厳寒地域−北海道留萌市・冬道走行の注意点

 
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救急の周辺

 

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AEMLデータページから引っ越してきました

HTMLにまとめて下さいました粥川正彦氏に感謝いたします


厳寒地域−北海道留萌市・冬道走行の注意点

留萌消防組合消防署
松 本 直 樹

 

はじめに

「出動から帰署するまで決して事故は起こさない」この事を私はいつも頭に置きハンドルを握る。助けに向かう私たちが途中で事故を起こしては何のための救急隊なの
か。
私の勤務している留萌市は、北海道でも特に冬の気象条件の地域であり、冬期間、気温は氷点下10℃以下(地域によっては氷点下30℃)になる上に、日本海から吹き
付ける強風はゆうに10メートルを超える。市街地は坂道も多い上に、路面は圧雪、シャーベット状、アイスバーンとさまざまである。緊急車両を運転するうえでは危険
と隣り合わせの半年間を送らなければならない。私は特に救急出動で患者を収容してからの運転には細心の注意を払っている。

スタッドレスタイヤと運転テクニック

近年、粉塵等の公害問題のためスパイクタイヤが規制されたため車両のスタッドレスタイヤ装着率は99%以上となった。スタッドレスタイヤはスパイクタイヤと違い雪
を削り取る力が弱いため、スタッドレスタイヤによる走行で雪はすぐに圧雪アイスバーンとなってしまう。緊急車両はスタッドレスタイヤは免除となっているが、スパ
イクタイヤ自体があまり生産されていないため購入は大変困難な状況となっている。スタッドレスではスパイクタイヤと異なり雪を削るのではなく吸い付くようにグリッ
プするためタイヤ自体は非常に柔らかく舗装路の上では腰砕け感などを感じるときもあるが走行音自体は非常に静かであるが絶対的なグリップ感をもてないために滑ると
いう危険性が常につきまとう。そのため、急のつく3行為、1.急発進、2.急旋回、3.急制動は絶対に避けなければならない。
重量感のある消防車はさほど気にしなくてもスピードさえ控えめにすれば何とかなるが、軽量な部類の救急車は道路状況や気象状況にとても左右されやすい。当消防本部
の救急車は4000ccのガソリンエンジンに電子制御4段変速式オートマチック(以下AT)、アンチロックブレーキシステム(以下ABS)付きという組み合わせ
の車両である。この車両動力性能は抜群であるがアクセルの踏み加減が意外とシビアで、粗い操作では急発進による衝撃が免れないため、踏みはじめはとても丁寧な操作
を要求される。またATのため突然のキックダウンによる最衝撃やエンジンブレーキの利きが弱いためオーバードライブスイッチ(OD)をカットして通常4段変速のと
ころ3段変速として最衝撃とエンジンブレーキの積極的な活用によるフットブレーキによる減速をなるべく少なくなるように心がけている。また発進に関しては電子制御
ATのため2速(2)によるホールド発進が可能であり(マニュアル車の2速発進と同じ事)、よりゆっくりとした優しい発進が可能である。

路面状況と運転テクニック

雪道には大きく分けて3つの道路状況があるがその境界は特になく混在していることの方が多い。

1)圧雪
圧雪の場合、一番怖いのは車線変更の時である。ハンドルは雪の多い方へ引っ張って行かれる。その深さにより更にアクセルを踏み込んで強引に戻るかアクセルを離して
戻るようにするか、状況に応じて操作する。

2)アイスバーン
積雪と車両の走行によりアイスバーンが形成される。アイスバーンの特徴としては雪温によりスタッドレスタイヤがグリップするときとしないときがあり一般的には雪温
の低いとき(氷点下5℃以下)の方がグリップがいいと感じることが多い。スタッドレスタイヤの走行接地面には無数の小さな気泡による穴が存在する。この気泡がタイ
ヤをより柔らかくし、ブレーキ時などはタイヤとアイスバーンとの摩擦熱により溶けた水分を気泡の中に吸収分散して常に走行面のゴムと雪面が密着するような仕組みと
なっている。氷点下前後のアイスバーンでは融雪のため常に水分がアイスバーンの上に一膜張っている状態となるためスタッドレスタイヤ自体が水分を吸収しきれず、ま
して水の膜の下はアイスバーン(氷)となるため、水分と氷の相乗効果で非常に滑りやすい状況となる。更に同じアイスバーンで同じ氷点下でも除雪車が走行したあとに
は、道路が除雪車により道路の凸凹を削り取られるためにちょうどカンナをかけたような鏡面仕上げとなってしまう。この状態ではスタッドレスタイヤの引っかかるポイ
ントが存在しないため通過する分には何とかなるがいざ操作をしようとすると何も受け付けない状態となる。

3)ブラックアイスバーン
アスファルトの上に積もった雪が昼間に溶けて水となり、気温の低下によりそのままアスファルト上に凍ったものである。構造はスケートリンクのものと同じであり最悪
である。特に夜間においては車や街の明かりでは水も氷もほとんど同じ反射のため、運転をしているとアスファルトが露出しているように見える。実際はアスファルトの
上に氷ができていて非常に危険である。このブラックアイスバーンに対する判断は外気温のチェックをし、経験により大げさに判断した方が良い。水のたまり方によって
は浅い場合もあれば深い場合もあり同じ道路上で混在していることが多い。(水の場合もあれば氷の場合もある。)

自然条件と運転テクニック

ハイテク装備の緊急自動車とはいえ運転するのは人間であり自然の恐ろしさを感じることはよくある。
1)風
圧雪やアイスバーンにさらに海岸線特有の強い風を受けたとき大型で重量級の消防車でさえその車両のハンドル感に違和感を感じることはよくある。まして救急車のよう
な箱形の軽量な車両はその風の影響により容易に車線が変わってしまう。そのような場合、同乗の傷病者に与える心理的な影響も大きいと思われるので特に走行速度には
注意する。留萌の冬期間には横から突然風が吹き付けることがある。その場合には風の吹き付ける方向にさらにハンドルを切ったり、アクセルを少し踏んだりスピードを
少しおとしたりと様々な風に負けない予想をしながら走行する。

2)吹雪
吹雪の時の視界は昼間と夜間、そして車両の大きさによる視線の高さにより違いがある。昼間の場合、運転時の障害としてホワイトアウト(1メートル先でさえ真っ白と
なり右も左もわからなくなる事)や対向車がすれ違うことにより降り積もった雪が巻き上がりやはりホワイトアウト状態となる。夜になるとさらに自分の照射している
ヘッドライトにより目の前の雪を反射してしまい、最悪である。
視界を確保するためには、以下の点が特に重要である。まず、スピードを落とすが止まってはいけない(後続の車両が追突してくる可能性があるため)
次にスノーポールと呼ばれる道路の位置を知らせている矢印の標識を見ながらゆっくりと走行する。

最後に

私の運転テクニックを簡単に記載した。最後に強調したいことは確かに近年スタッドレスタイヤの研究により性能は驚くほど上がってきているし、車両のブレーキシステ
ムや走行補助装置(センサーなどを使用したもの)も改良、実用化されてきてはいるが結局最後の判断をするのは運転手である人間であるその装置に頼ってもいいが過信
しては絶対にいけない。これはどこの消防でも共通の事である。この文章が読者諸兄の参考になることを期待する。


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