パルスオキシメーターの耳朶・鼻・指用のプロープの中で救急搬送に適したプローブは何か

 
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HTMLにまとめて下さいました粥川正彦氏に感謝いたします


目次

研究論文

パルスオキシメーターの耳朶・鼻・指用のプロープの中で救急搬送に適したプローブは何か

旭川市南消防署:著者連絡先:〒070−0037 北海道旭川市7条通10丁目
   川原淳二・玉田伸二・工藤淳一
旭川厚生病院麻酔科
   玉川進

はじめに

 救急隊員の行う応急処置は、患者のいる現場から医療機関に到着するまでの限られた時間で、迅速かつ効果的に行わなければならない。その処置の1つとして、呼吸不全患者(低酸素血症)のモニターとして短時間で正確に動脈血酸素飽和度(以下Spo2)を測定でさるパルスオキシメーター(以下POM)が広く活用されている。

 透過型プローブ(以下プローブ)には耳朶・鼻・指用の3種類がある。POMは末梢循環不全の状態や体動によって測定不能1)となる。また、鼻は血流が豊富で応答性に優れているという報告2)がある。そこで、プローブの種類によって男女に応答性・測定値に差はあるか、発声・体動により応答性は影響されるか、呼吸不全患者に用いた場合応答性に差があるかを調査することによって、救急現場に適する体動に強く応答性に優れたプローブを検証した。

対象と方法 本研究は旭川厚生病院において就業前教育時に行った。

 使用機種は、フクダ電子社製DS−5300・耳朶用プローブ、oxisensorIIN−25・鼻用プローブ、oxisensorIIR−15・指用プローブ、NELLCORDS−100Aである。いずれの実験も耳朶は右側耳朶、鼻は鼻根部、指は右手示指にプローブを装着し3種類の実験を行った。

実験1
 健康な男女10名ずつ(10歳代〜40歳代)を対象とした。被検者には座位で発声と体動を禁じた。プローブを取り付けて手を離した時間をスタートとし、脈波を捉えてモニターに数値が出た時点でストップとして、この時間を応答時間とした。また、最初に表示された値を初測定値とした。

 応答時間・初測定値の比較は男女間で行うとともに、男女の応答時間・初測定値をひとまとめにしてプローブ間の比較を試みた。

実験2
 著者のうち2名(30歳代)を対象とした。Spo2の数値が安定した時点で耳朶と鼻の測定では、発声(アイウエオ)・首振り(1秒で1回左右に首を振る)を、また指については手首を振り(1秒で掌背屈1回)、Spo2が5%低下するまでの時間を測定した。また、プローブの装着感も記録した。

実験3
 集中治療室入室中の呼吸不全患者4名を対象にした。方法は被検者を仰臥位とした以外は実験1と同じ。

 プローブを装着した者が初測定値を読み取り、もう一人が応答時間を計測した。

 数値は平均値で表した。Spo2の測定が不能であった場合には、初測定値=0%で応答時間=60秒とした。実験1での統計処理にはFisherの直接確率計算法、分散分析を用いp<0.05を有意差ありとした。

結 果 実験1の結果を図1に 示す。

図1拡大

男女間の比較で、 耳朶による測定では男性 全員が測定可能であった のに対し、女性は4名が 測定不能であり、男女間 に有意差を認めた(p= 0.05)。鼻による測定では男性3名、女性4名 が測定不能であった。プローブ間の比較では応 答時間は指<耳朶(p=0.0007)=鼻で指の応 答時間が有意に短かった。また、初測定値は 指>鼻(p=0.0033)=耳朶で指の値が有意に高 かった。実験2の結果を表1に示す。

表1拡大

耳朶によ る測定では発声によるSpo2の変化はなく、首 振りではSpo2が1〜4%低下したが、それ以 降値の変動はなかった。鼻による測定では、発 声・首振りとも30秒以内にSpo2の5%以上の低 下が見られ、それ以降測定不能となった。指に よる測定では、若干の脈波の乱れはあるが Spo2に変化はなかった。被検者は鼻による測 定でプローブから漏れる光が視界に入ると不快 感を訴えた。

