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最新救急事情 2000年10月号「熱傷の現状」

最新救急事情 2000年10月号

「熱傷の現状」

熱傷は生体に加わる侵襲の中で最大であり、医療者にとっても最も手の掛かるいやな症例となる。幸い、治療法は長足の進歩を遂げている。

yakedo

事例:北海道江別市

覚知:平成11年9月2日午後14時05分
通報内容:65歳男性、ゴミ焼き中、灯油が身体にかかり胸にやけどを負ったもの。通報内容から、気道熱傷を疑う事例であり、資器材の準備及び屋外であることから搬送手順等打ち合わせをしながらの出場で、通報から7分後の14時12分現着、途上で通信指令から冷却の口頭指導実施の一報を受領する。

現場はかなり広い敷地の施設で、案内人も出てきていない。直ぐに下車し傷病者との接触を急ぐが屋外での発見に至らず、20段程度の階段を登り施設入り口玄関に到着したところ関係者と接触した。傷病者の所在は室内とのことであった。

案内を依頼し、管理人室内の居間に到着、傷病者と接触する。傷病者は通報通りの男性で妻及び関係者の2名により冷却の応急処置がなされており、身体の前面にII度熱傷以上の受傷が確認され、全身が小刻みに震えていた状態であった。

受傷転帰は、午後2時頃、施設周囲のゴミを焼却するため敷地内の焼却炉(200リットルドラム缶程度の大きさ)上部の蓋を開け点火したところ、前日の作業時に使用した灯油が残っていて焼却炉内に気化していたと思われ、一気に炎が上がり受傷、その後自力歩行にて室内(管理人室)に戻り家族の者が救急要請したものである。

すぐに受傷転帰及び受傷範囲、熱傷深度及びバイタルサインの観察を実施する。JCSクリアー、眼球整視位、呼吸30回/分、脈拍橈骨動脈102回/分、血圧足背動脈触診130mmHg、鼓膜温30.0度、血中酸素飽和度98%。観察の結果、鼻毛が焦げており気道熱傷の疑いがあるほか、全身の前面に約30%程度のII度からIII度の熱傷を確認した。水道水にて冷却処置継続、滅菌アルミシート2枚使用し全身被覆し、この際、背面の受傷がないことも再度確認、積載毛布にて保温しスクープストレッチャーにて屋外搬出メインストレッチャーにて車内収容する。室内温度は燃料ヒーターにより確保済み。観察から三次救急医療機関を選定し、14時33分現発、15時03分病院着。

この事例について特に考慮する点は、救急隊員の応急処置の適切さはもとより、一般的に受傷範囲や程度にかかわらず身体機能の老化によりダメージが大きく社会復帰までの時間がかかることも十分考慮した一連の救急活動が要求されることである。気道熱傷が疑われる本事例では、意識がない場合、三次医療機関を選定する前に呼吸管理のため市内の医療機関へ搬送し医師による気道確保などの応急処置が必要となる可能性も配慮しなければならない。

熱傷の治療成績

岩手医大から詳細な報告1)では、熱傷指数10以上の重症熱傷153例について重症度を予後指数(PBI)60以下、61〜80、81〜100、101〜120、121以上に分けて検討したところPBI別の救命率はそれぞれ934%、83%、38%、18%、0%であり、全体での救命率は44%であった。受傷機転では軽傷例では熱性液体によるものが多く、重傷例では火災によるものが多かった。PBIが81以上では重症になるにしたがって受傷1週間以内の死亡例が多かった。死亡例の主な死因はショック期離脱不能症例が45%、創感染や呼吸器感染など感染症に起因するものが44%であった。 合併症熱傷の合併症として醜形、拘縮・四肢切断などの機能障害が問題になる。また、気道熱傷では早期の気道浮腫・窒息に加え、遅発性・進行性の気道狭窄を監視しなくてはならない。症例報告2)では、気管・気管支の瘢痕狭窄、肉芽腫、末梢気管支拡張、肺線維化をきたした。再三にわたって気管拡張術が行われているが、患者はそのたびに窒息の恐怖・手術死の恐怖(拡張術中に大出血→窒息の可能性が高い)と闘わなくてはいけない。さらに見逃せないのは自殺である。自殺企図ではなく火災に巻き込まれた症例であっても、度重なる形成手術・自らの醜形に悲観し自殺を選ぶ症例は少なくない。小児期に熱傷を負った症例では陰性への性格変化が見られる場合もある。

長期的には

小児の体表70%以上の熱傷患者を平均9年追跡した報告3)によると、追跡可能な小児80例のうち1例が熱傷に起因するうつ状態で自殺している。運動機能を評価したところ、機能的に2SD以下の小児は全体の2割であり、ほとんどは通学・就職し、25歳以上の40%は既婚者である。小児の熱傷は小児ばかりでなく家族全体に心理的・経済的打撃を及ぼす。それらに家族が耐えて前向きに治療に傾注できるかが長期予後の因子となる。またリハビリと手術による早期の機能回復、受傷後2年間の定期的な病院受診が予後を左右する。

子供に障害(特に精神)や事故があると離婚に至るケースをよく耳にする。熱傷もしかりである。小児熱傷でも悲観すべきではない3)。

結論
(1)熱傷治療は進歩している
(2)小児患者では家族の結束が大切である

本稿執筆に当たっては、北海道江別市消防本部 佐藤文人 救急隊員の協力を得た。

引用文献
1)岩手医学雑誌 1999;51:69-78
2)日本救急医学会雑誌 1997;8(11):604-612
3)JAMA 2000;283:69-73


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