120609工夫(12最終回)ICLSコースから学んだ訓練・現場への取り組み

 
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基本手技

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工夫(最終回)

ICLSコースから学んだ訓練・現場への取り組み

プロフィール

氏 名 : 亀岡周一(かめおか しゅういち)
所 属 : 大洲地区広域消防事務組合
大洲消防署本署
出 身 : 愛媛県大洲市長浜
消防士拝命 : 平成4年
救急救命士合格 : 平成12年4月
趣 味 : 野球観戦


シリーズ構成

>シリーズ構成者ご挨拶

泉清一(いずみせいいいち)
大洲地区広域消防事務組合
大洲消防署内子支署小田分駐所勤務
専門員兼救急第一係長兼消防第二係長
昭和五十六年四月一日消防士拝命
平成十六年五月救急救命士合格
気管挿管・薬剤認定救急救命士
趣味:格闘技全般(柔道五段・相撲三段)


ICLSコースから学んだ訓練・現場への取り組み

大洲地区広域消防事務組合
大洲消防署 本署 亀岡周一

【兼務体制の小規模消防】
 写真1 大洲地区広域消防事務組合
消防本部

当消防は、大洲市と内子町の1市1町、管轄人口65,325人を1本部、1署、3支署、1分駐所で構成している。

また、職員数は105名で、火災、救急、救助の災害対応を兼務で行っている小規模消防である。

【少ない心肺停止症例】

平成22年の火災出動件数は25件、救急出動件数は、2,918件であった。

救急の事故種別として特徴的なのは、転院搬送の出動件数が急病に続いて多く、専門分野の医師不足により、地元の救急輪番病院では対応できない問題が著明に現れている。

別表 平成22年
救急出動及び搬送人員件数表 参照

また、心肺停止症例事案は96件あり、特定行為の実施状況は、96件中、49件実施しており、51%の実施率である。

【「つもり」レベルの救急救命士】

写真2 ICLSコース風景

8年前、少ない、心肺停止症例事案を補おうと、ICLSコース(院内の二次救命処置講習会)を受講した。

その時、「絶え間ない心マと換気!」「目指せ!VFハンター」

インストラクターが発しているこの言葉に、衝撃的だった。

受講前:「心マの中断時間は、短い方がいいやろ。」

衝撃的:心マの中断時間は、10秒以内。できれば5秒以内を目標に!

心マの中断時間、秒数なんて、今まで、こだわったこともなかった。

受講前:「バックバルブマスクの換気は、一人でやるもんだ。」

衝撃的:マスクホールド者とバックをもむ者を分けた二人法。セリック法を併用した換気。

そんな換気方法があるなんて知らなかった。

受講前:「モニターの誘導は? もちろんII誘導!」

衝撃的:モニターの誘導の切り換えや感度を上げることによって、VF波形を見つける。

そんなこと、考えたこともなかった。

救急救命士研修所を卒業してから2年、その知識だけを頼りに現場活動や訓練を行っていたため、この衝撃は大きく「こんな方法があるんだ。こんなこだわりがあるんだ!」と驚きと衝撃の連続だった。

そして、救急隊員として、救急救命士として、知っているつもり、極めていたつもりだった蘇生処置の基本が、本当に「つもり」のレベルであることに気が付いた。

指導的立場である救急救命士が、「つもり」のレベルでは、救急隊員も同じ「つもり」のレベルである。

この現状を目の当たりにし、「つもり」のレベルじゃく、「知っている。」「極めている。」と、言い切れる救急隊員、救急救命士の育成が必要だと痛感した。

【熱血検証医と共に!】

こんなきっかけから、ICLSコースに携わるようになり、救急隊員のレベルの向上を目指し、励むようになった。

また、ICLSコースを学ぶには、環境も整っており、当消防が所属している愛媛県南予地区メディカルコントロール協議会は、ICLS作業部会を立ち上げ、心肺停止傷病者に対する基本的な手技と知識の習得が行えるよう生涯教育にも力を入れている。

南予地区メディカルコントロール協議会の主催によるICLSコースは、年間7~9回開催されており、各地域の基幹病院とタイアップし開催している。

言うまでもなく、ICLSコースの熱血地域で、コースの休憩時間中、よく聞こえる甲高い声。

「フィードバックするポイントがずれてるでしょ! インストラクターなら何を伝えるべきか考えなさい!」

この声は、南予地区メディカルコントロール協議会の検証医でもあり、ICLS作業部会の中心として活動している宇和島社会保険病院麻酔科の山下千鶴医師である。

また、同検証医である愛媛県立中央病院救急診療部の小田原一哉医師も山下医師と同様、当地域のICLSコースに力を注いでおり、お二人の情熱ある指導の下、私たち救急救命士は、緊張感を高めながらも、楽しくかつ教本以上の知識が得られるため、熱血検証医と共に、ICLSコースに携わりスキルアップを目指している。

