架レスキューボードの作製。プレホスピタルケア 2011;24(4)

プレホスピタル・ケア「私たちの工夫」投稿

救命担架レスキューボードの作製

山陽小野田市消防本部
中尾龍幸(なかおたつゆき)

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中尾龍幸(なかおたつゆき)

〒756-0815
山口県山陽小野田市高栄一丁目6番1号
Tel 0836-83-0119
Fax 0836-83-0233

1.はじめに

小学校教職員を対象とした普通救命講習会においてプールで溺れた場合の処置方法について心肺蘇生法等の応急処置を指導していたところ、ある教諭から「児童がプールに飛び込んだ時、もし首を怪我(頸椎損傷など)した場合の対処法について、教えてほしい」と質問があった。この時の講習会では、救急車に積載してあるロングバッグボードによる救急救助方法を紹介したところ「小学校には説明された高価なバッグボードは無く、布担架があるだけだ。何かバッグボードに対応できる物はないか」との返答だった。

ここで、一般市民でも通常身の回りにある日用品を利用し、簡単に取り扱え、経費を最小限に抑えたロングバッグボードの必要性を考え、レスキューボードを製作した。

2.材料

市内のホームセンターを回って、安く購入できるものを探した。

コンパネ型枠合板(900mm×1,800mm×12mm)1,200円×1/2枚
特価荒木材柱角材(30mm×40mm×1,700mm)200円×2本
ドリルビス木用ねじ(太さ3.8mm長さ41mm)1本あたり5円×20本
木工用ボンド100円×1本
水性防水塗料(1L程度)800円×1缶
紙やすり(サンドペーパー♯60-120)40円×2枚

1枚あたりの製作費・・・・・・・約2,000円程度

3.作製方法

一般的な日曜大工をイメージして、特殊な工具を使うことなく、不器用であっても気楽に作成できるように設計した(図1,図2)。

図1図2ダウンロード

 

(1)コンパネ合板を(1800mm×450mm)半分にカットする。

(2)コンパネ合板に切断部分を油性マジックで黒色にマーキングする(図3)。

(3)黒色カット部分を最初に電動ドリルで穴を開ける。(電動ジグソーの刃を入れるため)

(4)電動ジグソーでマーキングした黒色切断部分をカットする(図4)。
(5)ボード背面の柱角材(30mm×40mm×1700mm)を2本作成する。
(6)本体合板と柱角材の接続面に木工ボンドを塗り(図5)、ドリル木用ビスネジで固定する。

(7)ボード側面凹部及び表面ネジ取付後凹部に木工用ボンドを注入する。

(8)ボード切断加工部分をやすり・サンドペーパーで研磨する(図6)。

(9)ボードを水性塗料で2-3回程度塗装する(図7)。塗装完了後自然乾燥させる。

(10)完成(図8)

4.学校プールでの有効性について

児童(小学4,5,6年生)の協力も得てプール水面上からプールサイド上まで有効に救出が可能であるか検証を行った(図9,10)。

救助者は小学4年生男女7人を一組とした。救助者の男女比と引き揚げ時の人数はその時々で変わった。2005年-2010年小学生53グループで救助時間を記録した。

(1)小学校プール検証内容(プール事故頸椎損傷者への対応)
場所:小学校プール
想定:児童がプールへ飛び込んだ後、様子がおかしい-
模擬患者:首が痛い手足がしびれて動かない!
救助者:プール内で発見・・・どうしよう-

(2)児童への情報提示
《想定》
友達がプールに飛び込んだ後反応なく仰向けに浮かんでくる。レスキューボードを使って反応のない友達をみんなの力でプールサイドに引き揚げる。
《使い方》
レスキューボードに乗せる時は『金魚すくい』のように下からレスキューボードを潜らせて乗せる
《注意》
人を乗せたら絶対に走らない!
水面から上げる時は水平を保つ
プールサイド上に降ろす時は指を挟まないようにゆっくりと!

(3)結果
プールサイドから模擬患者到着まで約5-17秒
模擬患者をレスキューボードに載せるまで約8-29秒
水面移動プールサイド上に救出完了まで約22-72秒
救出完了まで平均51.5秒

5.考察

学校プールにおいて、レスキューボードを使用して模擬患者を小学生グループのみで救出を行ってみたところ、全脊柱軸に負担少なく短時間で救助できることがこの検証で明らかとなった。我々は救出時間に3分を見ていたが、予測していた救出時間よりもはるかかに速く、概ね1分以内で全脊柱に負担少なく救出可能な結果となった。また、水面上での搬送は、性別・人数差があっても、時間的な差は認められないが、模擬患者を水面からプールサイドへ揚げることについては、男子15人で約3秒、女子6人で約22秒のデーターから、引き揚げ時では人数の多い方が当然であるが有利であった。さらに再チャレンジ希望から2回目を行うと手技要領も良くなり、1回目と比較してみると、3-16秒程度の短縮が測られた。
この検証において、指導のポイントも明らかとなった。

児童達にスピードを強調すれば、競争意識から30秒以内(最速22秒)での救出も可能となったが、手技が雑になりやすく、不安定な状態で搬送となることも多く見られ、ボードがコンクリート側壁に強い衝撃で激突する危険な状態も見受けられた。このことから、レスキューボードに人を乗せた時は、『絶対に走らない』の指導が必要である。

水面からプールサイドに持ち上げる時、ボードを水平維持させることが小学生には難しい。これはボード周囲に均等な配置を指導することで、水平バランスをとることができ、落下の回避を行うことができた。

レスキューボードを保持し地面等に接地する時、穴の開いた取手以外の部分を持つと指を挟む可能性があるためこの指導も必要である。

これらの結果を踏まえ、我々は市教育委員会を通じて、山陽小野田市内の全小・中学校へレスキューボードを無料配布した。だが、上記の指導のポイントからも、このボードがまだまだ試作段階であることは明らかである。今後、多方面からの意見を取り入れ、誰もが容易に取扱え、水難事故や高エネルギー事故など、早期対応できるものとして、全国へ普及させたいと考えている。

6.結論

(1)日用品を利用し、簡単に取り扱え、経費を最小限に抑えたロングバッグボードを作成した。

(2)学校プールで小学4年生を救助者としてロングバッグボードを用いて溺水救助を行ったところ、平均51.5秒で救助が完了した。

(3)作成したロングバッグボードは試作段階であり、さらに改良を加える予定である。

7.謝辞

有効性の検証にあたり、アドバイスや貴重な意見を頂いた市教育委員会をはじめ、学校の先生方・児童・保護者の方々に感謝いたします。





 

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