 実験3の結果を表2に示す。

表2拡大

4例とも鼻によ る応答時間が遅延した。

考 察 実験1での男女の比較で、耳朶による測定では女性のみ測定不能者が4名出た。これは女性の耳朶は男性に比べて表面積が小さくプローブの装着が不確実で、発光素子・受光素子ともに耳朶からはみ出ること、外部から光が入り込み脈波が正確に捉えられないことが原因と考えられる。測定時は耳朶深くプローブを挟み、テープ固定を行い確実に装着し遮光布で覆う必要がある。また、コードが耳元にあり体動により容易に外れるためコードを頬等に固定する必要がある。

 鼻は末梢循環障害でプローブ装着部の拍動が弱く脈波がはっきりしないような場合でも、血流がよく脈波がはっきりしているため末梢循環障害の患者には鼻用プローブがよいという文献3)とは裏腹に、健康な男女で測定した結果7名の測定不能者が出た。鼻骨の影響で光の透過性が低下するためか、その他の影響があるのか今後検証しなければならない。

 指は男女差はなく20名全員が測定可能で応答時間も他の部位より速かった。Craytonら4)は、指は他の部位(耳朶・鼻)に比べて末梢循環不全の場合、最も感度がよかったと報告している。

 実験2での発声・体動を加えた測定では、体動によるアーティファクトを除くには影響の少ない鼻などの皮膚にぴったりフィットする粘着式プローブを装着する1)という文献に反し、鼻は二人とも測定不能となった。声を発すると鼻翼が動くためか、鼻骨に振動が伝わり脈波が乱れるためかのいずれかが原因と考えられる。また、被検者はプローブから漏れる光が視界に入ると不快感を訴えた。耳朶による測定では、首振りで1〜4%の変化が見られ信頼性に欠ける結果であった。指による測定では脈波に変化が見られたが、数値に変化はなく、体動に対して他の部位より信頼のおける結果であった。

 実験3での呼吸不全患者による測定ではPao2100mmHg以上の患者では3部位とも測定可能であったが、Pao2 69mmHgの患者では耳朶で測定不能であった呼吸不全患者でPOMの重要性が高いことを考えると、耳朶でのSpo2測定は勧められない。応答時間は、耳朶で14秒(測定不能者1名を除く)、鼻で32秒、指で6.5秒であり実験1同様、指の応答性が優れていた。

 指用はクリップ式プローブを使用し、耳朶と鼻はディスポーザブル(以下デイスポ)を使用した。ディスポプローブは数千円で1人に対しての連続使用では7〜10日間使用できる1)。しかし、ディスポは3〜5回使用するとテープの粘着力が落ち、測定値に誤差が生じる恐れがある。指用プローブのクリップ式は5万円前後1)と高価だが、ランニングコストがかからない。このことから、ディスポは不経済である。

結 論 救急隊の使用するPOMのプローブは、患者に不快感を与えず体動・応答性に優れ、しかも経済的な指用クリップ式プローブを用いるべきである。【文 献】
1)箕輪良行:パルスオキシメーター.救急医学1995;19(9s):1413−1417.
2)刑部義美,高橋愛樹,兼坂茂他:気管支鏡施工中のパルスオキシメーターの指・耳朶鼻のオキシセンサーの応答性.救急医学1989;13(11):1707−1710.
3)渡辺敏:パルスオキシメーター光で読み取るすぐれ者.看護学雑誌 1995;59(9):858−860.
4)Clayton DG,Webb RKRalston AC,etal:Pulseoximeter probes:A comparisonbetween finger,nose,ear,andforeheadprobes underconditions of poor perfusion.Anaesthesia 1991;46(4):265.


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06.10.28/5:04 PM

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