そして、このICLSコースで学んだことを救急隊員の訓練や現場活動に活かしているので紹介する。

【BLSスキル】

【工夫1 胸骨圧迫は、どう教える?】

 写真3 胸骨圧迫トレーニング風景

南予地区ICLSコースでは「絶え間ない胸骨圧迫!」を一つの到達目標として、一日のコースを行っている。

そのため、胸骨圧迫のトレーニング方法については、試行錯誤している。

胸骨圧迫は、女性の看護師さんが苦手にしていることが多く、決められた時間内に胸骨圧迫の苦手な部分、修正が必要な部分を把握するため、ポイントを分割したトレーニング方法を考えた。

このトレーニング方法を取り入れたことにより、各個人の修正部分がピンポイントに把握できるようになった。
ポイントを分割した胸骨圧迫のトレーニング方法は、次のとおりで、各項目のポイントを意識させ、30回ずつ圧迫する。

(1)「胸骨圧迫の位置、圧迫する姿勢。」
「圧迫の位置は、胸の真ん中ね。」
「よ~い 始め!」
「1、2、3、4、5・・」
「肘を伸ばして! 垂直に押して!」
「・・・・27、28、29、30」

次は、
(2)「圧迫する強さ。」「4~」
「さっきの圧迫の姿勢と位置も忘れないように!」
「よ~い 始め!」
! 頑張って押す!」

次は、
(3)「圧迫するテンポ。」
「このメトロノームのテンポに合わせて、1分間に100回のテンポで押してね。」
「圧迫する姿勢、位置、強さも忘れないように!」
「よ~い 始め!」
「ピッピッピッピッ」
「テンポに合ってないよ!」

次は、
(4)「圧迫したら、きっちりと元の位置まで戻す。」
「圧迫する姿勢、位置、強さ、テンポも忘れないように!」
「よ~い 始め!」
「リコイルが大切ですよ。戻りが浅い! しっかり戻して!」

次は
(5)「今までやったトータルです。」
「圧迫する姿勢、位置、強さ、テンポ、戻り。5項目を意識してやりましょう。」
「よ~い 始め!」
「1、2、3、4、5・・」

!」
「・・・28、29、30、はい、圧迫終了で~す。」
「お疲れ様でした。やっぱり圧迫が弱くなりますね。腕だけで押そうとすると疲れるので、体全体で押す気持ちで頑張りましょう。」

(1)から順に重点するポイントの評価を行い、(2)以降からは、一つ前に行ったポイントも踏まえ実施していく。

この分割したトレーニング方法によってピンポイントでフィードバックが行えるようになった。

この方法は、救急隊員においても各個人の修正部分が把握でき、胸骨圧迫のポイントも再認識させることができる。

この訓練において、わかったことは、救急隊員は、圧迫する「姿勢」、「強さ」、「テンポ」は、どの隊員も指摘することがないぐらい、うまくできる。

しかし、「胸骨を圧迫した後の戻り。」を意識している隊員は少なく、「たまたま、圧迫が戻っている。」と言う状況であった。

有効な拍出量を得るためにも「圧迫した後の戻り。」も意識するよう隊員にフィードバックをした。

【工夫2 言葉は明確に!】
ポイントを修正するフィードバックの「言葉」にも、こだわりをもつようにした。
「胸骨圧迫をもう少し押して下さい。」
この言葉を聞いた受講者は「どれだけ押せばいいの。」と、不審な表情をする。もちろん、圧迫する強さにも変化は見られない。
強く押して下さい。」と明確に言うと、受講者は「もっと強く押そう」とする姿勢が現れてくる。
フィードバックする言葉は、目標となる数値や位置を明確に伝えることで、取り組む姿勢や手技に変化が見られてくる。
そのため、言葉は「明確に」を心掛けフィードバックを行っている。

【工夫3 フィードバックは、「百聞は一見に如かず」】

「胸骨圧迫が、垂直に押せてませんよ。」とインストラクターが伝えると、

「えっ そうですか?」

納得しない受講者の顔。もちろん、その後も変化はなく、斜めに圧迫を行っている。
 そこで、取り入れたのが「百聞は一見に如かず」デジタルカメラの動画機能を使い、受講者が行っている胸骨圧迫を録画する。その直後に動画を見せると、受講者は自分の姿を見て修正箇所を素直に認める。そのため、口頭でフィードバックするより、効果が数段高く改善されるスピードも速い。

