近代消防2018年10月号p116-20
今さら聞けない資機材の使い方(65)
自動体外式除細動器
目次
1.はじめに
今回「今さら聞けない資機材の使い方」で自動体外式除細動器を紹介することになりました岩見沢消防署の蔵谷陽介です。
私は救急救命士の資格を取得後、平成24年4月に消防吏員となりました。拝命7年目となり指導的立場となりつつありますが、まだまだ自身の知識と技量のなさを日々痛感しているところです。そんな中このような執筆の機会を与えて下さった諸先輩方に感謝致します。
私が所属する岩見沢(いわみざわ)消防署は岩見沢市及び月形(つきがた)町(ちょう)を管轄し約8万6千人の安心、安全を担っています。昨年には庁舎が移転新築され、新庁舎となりました。高機能消防指令システムの導入により出動までの時間が短縮され、いち早く現場に駆けつけることが可能となりました。さらに地上5階建ての広々とした庁舎と訓練棟やトレーニング室の完備など技量の向上を図る上で最適な環境となり、さらなる災害に備えることが可能となりました(写真1)。
写真1
2017年に新築された岩見沢消防署
近年、救急件数は高齢化に伴い増加の一途をたどっており、心肺停止事案も多くなっていると感じています。今回ご紹介する自動体外式除細動器は心肺停止事案には欠かすことのできない資機材です。当救急隊では日本光電の半自動除細動器を使用していますが、その種類は様々であり消防機関によって異なるかと思います(写真2)。今回はどの除細動器でも共通して考えられることを中心に紹介していきます。また一般市民が使用する自動体外式除細動器(AED)にも共通していることも含まれているため救急講習など、指導の仕方を再確認する上でも役立てていただければ幸いです。
写真2
販売されているAEDの例
2.除細動器とは
除細動器とは心臓に電流を通電させることにより、心室細動または無脈性心室頻拍を取り除き、洞調律に戻すことを目的とした機械です。除細動器は医師が使用するマニュアル式除細動器や植込み型除細動器と自動体外式除細動器に分類されます。さらに自動体外式除細動器は非医療従事者が使用するAEDと救急救命士などが使用する半自動式除細動器に分類されておりモニター画面の有無や解析開始のタイミングなどに違いがあります(写真3)。救急救命士は心電図波形が確認できる除細動器を使用し、傷病者の脈や呼吸の状態を必要に応じて確認するとともに心電図の最終波形を確認した上で除細動を実施することが求められています。また救急救命士は解析のタイミングを選ぶことができる半自動式除細動器を使用することが望ましいとされています。
心停止の心電図波形は心静止、心室細動、無脈性心室頻拍、無脈性電気活動の4つですが、このうち心室細動と無脈性心室頻拍が除細動の適応波形となっております(写真4)。この2つの波形を洞調律に戻すには心臓に電気ショックを与える他なく、除細動器は救急現場にはなくてはならない資機材となっています。
写真3
除細動機の分類
写真4
心停止の心電図波形。
左上:心静止
右上:心室細動
左下:無脈性心室頻拍
右下:無脈性電気活動
このうち除細動の適応となるのは右上:心室細動と左下:無脈性心室頻拍の二つである
3.除細動パッドを貼る際に気をつけること
除細動パッドを貼る際に気をつけることについて説明致します。パッドを貼る際は濡れや体毛、貴金属、ペースメーカー、貼付薬などの注意点は皆さんご存知かと思います。しかしその正しい対処法と理由については悩む方も少なくないのではないでしょうか?
