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100824Discovery and Experiences 経験から学べ!(第3回)状況評価



100824Discovery and Experiences 経験から学べ!(第3回)状況評価

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Discovery and Experiences 経験から学べ!

第3回

状況評価

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Discovery and Experiences 経験から学べ!

講師

栗栖 大(くりす だい)

所属:函館市消防本部
年齢:33歳
趣味:ゴルフ(最近ご無沙汰になってしまいました)
消防士拝命:平成9年
救急救命士資格取得:平成9年
JPTEC Instructor
ICLS 日本救急医学会認定 Instructor
DMAT


状況評価(第3回)

 状況評価とは

 前号では,救急活動の安全確保に着目した状況評価を綴った。それが状況評価の全てではなく,他にも留意すべき点が多数存在すると考える。今回は,直接傷病者のもとに赴く救急隊員だからこそ知り得ること,感じられることに主眼をおいて綴っていきたい。

 ひと言に「状況評価」と言っても様々な要素があり,ここで紹介するには限界がある。ぜひ,状況評価を綴った2号を通じて職場内で話し合い,新任救急隊員は先輩救急隊員から多くのことを聞き出すきっかけとしてほしい。その結果,一挙動ごとに現場状況を把握,評価して救急活動を円滑に遂行できる救急隊員を目指すことができるだろう。これこそ,我々救急隊に求められていることの一つであると言える。


ケース1

 8時31分「82歳女性,ベッドで鼾をかいて寝ている。呼びかけに応答しない。隣人からの通報。」との指令にて出場した。

図1
傷病者宅進入時

 現場到着時,傷病者宅である共同住宅前の路上に隣人が手を振って救急車を誘導していた。誘導に従い部署,誘導員から「こちらの2階です。発見した者は部屋にいます。」と聴取しながら傷病者宅玄関に至った。玄関ドアを開けると3足の靴が乱雑に脱ぎ捨ててあり,その他の靴は下駄箱に整理整頓され収納されていた。同時に3名の女性が居間に立っているのを発見,状況評価の結果,全員が隣人であることが判明した。さらに状況評価を継続,居間を通り寝室ベッド上に仰臥している傷病者と接触(図1),

図2
傷病者接触時

図3
傷病者の枕元

台所および居間は綺麗に片付けられており,傷病者には掛け布団が真っ直ぐな状態で掛かっていた(図2)。枕元には,サイダーのペットボトルおよび飴玉が置かれていた(図3)。

 室内にいた隣人に確認すると「本人は独居である。今朝,姿が見えなかったため,近くに居住している大家から鍵を借用し訪問,鼾をかいて呼びかけに反応しない状態を発見,119番通報した。」と聴取した。


 誘導員は発見した通報者に救急車を誘導するよう頼まれたのみで詳細情報は把握しておらず,救急車から傷病者宅に至るまでに状況聴取を試みるも,情報入手には至らなかった。該当共同住宅は築40年以上経っていると思われる建物であったが,家の中は綺麗に整理整頓され,第一印象では傷病者の潔癖な性格を感じた。しかし状況評価を継続すると生活感が感じられず,自宅内において食事を摂っているのか判別できなかった。さらに薬や診察券等,掛りつけ病院を知り得るものが存在しない状況であった。観察のため布団を捲ると大小失禁が確認された。

 医師による初診時の傷病名は脳梗塞であった。現場での観察結果は意識レベルJCSⅢ−100であり,痛み刺激による左右差を認めた。さらに顔貌は右口角下垂があり,流涎も視認された。

 ケース1の検証

 傷病者宅に進入した時,玄関に脱ぎ捨ててあった靴と中にいた3名の人影に気がついた。外部から来たことは容易に想像できたが,傷病者との関係が疑問であった。確認すると隣人であることが判明した。その時点で誘導員と同様,情報収集は困難と判断し,活動方針を救急隊による室内の状況評価および傷病者観察優先に切り替えた。さらに観察を進めると,台所および居間のテーブルには食事を摂った形跡がなく,枕元にはサイダーのペットボトルおよび飴玉が置いてあり,薬の空シート,アルコールの空き缶等は確認できなかった。これらの状況から分析し,低血糖による意識障害を強く疑った。このような先入観を抱きながらの活動が状況評価の観察範囲を狭めてしまう要因となったと考えられる。

 実際,救急車内収容後の病院連絡では多くの情報をもたらすことはできず,脳外科対応できない二次輪番病院へ受け入れを要請した。その後,搬送途上の救急車内で瞳孔所見,痛み刺激による反応を確認,搬送先医療機関を変更し,脳外科対応可能な医療機関へ搬送した。さらに病院到着後,医師から最終健常時刻を確認されたが,現場では詳細情報の確認をしていなかったために,不明である旨の返答をせざるを得なかった。