 従来の救急隊員の訓練もフィードバックは、口頭のみで行っていたが、フィードバックを受けた隊員は、「自分は、ちゃんとできているのに!」という表情を見せたり、「ちゃんとやってますよ!」と反論する隊員もいる。

しかし、デジタルカメラの動画機能を使うと同結果で、反論していた隊員も、自分の修正箇所を認め、改善することができるようになった。

「百聞は一見に如かず」、動画を使用してのフィードバックは、効果絶大である。

【換気スキル】

【挿管はさせません!】

「マスク換気が確実にできなければ、挿管はさせません!」

マスク換気は、気管挿管実習の際、山下千鶴医師から厳しく指導をして頂いた。マスクフィット、気道確保要領、換気(送気・排気)、換気量など、叱咤を受けながら、冷や汗をかき体得させられた。

ICLSコースにおいても、気管挿管よりマスク換気に重点をおき、一日のコースを進めている。

【工夫4 換気の状態は、手で確認しろ!】

「ちゃんと、換気ができてるか、胸骨圧迫者が評価をしましょう。」

「胸骨圧迫をする手で胸の膨らみを感じて下さいね。」

胸骨圧迫を重視するあまり、換気が疎かになっていることが多いため、胸骨圧迫者が換気の評価を行うよう意識付している。

 バックバルブマスクのスキル時間に、蘇生人形を使って、30対2の同期で胸骨圧迫と換気をお互いに評価するトレーニンを行う。

換気者は、胸骨圧迫の「位置、強さ、戻りなど」を評価し、胸骨圧迫者は、換気時の「胸の膨らみを圧迫する手で感じ」評価を行う。

自己評価だけでなく、お互いが評価を行うことで、確実性が高まる。

このお互いの評価方法を実際の救急現場で行うと、「自分の手技が確実に行えている。」と言う指標が得られ、高まる緊張感も抑えられる。

【工夫5 「お作法」防止】

「脈の位置は、もう少し頭側ですよ。」

「気道の確保をしっかり行わないと、換気ができませんよ。」

「どうせ人形だから」と、「形だけ」「マネごとだけ」になっている受講生が必ず現れる。

これを私たちは、「お作法」と呼んでいる。

 この「お作法」手技を改善するため、当コースでは、人形だけのトレーニングではなく、生体でのトレーニングも取り入ている。

救急隊員も「お作法」が得意なため、その防止策として、バックバルブマスク換気の訓練は生体で実施するようにした。

傷病者役を仰臥位の状態にさせ、次の順序でポイントを小出しに行う。

(1)下顎挙上のみ行う。
(2)EC法でのマスクフィットを行う。
(3)呼吸停止を想定しての換気を行う。
(4)正常な呼吸に対して補助換気を行う。
(5)頻呼吸(毎分42回程度)に対しての補助換気を行う。
(6)除呼吸(毎分6回程度)に対しての補助換気を行う。

この方法によって、傷病者役からの生の評価が得られること。そして、胸骨圧迫の訓練と同様、ポイントを分割することによって、各個人の苦手な部分や修正箇所を把握することができる。

また、マスク換気は、送気にのみ意識が集中するが、呼気の確認も重要である。

送気は、気道確保が不十分な場合でも、陽圧なため行えるが、呼気は圧が弱いため、気道の開通が不十分な場合、排出されないこともある。

呼気の排出ができない状態が続くと胸腔内圧が上昇し、換気不良をはじめ循環状態にも悪影響が出てくる。

 この状態を理解させるため、次の内容を体感させる。

訓練に参加している隊員に、
「息を大きく吸って」
「吸った息は吐かず、また息を吸う。」
「息は吐くなよ!」
「吐かず、また息を吸え。」

これを3~4回繰り返した頃に、隊員が「苦しい!」と言って、止める。
「そう!苦しいだろ。」
「これが、さっき言ってた状態だよ。」
「換気をしていて、呼気を確認せず、次の送気をすると、傷病者はこんな状態になってるんだよ。」
と、マスク換気時に、呼気が排出できない悪状態を体感させる。

傷病者の状態を体感させることによって、自分たちが行っている処置の手順や確認の重要性を理解させ、手技の「お作法」防止を行う。

【モニター付除細動器スキル】
【工夫6 電気ショックする? or しない?】

「この波形は、なんでしょうか?」

「え~ え~と、FV? えっ いやVT?ですか?」

除細動器のモニター波形を見ながら、聞くと、大半の受講者から、このような返答が返ってくる。

ICLSコースで受講者が一番苦手にしているのが、モニター付除細動器の取扱である。内容は、「心停止時の4つの波形の判読。」と「安全に電気ショックを行う。」ことを到達目標にしている。

