151227今さら聞けない資器材の使い方(18) 大型油圧救助器具

 
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151227今さら聞けない資器材の使い方(18) 大型油圧救助器具

名前:中村(なかむら) 幸司(こうじ)

所属:岐阜市消防本部 中消防署

出身地:岐阜県岐阜市

消防士拝命:平成17年4月

現職:高度救助隊 隊員

趣味:バスケットボール・育児

大型油圧救助器具

救助事故と一言で言ってもその内容は多様化の一途をたどっています。その中でも「自動車交通事故救助」は当消防本部管内でも多く(平成25年中103件)発生しており、特に幹線道路上での大きな事故が頻発しています。今回のテーマである大型油圧救助器具の使用について、特に発生率の高い交通事故救助の現場での観点から使用方法等を記載したいと思います。

■岐阜市の紹介
本市は、名古屋市から約30㎞の距離にあり、日本のほぼ中央の岐阜県南部に位置しています。岐阜市のシンボルである金華山、長良川をはじめとした雄大な自然と都市部が融合する美しい市です。
また、長良川では1300年の歴史を持つ鵜飼が有名で、平成23年には観覧船乗船者数1000万人を達成しました。

市南部には岐阜の大動脈である国道21号線が東西を貫いており、市街地郊外に多く点在するショッピングセンターの存在も重なって、交通量は比較的多い地域です。そのため、当消防本部管内の救助事案のうち、約3分の1が交通事故救助であり、重大事故も少なくありません。

 

目次

■はじめに

我々は「財産の保護」という観点から、極力破壊を最小限に止めて要救助者を救出することが重要ではありますが、当然災害現場は不安定であり、特に交通事故救助においてはその車両の変形が著しい場合が多々あります。そこで必要となるのが破壊器具。その中でも「大型油圧救助器具」は欠かせないものである為、その使用法等について書いていきたいと思います。

■資機材

ここで、資機材についての基本的な説明です。各所属で導入されているメーカーは様々だと思いますので、詳しくは各保有資機材の諸元を参考にしてください。

(1)大型油圧スプレッダー

画像 図1 大型油圧スプレッダー

動作原理は、油圧ポンプ等により発生した油圧を、高圧ホースを介して、機具のシリンダー内に送り込み、ピストンを作動させてアームを開閉させるものです。「開く」「閉じる」の2系統の動き。開き能力に関しては20KNのものから1000KNを超えるものまで様々です。最も力を発揮するために、チップ先端から4〜5㎝部分での仕様が原則です。ただし、これも所属で導入されている資機材の諸元を必ず確認して下さい。さらに、先端チップを交換することで、チェーンを取り付けてウィンチのように引き込む作業ができるものもあります。操作ハンドルを「開」に操作すると開き、離すと「中立」の位置で動作も停止。さらに「閉」に操作すると閉じます。

ポイントとして
・先端チップやカップリングの結合や取り付けは確実に行う。
・アーム部分での作業を避け、先端部分で作業する。
・接地部分が小さく不安定となるため、車両等の「持ち上げ」には使用しない。
・収納時は、チップ交換が容易であることと、温度などの影響により、内圧が上がって無理な力がかかることを避けるため、先端を少し開けておく。

 

(2)大型油圧切断機(カッター)

画像:図2 大型油圧切断機

動作原理はスプレッダーと同じ。読んで字の如く、切断するための資機材です。切断能力に関してはこちらも物によって様々ですが、切断刃の中央部分と根元部分では、切断能力が倍近く根元の部分のほうが強いということを覚えておかなければいけません。
スプレッダーと共通する以外のポイントとして
・中央部分よりは根元部分を使用して切断する。
・切断物体と刃先が90度となるようにして、最も持ちやすい位置で保持する。
・刃の材質が炭素鋼材のため、これと同等以上の硬い鋼材で作られているハンドルシャフト、ペダル、ステアリングコラム、スプリング等は切断不可能である。

 