 現場活動を振り返ってみると,因果関係は不明であるが,毎朝顔を合わせないと心配で様子を見に行くほどの関係である隣人が存在していた。傷病者について知り得る情報をもっているか確認することが重要であった。明確な回答がなくても,何らかの情報提供を得られた可能性があった。

 他にも,出場時間および隣人の聴取事項から考察すると,常日頃8時半前には顔を合わせている隣人関係である。この時間帯にベッドの中で意識消失した状態で発見されていることから,就寝中に発症したことが強く疑われる。枕元には,低血糖に対応できるようペットボトルや飴玉を用意してあったが摂取した形跡はなく,低血糖発作以外の病態も疑わなければならない要素が存在していた。

 状況評価は時として,その後の救急活動に強く影響を及ぼすものである。今回のケースは,その典型的な例であろう。現場に赴く救急隊員だからこそ,様々な視点で状況を評価し,決して先入観を抱くことなく判断することが求められると考える。


ケース2

 16時50分「80代の男女各1名,家の中で倒れている。訪問した家族からの通報。」との指令にて出場した。

 現場到着時,玄関内は物品が散乱,さらに居間に目を移すと仰臥している高齢の男女各1名がいて,その傍らに家族が座っている状況であった。居間にも物品が乱雑に放置され,足の踏み場がない状態であり(図4),

家族から「最近様子がおかしかったため,毎日訪問している。本日訪問すると,両親が居間に横たわり,呼びかけても返答がないため救急要請した。また,父は鬱病のような症状が出始め,病院を受診するよう勧めているが応じてもらえない。」と聴取した。傷病者は開眼し顔色および顔貌にも異常所見は認められなかった。呼びかけでも反応はなく,ただ一点を見つめているように見受けられた(図5)。

若干であったが,室内には塩素臭のようなものが感じられ,さらに傷病者の口臭からも確認された。周囲検索の結果,散在した物の中から液体塩素系漂白剤の空容器(図6)および自損行為を示すメモが発見された。


 出場指令から当初,急病事案であろうと強く疑って現場に至った。現場到着時の玄関および室内の様子から,急病以外の可能性もあると隊員間で活動方針を共有しながら救急活動を開始した。家の中に内部進入した時点で若干の塩素臭に気がつき,家族から「父は生きている意味がない,迷惑をかけて申し訳ないと頻りに繰り返している。母は認知症が進行し,その介護をしている父も疲労感が極限に達しているようだった。介護を手伝うことを申し出たが頑なに拒否され,対応に苦慮していた。」と追加聴取した。

 結果として,両傷病者ともに液体塩素系漂白剤を多量に飲み,自損行為を図ろうとしたものであった。搬送先病院にて同漂白剤に対する処置を終えた後,精神科医療機関へ両名とも転院された。

ケース2の検証

 出場指令から現場に至るまで,指令内容による状況評価を実施し活動方針をある程度決定した。しかしながら,現場へ到着後に指令内容からは察することができなかった状況を視認,状況評価を再度実施し活動方針を変更した。このことから導き出されるのは,活動中,常に状況評価を繰り返し行うことが肝要であるということだ。隊員間での情報共有は必須であり,結果として的確な救急活動を成し得ることにつながる。また,3名の隊員がそれぞれ状況評価を行い,それを共有することは重要な情報の見落としを少なくすることにもつながると考えられる。

 また,今回のケースにおいて,先行した隊長および隊員が感じた塩素臭により,周囲の検索,そして空容器および自損行為を示すメモを発見するに至った。さらに,このメモには液体塩素系漂白剤を飲んだ旨の記載があり,要因確定となった。
現場で状況評価した救急隊員だからこそ知り得る情報であったことは言うまでもなく,現場で塩素臭を感じなければ次の活動を導けずにいたと思う。これらの確定要因を医療機関へ持ち込むことができなければ,初療の第一歩が遅くなった可能性も否定できない。


ケース3

 15時04分「7歳男児,机に頭部を打撲したもよう。母親からの通報。」との指令にて出場した。出場途上,指令員から車載携帯電話に「子供が遊んでいて机の角に頭部を打撲したとの通報内容だったが,電話の応対が非常に落ち着いていた。少し違和感があったので情報提供する。」旨の追加情報が送られた。

 現場到着時,母親が玄関で出迎えてくれた(図7)。

傷病者の場所を聞くと,奥の自室にいるとの返答を得た後,内部進入し接触した。傷病者に受傷時の状況を聞くも全く返答がなく(図8),

母親から通報内容と同様の内容を聴取した。他に外傷がないかと胸部を触診すると,傷病者は痛がる仕草をしたが,母親から大声で「余計なことはしないで早く病院へ連れて行って。」(図9)と,先程までの落ち着いていた姿とは一変した。