この心停止時の4つの波形の判読と安全に電気ショックを行うことは、救急隊員としても身につけなければならない大切な項目であるが、救急救命士以外の一般隊員は、心停止時の4つの波形の判読にも苦慮している。

受講者の看護師さんも同様で、心停止時の4つの波形の判読に苦慮しており、モニター波形の確認に、10秒以上の時間を要していることが多いため、次のような振り分けを行いシンプルにしてみた。

(1)電気ショックが必要か(VF、VT)
(2)電気ショックが不必要か(PEA、Asystole)

 心電図波形を大きく分けて2種類とし、電気ショックが必要か不必要なのかだけを判断させるようにした。

特に、VFとVTの区別に苦慮していることが多いため、同じ電気ショックの処置であることから、その区別にこだわることなく、電気ショックが必要だと判断したら、早期除細動。

電気ショックが不必要だと判断したら、胸骨圧迫を再開させ静脈路確保、薬剤投与の処置へと移行する方法を試みた。
その結果、モニター波形の確認時間が5秒程度となった。

そのことから、一般の救急隊員においても、4つの心電図波形の判読まで望まず、早期除細動が必要か不必要なのかを判断させるように切り換えた。

心電図波形の判読を2種類の選択に留めることで、隊員の迷いも少なくなり、動きが止まっている時間も短くなった。

しかし、「心電図は、わけわからん。」と言って、毛嫌いする隊員も、まだまだ多いのが現状である。

そのため、救急車には、半自動式タイプと自動式タイプの除細動器、2台を車載し、出動する隊員によって使い分ける策も講じている。

【最後に】
【救急隊員の変化を目指して!】

ICLSコースのスキルから学んだ内容、「工夫」をBLS、バックバルブマスク換気、モニター付除細動器の項目に分け紹介した。

ICLSコースは、院内の二次救命処置の教育カリキュラムであるが、救急隊員としても知っておくべきスキルも多く含まれている。

また、今年は、ガイドライン2010への移行期でもあり、ICLSコースも指導要綱を改定される年でもある。

このような改定期においても、ICLSコースに携わっていれば、ガイドラインに沿った蘇生処置を常に把握することができる。

救急隊員のレベルアップを図るために、「まずは、何ができるか。」を考えた時、自分が衝撃を受けたICLSコースを救急隊員へ波及することだと思い、取り組んできた。

その結果、少しずつではあるが、「有効な胸骨圧迫をするためには」と考えて現場活動を行う隊員も増えてきた。

現場で「胸骨圧迫交代します!」と隊員自らの声を聞くと、不謹慎ながらも嬉しく感じる。

当たり前のような声かもしれないが、このような声が現場で聞こえることは、隊員の変化である。

ささいなことでも、救急隊員に変化が見られれば、これはレベルアップをした証しである。

このような救急隊員の変化、レベルアップが今後も現れるよう、ICLSコースから学んだことを継続して伝えていきたい。


シリーズ構成者ご挨拶

泉清一(いずみせいいいち)
大洲地区広域消防事務組合
大洲消防署内子支署小田分駐所勤務

 昨年の7月号から6月号までの一年間、12回にわたり四国の12名の救急救命士による「工夫」シリーズ御愛読ありがとうございました。四国は山あり、海あり、離島ありと自然豊かな環境の中、それぞれの消防本部特色のある「工夫」がなされ「こんなことしているの。あんなことも。ふーん。そうなんだ。」など読者の皆さんには少しは参考になる事例もあったのでないかと思います。そんな意見も、ちらほら小耳に挟み、うれしいやら恥ずかしいやら、引き受けて良かったと思います。

 このシリーズを振り返ると四国山脈の天辺で勤務している私にシリーズ監修者の玉川進先生から電話があり、「泉さん、月刊消防で一年間、四国の救急救命士達で好きなこと書いてみないか。」と声をかけていただきました。熊本のシンポジュウムでお会いしていたこともあり、旭川からわざわざ連絡してくれたことに、これもなんかの縁と感じ引き受けたのは良かったが、文才も無い自分にシリーズ構成などできるのだろうか?また、自分が第1回目を書くとして他の11回、素直に執筆をお願いして書いていただけるのか不安が頭をよぎりました。

しかし、「縁とは異なもの味なもの」本来このことわざは男女間の縁に使われることでありますが、あえて使わせていただきます。色々な縁がつながり無事にシリーズ完結することができまた。この縁をこれからも大切にしていきたいと思います。

最後になりましたが、「工夫」シリーズ連載記事を快諾していただきました9消防本部の消防長さんをはじめ、執筆いただきました11名の救急救命士の方々にはあらためてお礼申し上げます。ありがとうございました。


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12.6.9/3:19 PM

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