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200109救急活動事例研究(33)心疾患なのに119番通報時に胸部症状を聴取できない割合は12%以上ある( 姶良市消防本部中央消防署 山路典仁 )

近代消防 2019/12/10号

心疾患なのに119番通報時に胸部症状を聴取できない割合は12%以上ある

山路典仁

姶良市消防本部中央消防署

月刊消防 2019年10月号 p55 『救急救命士としての意識』 執筆 山路 典仁 救急救...
近代消防 2019/12/10号 心疾患なのに119番通報時に胸部症状を聴取できない割合は12%以上ある 山路典仁 姶良市...

著者連絡先

山路典仁(ヤマジノリヒト)

姶良市消防本部中央消防署第二当直隊長

〒899-5241 鹿児島県姶良市加治木町木田2040番地1

電話: 0995-64-3133

はじめに

急性冠動脈症候群(Acute colonary syndrome, ACS)の症状の一つとして胸痛がある。ACS傷病者の搬送先は循環器専門病院が望ましいが、姶良市消防本部管内には循環器専門の受入病院がなく、また大隅肝属地区消防組合にも1ケ所しかない(図1)。高次医療機関への陸送は長時間となり傷病者の予後に影響する可能性があるため、ACSと判断した場合にはドクターヘリの要請(図2)が考慮される。

鹿児島県のドクターヘリ要請はキーワード方式を採用している。循環器該当のキーワードは(1)心・大血管疾患(呼吸不全含む)(2)40歳以上の胸背部痛(3)呼吸困難/息が苦しい/息ができない、と3項目が挙げられている。そこで今回心疾患傷病者において通信指令員と現場救急隊員が認めた胸部症状の傷病者割合を比較したところ、通信指令員が聴取できた割合が有意に低かった。

図1

姶良市消防本部と大隅肝属地区消防組合の位置

図2

鹿児島県のドクターヘリの配置

対象と方法

平成27年1月1日から平成29年12月31日の間で2つの消防本部が扱った全ての傷病者を対象とした。後日返信されてくるプレホスピタルレコードにおいて初期診断名として心筋梗塞、狭心症、ACSと記載のあったものを心疾患と定義した。

心疾患のうち、救急統計システムに備わっているワード検索を用い、キーワードが含まれるものを胸部症状ありとした。キーワードは通信指令員では通報時の「息・呼吸・胸(胸部)」であり、現場救急隊では観察時の「息・呼吸・胸(胸部)」である。これらのキーワードが含まれる傷病者数を比較した。

統計処理はカイ二乗検定を用いp<0.05を有意差ありとした。

結果

対象となった傷病者数を表1に示す。傷病者数は大隅肝属地区消防組合が2倍以上であったが心疾患診断数は400台とあまり差はなかった。

症状を認めた傷病者数を表2に示す。二つの消防本部とも、通信指令員と現場救急隊員の間で胸部症状を認めた数は通信指令員のほうが有意に少なかった(p<0.01)。それ以上に現場観察で視認できる症状として「顔面蒼白、チアノーゼ、発汗(冷汗)、苦悶」などの症状が70%以上で確認されていた。

表1

傷病者数

表2

胸部症状を認めた傷病者数。

二つの消防本部とも、通信指令員のほうが有意に少なかった

考察

ドクターヘリ要請にキーワード方式を採用している鹿児島県においては、キーワードを適切に拾うことが早期の医療介入にとって必要である。だが今回の検討では、通信指令員が胸部症状なし、もしくは聴取できていないとしていても現場では胸部症状を認める例が多いことが明らかとなった。これには二つの原因があると考える。

(1)通報側(傷病者本人と関係者)

苦痛の中もしくは家族が危機的な状況で119通報というやり慣れない情報伝達を行っていること。市民の多くは素人であり傷病者の症状を的確に表現できない可能性が高く、指令員が聞き出さなければ胸部症状の割合はもっと低かったと思われる。鹿児島県ドクターヘリのキーワード方式では通報段階で要請が可能なのは心疾患の36%に留まる。

(2)消防側

通信指令員の認識不足・聞き取り能力の低さと救急資格を持たない職員が通信指令員となっている現状の2つがある。

指令員は通報の些細な内容から「緊急性が高いのでは?」や「○○疾患を疑う」というスイッチをいれなければならない。それは指令員が初動体制を組み立てるブレインだからである。そのブレインを育てるため、各県消防学校で通信指令のスペシャリストとしての専科教育を実施すべきである。既に試験的に実施している先進県があり、また通信指令員のシンポジウムも開催されていることから実現は可能であろう。もし県での開催がまだできないのならばMCとして口頭指導コースなどの開催が望まれる。先例として北九州市では口頭指導技術発表会、大宰府では試験的な口頭指導コースが開催されている。また事後検証などを通じて指導救命士が所属の通信指令員の教育に積極的に加わっていく姿勢も求められる。

救急資格については組織によってやむを得ない状況はある。長期的には全ての通信指令員が救急の資格を持つことが望ましい。

結論

(1)通信指令員が「胸部症状あり」とした傷病者の割合は救急隊員が現場観察で「胸部症状あり」とした割合より有意に低かった。

(2)通信指令員が胸部症状に関連するキーワードを適切に聞き出す方策について論じた。

ここがポイント

冠動脈症候群のうちの急性心筋梗塞について、2018年のガイドライン 1) から有益な部分を抜粋する。

(1)急性心筋梗塞の発症率

この20年間は横ばいである。性別では女性は直近の10年間で減少し、男性に関しても研究によっては減少しているという報告がある。だが、年齢を見ると70歳以上の急性心筋梗塞発症率は減少しているのに対し、59歳以下の若年者の発症率は増加している。若年者の心筋梗塞は社会に与える影響が大きいため、早期の判断・診断・治療が必要である。

(2)胸痛について

典型例では判断が容易であるが、非定型的な痛みは高齢者、糖尿業および女性でしばしば見られる。特に高齢者では全身倦怠感や食欲不振が心筋梗塞の症状である場合があり注意を要する。

強い痛みは半数に見られるものの、症状の強さと重症度は必ずしも一致しない。男性では冷や汗が多く、女性では嘔気、嘔吐、呼吸困難を訴えることも覚えておきたい。

(3)救急隊の役割について

・血圧が維持されているなら、患者が硝酸剤を使用するときに補助する

・12誘導心電計があるなら記録し病院へ通知することでカテーテル治療までの時間を短縮できる

1)日本循環器学会、他:急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)。2019年6月1日更新

自己紹介(プロフィール)

【氏名】山路典仁(ヤマジノリヒト)

【所属】姶良市消防本部中央消防署第二当直隊長

【出身地】鹿児島県姶良市

【消防士拝命年】平成6年4月1日

【救命士合格年】平成14年11月26日登録

【指導救命士】平成28年6月9日修了

趣味:仲間たちと呑みながら語り合うこと

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