さらに部屋を見渡すと,脱いだ服が散乱し,布団および枕は黄ばんだ状態,壁には無数の穴があった。傷病者の容姿は,真夏であるにも関わらず長袖Tシャツ,長ズボンを着用し靴下も履いていた。


 傷病者の荒れた部屋と着用していた新品同様の衣服,救急隊を迎えた時の落ち着いた母親の姿と傷病者の胸部を触診した時に突然大声をあげた母親の著しい態度の豹変に違和感があった。隊員1名が母親から詳細情報を聞きたいと聴取している間,母親に救急車内でモニター類を使用し,傷病者の観察をしたい旨を説明,母親の了承が得られ傷病者を早期に母親と分離し自宅から搬出した。

搬出途上,傷病者へ再度受傷時の状況を聞いたところ,母親に聞こえない程度の小声で「母親に殴られて倒れ,木の柱に頭部を打撲した。」との訴えを聴取した(図10)。救急車内へ収容,母親の不搬送への意思変化も考えられることから,傷病者からその他の追加情報を聴取する前に病院連絡優先と判断,受け入れの確認を取り,後から来た母親に頭部を打撲したので脳外科対応可能な二次医療機関へ連絡し受入可能と返答を得ている旨を説明,搬送中の詳細観察は行わず,早期に病院へ到着した。

 その後,傷病者のみ急患室へ収容,母親は看護師の誘導で待合室へ向っていた。医師へ現場の状況および母親から聴取した受傷機転,傷病者から聴取した受傷機転を申し送り,それ以上の詳細な観察は実施せず病院への搬送に専念した旨を伝達した。

 医師による初診時の傷病名等が記載された搬送確認書には,児童虐待,全身打撲と記載されていた。

ケース3の検証

 通常,小児対応救急事案では両親を救急活動に協力させることが重要と考えられている。出場途上,指令員からの「通報者である母親電話の応対が非常に落ち着いており,違和感がある。」との支援情報により,現場での状況評価に広がりができ,早期に母親と傷病者を離す判断に至り,以後の救急活動方針に大きな影響を与えた。病院搬送することを第一優先と考え,母親の不搬送への気変わりに配慮した。また,今回は稀なケースで傷病者から事実であろう受傷機転も聴取できたため,それも救急活動に影響を与える要因のひとつとなった。

 現場で傷病者,その家族や関係者だけではなく,生活環境等に直接接触できる救急隊員だからこそ,それらを感じ取り,搬送先医療機関へ情報提供することが可能である。これらの情報がなければ,通常の診察・治療のみで帰宅させる可能性も否定できない。

 ただ,こういった救急事案への対応には,注意すべき点も多く存在する。初動から先入観や疑いをもって活動を開始することは,救急隊員に対する信頼を得ることに至らず,傷病者の病院搬送すら断念しなくてはならない状況に陥る。さらには両親が潔白であれば,名誉棄損となる危険性がある。先入観は持たず,白紙の状態で状況を把握し,早期に察することができる能力が必要となる。

 実際には,今回のケースのように明確な判断を下すことができない場合もある。搬送先医療機関へは確定的情報がない限り,疑わしい要因が存在したことを付け加える情報伝達が望ましい。

まとめ

 提示した3つの事案から導き出されるものは,現場に行く救急隊員のみが知り得る情報が多く存在しているということだ。それらを適切に評価し,搬送先医療機関の選定や医療機関での情報提供につなげることができれば,傷病者の初療に大きな効果を与えることとなる。傷病者にとって,非常に重要な部分を担っていると認識すべきである。

 ケース1は,先入観を持って状況評価を行ったために,結果として搬送先医療機関の変更が必要になったもの,ケース2は現場活動中,常に状況評価を行い活動方針の変更が決定的原因を発見するに至ったもの,ケース3は指令員からの情報により,救急隊員が現場において早期に違和感を察知し,適切な搬送に至ったものであった。

 救急現場のように迅速性が求められる中,短時間で状況評価を行うことには限界がある。しかしながら,現場に出場した小隊の各救急隊員が,それぞれ状況を評価し,評価内容を共有することができれば,より多くの情報が得られた中での救急活動が可能となる。また,先輩からの経験談や日常の訓練等で一挙動の中で多くの情報収集ができるようになることも大切である。

 傷病者が発生した現場を直接的に垣間見る救急隊員の状況評価能力の向上は,医学的知識の向上や救急救命技術の向上と同等の重要なスキルアップ項目と考える。


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10.8.24/1:49 PM

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