(3)油圧ジャッキ

画像:図3 油圧ジャッキ

油圧ポンプとラムシリンダーを高圧ホースで接続したもので、油圧ポンプの作動により、高圧ホースを介して油圧をラムシリンダーに送り込み、プランジャーを作動させます。1段構造、もしくは2段構造となっており、特に2段構造は1段目と2段目で能力に違いがある場合があるので注意が必要です。また、かさ上げに使用するあて木やレスキューブロックなど、付属で使用する資機材の耐荷重も考慮しないと、そちら側が先に過重に耐えられず破壊されてしまう可能性があります。

さらに上記大型油圧救助資機材すべてに共通した注意事項として、ユニット側の油量の確認を怠らないことが挙げられます。これは、大型油圧救助資機材を全開放(もしくは全伸長)に近い状態に使用する時、可搬式ユニットの油量が減っている場合にユニット側の油が切れ、資機材側にエアーのみが送られてしまうという現象が起こります。この場合、本来資機材が持つ能力が発揮されず、資機材が持つ最大の効果を得ることが出来なくなります。

 

■交通事故救助

 

個人装備

資機材の使用の前にまずすべきこと。それはもちろん二次災害防止措置の徹底です。まずは個人装備(図3・4)。個人レベルでできるスタンダード・プレコーションは当然のこと、安全員の配置や警察との連携による交通の規制を実施してください。その際、車両の部署位置をどうするのかということですが、道路の状況によっては、大きな車両で完全にブロックし活動スペースの確保が出来る停車方法を取るのも二次災害の防止には有効だと思います。この時、ウィンチなどを使用する救助工作車ではなく、警戒放水線を設定するタンク車を用いたブロック駐車が適しています。

画像:図4 個人装備 全身

画像:図5 個人装備 グローブ
グローブはケブラー製。中には感染防止のためディスポグローブ。

エンジン停止の確認、燃料漏れ等の火災発生危険の排除等の実施、さらには、レスキューブロック、救助用支柱器具を用いた車両の転倒防止も必ず行ってください。
さぁ、いざ救出開始…といきたいところですが、どこをどう拡張、切断したらいいか。「とにかく救出」では時間も労力も無駄に消費してしまいます。参考書のようにすべての破壊方法をここで書くことは不可能ですので、破壊に必要なポイントをイラスト(図5)でまとめましたのでこちらを参考にしてください。

画像:図6 主な破壊箇所

併せて、訓練実施時の写真を掲載します。今回はイラストにあるセダンタイプではなく、平成13年式の日産キューブを使用し、特に実施頻度の高いドアの解放(ドアラッチ部分・ヒンジ部分)を実施しました。(図6〜15)

 

■ドアラッチ部分の開放

画像:図7 運転席ドアラッチ部分にスプレッダー先端を差し込む「隙間」の作成

画像:図8 バール等で隙間を拡張

画像:図9 スプレッダーの挿入

画像:図10 拡張してできたすき間にさらに挿入し拡張

画像:図11 ドアラッチ部分が視認できるようになる。この部分はカッターでは切断できないためこのままスプレッダーで解放する。

■ボンネット圧縮によるヒンジ部分の開放

画像:図12 ボンネット部分のある車体は、スプレッダーで写真の部分を圧縮

画像:図13 ドアのヒンジ部分に隙間が形成される

画像:図14 隙間にスプレッダーを差し込む。

画像:図15 カッターを差し込み破壊

画像:図16 ドア離脱完了

このようにクリアな状態での活動は皆無であり、要救助者の状態、人数…様々な要因が救出作業を妨げます。あくまでも一例としてご参考いただけたらと思います。

■最後に

近年、皆様ご存じのとおりハイブリッド自動車や電気自動車など様々な種類の車が登場しています。それぞれの車種に応じた、救出方法を考え、そして何より自分たちの身を守る技術と知識を培っていく必要があります。そのために、今一度皆さんの所属で保有する救助資機材の諸元や性能を再確認していただき、より安全な現場活動の実施に努めていただきたいと思います。


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