(1)体が濡れている場合。
水は電気をよく通します。ですので水中では除細動を行ってはいけません。ですが水溜の上やプールサイドで倒れている場合、お風呂から引き上げて全身が濡れている場合などは使用することができます。ただし、1つ注意点があります。パッドを貼り付ける部分の水を拭き取りしっかり密着させることです(写真5)。このことさえできれば安全に除細動を行うことができます。もし水を拭き取らずに貼ってしまった場合は電気は水に伝って体表面へ流れ、本来の除細動の効果が得られなくなってしまいます。それだけでなく水溜りを介して救助者と繋がっていた場合は感電の危険さえ考えられます(写真6)。
写真5
パッドを貼り付ける部分の水を拭き取りしっかり密着させる
写真6
水溜りを介して救助者と繋がっていた場合は救助者が感電する可能性がある
(2)体毛がある場合
パッドが体毛により密着できなくなってしまっている場合は正しく解析ができなくなることや、放電できたとしても放電エネルギーによりその部分で熱傷を負ってしまったり稀に発火する危険があります。大事なのはパッドを密着させることです。体毛を避ける、除去するなどの対処(写真7)を行いましょう。
写真7
パッドは体毛を避けて貼る
(3)貴金属を身につけている。
身につけている貴金属を全て取り除く必要はありません。パッドさえ体に密着していれば問題はないです。もし貴金属を挟んでパッドを貼ってしまった場合は正しく解析されなくなることや、放電時に放電エネルギーにより熱傷を負ってしまいます(写真8)。貴金属を挟まないようパッドを貼る際は注意しましょう(写真9)。
写真8
貴金属を挟んでパッドを貼ると放電時に熱傷を負う
写真9
貴金属を避けてパッドを貼る
(4)ペースメーカーを留置している。
ペースメーカーがある場合はその直上にパッドを貼ってはいけません。直上に貼ると心臓に伝達されるはずの電気ショックがペースメーカーにより遮断される可能性があるので直上を避けてパッドを貼る必要があります(写真10)。
写真10
ペースメーカーがある場合はその直上を避けてパッドを貼る
(5)貼付薬を使用している。
貼付薬を使用している場合もペースメーカーと同様に電気ショックが遮断される可能性と熱傷を負ってしまう可能性があるため、貼付薬を避けてパッドを貼るか、貼付薬を剥がしその部分を拭き取ってから貼るようにしましょう(写真11)。
写真11
貼付薬を使用している場合は、貼付薬を剥がしその部分を拭き取ってから貼る
4..心臓を立体的に捉える
パッドを貼る位置は右上前胸部(鎖骨下)と左下側胸部(左乳頭部外側下方)を原則とし、状況によっては全胸部-背面、心尖部-背面、側胸部-側胸部など、心臓を挟むような部位を選択しても良いとされています。もし写真12のように貼ったとしたら電気は体の表面を流れてしまい除細動器本来の効力を発揮できなくなってしまう可能性があります。大事なのは心臓を表面的ではなく立体的にパッドで挟むことです。
写真12
心臓を表面的ではなく立体的に捉えてパッドで挟む
5.除細動を行う際の注意点
(1)救急車内で行う際は揺れ等で間違った解析が行われないよう解析の段階から停車させて行う(写真13)
(2)感電の危険があるので実施者と周囲の人が患者や患者に接続されている装置やコード類に触れていないか確認をする(写真14)
(3)酸素を使用している資機材は発火防止のため遠ざける(写真15)
(4)適応波形かどうか最終確認をする(写真16)
(5)包括的指示下で行う際は地域プロトコールに定められた除細動回数の範囲内であること
(6)除細動に成功していても通電直後は心静止やPEAを示すことが多いこと、また、通電時間は0.002~0.005秒なので除細動後はすぐに胸骨圧迫を再開する必要がある。
写真13
心電図解析中は停車させる
写真14
感電の危険がないか確認する
写真15
酸素を遠ざける
写真16
適応波形かどうか最終確認をする
6.その他留意事項と保守管理
救急現場で素早く使用するため日々の点検を怠らないようにすることが大切です。バッテリーの充電はあるか、記録用紙はあるか、時刻は合っているか、記録用のメモリーカードは正常にセットされているかなどを点検すること(写真17)、動作チェック機能がある機種はそれを活用しながら(写真18)日常点検を実施することも大切です。また、救急現場で除細動を使用した後は疲労もあり点検ミスのリスクも上がります。自身で何を点検する必要があるのかルーチン化しておくことも大切だと思います。
写真17
日々の点検を怠らないようにすることが大切
写真18
動作チェック機能がある機種はそれを活用する
7.おわりに
今回は自動体外式除細動器について説明させていただきました。冒頭でも述べたとおり除細動器は心肺停止患者には欠かすことができない資機材です。今回ご紹介した内容は一部分にしか過ぎず、除細動器の機能、注意点は他にも多くあります。
命に関わる仕事をしている者として資機材の機能や使用方法を習熟し資機材を最大限活用させ命を救う事に全力を尽くすことをいつまでも大切にし日々精進していきたいと思います。
プロフィール
名前 蔵谷 陽介
かな くらや ようすけ
出身 余市(よいち)町(ちょう)
所属 岩見沢地区消防事務組合 岩見沢消防署
拝命 平成24年
合格 平成24年
趣味 ドライブ 旅行
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